マジで恐れ入ったぜ

 リリムは、今しがたオークを払いのけた左手をまじまじと見つめた。


 間違いなく自分の手だ。もう一度手を開き、閉じてみるが思い通りに動く。

 リリムは試しにその握ったままの拳を自分が横たわっている石畳にそのまま叩きつけてみた。

 拳は石畳を砕き、そのまま石と石の間に埋まって止まった。


 続いて上体を起こし、自分の身体を確認した。どうやら、何かされたわけではなさそうだ。ならばよしと切り替える。


「あんた、すげぇなぁ!」

 そんなことをしているうちに、いつの間にか軽薄そうな小柄な男がリリムの所に来ていた。彼女を囲むように十人くらいの男たちが集まっていた。


「あの『醜面のダグダ』を一撃かよ! マジで恐れ入ったぜ。いやぁ、あいつはこの第二十三番収容部屋の中では一番強くて凶悪でさ、誰も手出しできなかったんだよ。いやースッキリした!」


 軽薄そうな男――その身体の大きさからするとノームだろうか――はリリムのつまらなそうな顔に気づいていないのか、なおも一方的にまくし立てる。


「さっきもさ、ダグダがあんたを襲おうとしてたのはわかってたんだけどさ、怖くて誰も助けられなかったんだよ。わりぃな」


 うそばっかり。自分もあとでおこぼれをもらおうと思ってたくせに――とリリムは思ったが、それを口にすることはなかった。今自分の置かれている立場がわからない上にこの狭い収容部屋とやらの中でむやみに敵を作る必要もないと判断したからだ。




「殺しちゃダメよ。それはもうアタシのものなんだから」




 意識を失う前に第一皇女のヴェパルがそう言っていたのを思いだした。


 ならば、ここはヴェパルが管理する建物なのだろう。

 思ったよりも早く行動に移せるかもしれない。リリムはじっとそのタイミングを待つことにした。

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