お前達は帝国の未来だ

 宴もそれなりに盛り上がりを見せている中、主催者である魔王がグラスを手に取って話し始めた。子供達はそれに注目する。


「久しぶりに我が子供達が勢揃いした。お前達は帝国の未来だ。アガリアレプトを中心に皆で手を取って――」


「アガリアレプトを中心……? 父上、それはどういうことですか?」

 父の言葉を遮るように第四王子・フラウロスが魔王を睨む。極めて失礼な行為だが、魔王は息子のその行動を咎めることはしない。


「ふむ……先にそのことから話しておこうか。バエル」

「はい、父上」


 魔王に目配せされて第一皇子のバエルが頷いた。彼は集まっている弟妹達を見回しながら厳かに告げた。衝撃的な一言を。


「これは父上――陛下と話し合って決めたことだ。アガリアレプトを次期魔王にする」


「陛下、なにをおっしゃって……!」

 その場にいる全員が息を呑んだ。最も驚いたのは当の本人であるアガリアレプトだ。彼本人でさえ知らされていなかった事実に驚愕する。


「まず、私が皇太子の座をアガリアレプトに譲り――」

「その後に儂が魔王の座を皇太子に譲る。これは速やかに行われる」

 魔王と皇太子が説明する。よどみないその説明に水面下でかなり詰められた話であることがわかる。


「お父様、それは本気でおっしゃっておられるんですの?」

 第一皇女ヴェパルが冷たい瞳で実父を睨む。


「むろんだ。強き者が尊ばれるのが帝国の国是。この中で最も強く、優れているのは――」

「ふざけるな!」


 第三皇子アガレスがテーブルを強く叩いて立ち上がった。周囲の皿が大きく浮き上がり料理をこぼすが、気にする者は誰もいない。


「こいつは人間だぞ! 最下層の人間なんかを魔王にしたら魔王家末代までの恥だ! 親父、今すぐ撤回しろ!」


「アガレス、魔王陛下に対してその態度は何だ。まずは陛下に謝罪を」

 長兄が咎めたが、そのことに対して第三皇子はますます血を頭に上らせる。アガレスはテーブルの上の料理をひっくり返して激昂した。


「謝罪だァ? まず謝るべきなのはこんなふざけたことを口走った親父とバエル兄だろうが!」

 そう言ってアガレスは魔王を指さした。


「アガレス、いい加減にしろ! 魔王陛下に対してあまりに不敬であるぞ!」

「うるせえ! 話をすり替えるんじゃねえ!」


「バエル兄が皇太子位を返上するなら――」

 アガレスの後を継いだのは末弟のマルコシアス。マルコシアスは続ける。

「ダンタリオン兄が皇太子になるのが筋なんじゃないの? でないと皇位継承順位が有名無実になる」


「皇位継承順位はあくまで儂が後継者を決められぬまま意思の表明ができなかったときのための備えに過ぎん。儂が自らの意志を持ってアガリアレプトに魔王位を譲ると表明した以上――」


 自らが後継者に指名したアガリアレプトの方を見た瞬間、魔王の言葉が止まった。

 後継者の第五皇子はその場に突っ伏して力なく咳き込んでいたからだ。

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