やはり、そういうことですか……

 ――いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、いたい。


 リリムが意識を集中させると、その悲鳴はさらに大きく、鮮明に聞こえてくるようだった。


 ――どこが痛いのですか? どうすればその痛みは治まるのですか? 答えてください!


 魔力を使って相手に直接言葉を届ける技術があると〈魔王因子〉によってもたらされた知識にあった。

 リリムはその知識をもとに、狼に向けて話しかけてみるが、返事はなかった。


 リリムにはあの声があの少年のものである確信があった。彼自身の声を聞いたことはないが、あの狼は今もあんなに苦しんでいるではないか。


「どうすれば……特に怪我をしているわけでもないので、治癒魔法は使えないですし……」


 今も光線を防ぎながら、リリムは必死に打開策を考えた。気を抜けば安易な解決策に身を委ねてしまいそうな自分を叱咤しながら。狼を、そして観客たちを救う術を探す。


「何が彼に痛みを与えているのか……話はそこからです」

 リリムは今も暴れ回る狼をじっと観察した。見たところ外傷はなさそうだ。そうすると病か何かだろうか。


 しかし、とリリムは考える。何らかの病に冒されているにしては狼自身にパワーが溢れすぎている。

 滅茶苦茶に暴れ回り、今も強力な光線を連続で放ち続けている彼に病で弱っているとはとても考えられない。


 むしろ、有り余るパワーを放出しているようにも――


「それです!」

 リリムは目に魔力を集めてじっと目を凝らし、狼の方を見た。

 魔力の流れを感知できるようになったリリムには狼の身体を流れる魔力の動きが手によるようわかった。


「やはり、そういうことですか……」

 狼の全身を流れる激しすぎる魔力の流れ。それが彼の身体を暴れ回り、彼に苦痛をもたらしていたのだ。


「グワァァァァァ……!」

 狼はもはや今自分自身が対戦中だということも忘れて苦痛にのたうち回り、苦し紛れに口から光線を発している。


 それを鎮めることこそ彼を救い、今も破壊に晒されている観客たちを守る唯一の手段だ。

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