帝国の現体制をわたしは破壊します
「な……!?」
驚愕に目を見開くヴェパル。一方でリリムは悲しい瞳でその剣を見る。
リリムは素手のまま無造作にその剣を掴んだ。彼女の首筋に傷ひとつ付けられなかったその剣はやはりリリムが掴んでも何の傷も与えない。
「この剣は――」
リリムは赤い刀身を掴んだまま剣を無造作に振った。剣の柄を握っていたヴェパルもそれにともなって振られたが、そのあまりの勢いに掴み続けることはできず、振られた勢いで貴賓室の外へと飛ばされた。
コロシアム全体が揺れるのではないかという衝撃のあと、コロシアムの中心には直径十メートルにもなる大きさのクレーターが出現した。
「な、何が……げほげほっ」
それでもたいしたダメージを受けていないのは、さすが魔王一族と言ってもいいだろう。這々の体でクレーターから這い上がってきたヴェパルの前に軽やかに何者かが着地した。
言うまでもなくリリムである。
リリムは正面のヴェパルを冷たい瞳で見下ろすと、
「この剣は、あなたごときが持っていい物ではありません」
リリムは赤い刀身の剣の柄を持つと、勢いよく振り下ろした。
赤い剣は勢いよく燃えだし、その剣の真の姿を現した。
「魔剣“ソウルファイア”。これはアガリアレプト様のものです」
「だが今は妾のものだ。これは妾の戦利ひ――ぐぶっ……!」
リリムが腹を蹴り、蹴られたヴェパルはその勢いですでに無人となった観客席の中に突っ込んだ。
「ぐうっ……。どうしてこの妾が……」
気がつくとヴェパルの目の前にリリムが立っていた。右手には燃えさかる炎の剣。
「使いこなせもしないくせに、なにが自分のものですか」
「つけあがるなよ、人間。皇女である妾に手を上げたのだ。ただで済むとは……ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
リリムが無造作にソウルファイアを振り下ろすと、ヴェパルの左手が吹き飛んで瓦礫の上に落ちた。炎が瞬く間に傷口を焼いて出血こそなかったものの、ヴェパルは腕を切り落とされた痛みでのたうち回るしかない。
「何が皇女ですか。正統なる魔王の証も持たず、あまつさえその資格ある方を嫉妬のあまり謀殺したあなたに生きている価値はありません」
「な、ならば殺すというのか……。いいのか? 妾を殺すということは、帝国すべてを敵に回すということだぞ」
その脅しにもリリムは全く怯むことがない。
「アガリアレプト様の意志を継ぐと決めたときからとうにその覚悟は決めています。帝国の現体制をわたしは破壊します」
「くく……くくくくくく……」
ヴェパルは左の肩に手を当てながら笑った。
「貴様に何ができる? 人間にしては多少腕が立つようだが、貴様一人ではこの街の軍にすら打ち勝つことはできず、潰されるのは目に見えておるわ」
「ならば、試してみましょう」
リリムは、あらかじめポイントで買収しておいたコロシアムの職員とすべての奴隷戦士、すべてのこの街にいて不満を持つすべての者たち、そしてヴェパル自身に対して話しかけた。
――時は来ました。今こそ決起の狼煙を上げるときです。今こそ立ち上がりましょう。
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