君は……いつもおれが来て……欲しいときに
「取り押さえよ!」
部屋の中を守っていた近衛兵達が女を取り押さえにかかる。しかし女は風のような速さでその手をするりとすり抜け、テーブルの上で今も血を流し倒れているアガリアレプトのもとまで走っていった。
「アガリアレプトさま!」
女はアガリアレプトを抱き起こして椅子から降ろし、床の上に寝かせて抱きとめた。
女の手と顔と軍服が血で汚れたが、彼女はそれを気にしようともしない。
「やあ、リリム。君は……いつもおれが来て……欲しいときに……来て……くれる」
アガリアレプトの頬が震えた。もしかすると笑ったのかもしれない。
「おい、いい加減に……」
近衛兵の一人がリリムの肩を掴み、連れ出そうとした。
「いや、しばらくこのままにしておけ」
ダンタリオンが言った。
「こんなのでも弟だ。弟の今際の際くらい、女の膝の上で過ごさせてやろうじゃないか」
アガレスがダンタリオンに続いた。
「はっはっは、そりゃいい。さすがは兄上だ。いい見物だ」
命の灯が潰えようとしている弟皇子の様子をニヤニヤと見つめていたヴェパルが何か思いついたかのようにダンタリオンに言った。
「ねえ、ダンタリオン兄様。アタシ、この女にするわ。この女がいい」
「いいのか? この女もおそらく人間だぞ?」
「ええ。だって、皇子を騙った人間の最期を看取った女が無残に殺される姿、見たいと思わない?」
「相変わらずの趣味をしているな。お前がそれでいいなら、この女はお前のものだよ、ヴェパル」
「ありがとう、兄様。この女が死ぬときはぜひ、兄様にもお越し願いたいわね」
「いや、それは遠慮しておこう。私も魔王となったからには忙しくなるだろうからな」
「あら残念」
ヴェパルは全く残念そうで無いように言い、うっとりと死にゆく弟の姿を見ていた。
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