この手で掴んでみせます
知らない天井ですね……
『こんな世界は間違っている! 誰かがやらないのなら……俺がやる!』
『魔王のための帝国ではない。帝国のための魔王だ。はき違えるな』
『なんだってやる。たとえ愚王と言われようと余の理想を邪魔させたりはしない』
『俺は他には何もいらない。この剣だけでいい。さらばだ』
『魔を究め、その力で世界を豊かにする。それが私のやり方さ』
『賢者だなんて買いかぶりすぎさ。おれはただ……この世界に対して真摯であるだけだ』
『お前はどう思う? この世界の歪みを。〈魔王因子〉の呪いを』
『私はね、リリム。世界すべての民が皆平等に幸せに暮らせる世界を作りたいと思っているんだ』
『この世界のことはこの世界の人に任せるべきだ』
・ ・ ・
次に気がついたのは見覚えのない、石造りの部屋の中だった。
(知らない天井ですね……)
そんなことを考えながら、リリムは油断なく状況を確認する。
リリムが今横たわっているのは天井も床も粗末な石造りの部屋だ。天井はそれほど高くない。
自分の身体の状況を確認する。痛みは感じられない。視覚、聴覚に異常は感じられない。
指を一本ずつ曲げ伸ばししてみる。問題なし。
自分の名前、直前の状況を思い出してみる。問題ない。主を謀殺された燃え上がる怒りは些かも失われていない。復讐の気持ちも。
城の晩餐の間で近衛兵達に突き刺された傷跡はいつの間にか消えていた。ここに運び込まれる際に魔法による治療が成されたのか? いや――
「で…………」
そこまで確認した所で、いよいよ我慢できなくなってそれを睨みつけた。
「あなたは何をなさっているのですか?」
目が覚めたときから視界の隅にちらちらと ――いや、敢えて無視しようとしていたが視界の中央に堂々と入り込んでいるその醜い姿。
大きな布に頭と手足を通すだけのみすぼらしい奴隷服を着込んだオークの男がリリムの足の間に座り込んでこちらをのぞき込んでいたのだ。
「お? おぉ! き、気がついたのか、よかったよかった」
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