か、介抱してや、やったんだ

「お? おぉ! き、気がついたのか、よかったよかった」

 オークの男はぱっと醜い顔を歪ませた。おそらく笑顔のつもりなのだろうが、置かれている状況も相まってリリムには嫌悪感しか抱けなかった。


「お、おめぇがち、ちっとも目を覚まさないからさ、か、介抱してや、やったんだ」

 オークは取り繕うように早口でまくし立てる。


「なるほど……」

 リリムが赤い瞳で睨みつけるが、オークはそれに気づいているのかいないのか、たじろぐ様子は全くない。おそらく、最下層の人間の女ということで甘く見ているのだろう。


「んだ、んだ。なーんも悪くないようで、よ、よかった」


「わたしの記憶が正しければ、『介抱』とは傷病者の世話をすることとあるんですが」

「ショウビョウシャ? お、おで、バカだから難しいことはよ、よくわかんねえんだ。でも、おめぇを心配していたのはほ、本当だ?」


「ほう……」

 リリムの目が細くなる。


「ならば……」

 今も石畳の上に横たわる状態のリリムは、見たくもなかったが視線を自分の足の方へと動かしていった。


 そこには、身体の感触と同じ光景が広がっていた。


「ならば、あなたはどうしてわたしの服の裾に手を突っ込んで、わたしの下着に手を掛けているのですか?」


「ん? んんん~?」

 リリムの指摘にオークはそれまで以上に大きく、そして醜く顔を歪ませた。作り笑顔ではなく、本物の欲望に歪んだ顔だ。


「そりゃもちろん……」

 リリムの両足の間で上半身を起こしていたオークががばりとリリムに覆い被さってきた。


「おめぇとイイコトするためだぁ~」

 と同時にリリムの胸に手を伸ばした。


「やめてください」

 リリムはその手を払いのけようと無造作に手を動かした。


 次の瞬間、オークが自分から飛び退いたと思えるほどの勢いで横方向にすっ飛んでいった。

 直後に鈍い音とガラガラと何かが崩れる音。


 リリムが音のした方を見ると、先ほどのオークがその巨体を石造りの壁に頭から突っ込んでいて、ぴくぴくと足を震わせていた。


「……………………」

 リリムは、今しがたオークを払いのけた左手をまじまじと見つめた。

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