そこを……てくだ……なければ……します!

「しかし、少々無理をして今日決行したのは正解だったな。お前の進言のおかげさ、フラウロス」

 新たなる魔王は真ん中の弟を横目で見た。


「これ以上奴に手柄を立てさせるわけには行かなかったからな。しかしギリギリのタイミングだった。名目とは言え魔王になられたら厄介だったからな。それよりダンタリオン兄?」


「ああ、わかってる。アガリアレプト領はお前のものだ。好きにするがいい」

 その話を聞きつけたマルコシアスがやってきた。


「そんな話ができてたのかよ。おれにも何かくれよ。ダンタリオン兄、魔王になったんだからいいだろ?」

「ああ、もちろんだ。マルコシアスおまえにも、アガレスにも――」


「アタシは土地なんていらないわ。その代わり……」

「はは、ヴェパルは相変わらずだな」


「だって、弱い者がいたぶられながらも必死に生きたけど、弱いから死んじゃうのってすごく美しいと思うの。アタシ、ゾクゾクしちゃう……」

 近衛兵達に元魔王と元皇太子の死体を運ばせながら新たな魔王とその弟妹達が談笑していたその時である。


「そこを……てくだ……なければ……します!」

 部屋の外で何者かが叫ぶ声と何かの物音が聞こえてきた。


「…………? 部屋の外が騒がしいな。おい、何をしている! 今大事な話をしているところだ。これ以上――」

 フラウロスが見張りの騎士を叱責しようと扉の方へ向かったときであった。

 晩餐の間の扉が大きく、乱暴に開け放たれた。


「アガリアレプトさま……!」

 飛び込んできたのは赤髪の女だった。帝国軍の標準的な軍服を着ていることから、この女も帝国軍の所属なのだろう。


「何だ貴様は! ここは貴様のような末端兵士が入室を許されるような場所ではない!」


 アガレスが声を荒げた。しかし彼にも、その他の誰もこの部屋が何人もの近衛兵達に守られており、常識的に考えて一般兵が入室できるものではないことも、その近衛兵達が全員倒されていることも気づきはしなかった。

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