ただ今叛徒討伐の任より帰参いたしました
「第六皇子、アガリアレプト様のご入来!」
部屋の扉を守る近衛が大理石でできた床に手に持っている槍の石突きを叩きつける音とともに入場者の名を告げる。続いて彼の背丈よりも三倍は大きいであろう扉が重々しい音とともによっくりと開いていく。
現われたのは銀髪紅瞳の青年。赤を基調としたしっかりとした縫製の衣装に身を包む青年はうっすら笑みをたたえ、大股で自信たっぷりに部屋の赤絨毯の中を歩いて行く。
謁見の間の左右には近衛の騎士や重臣達、さらには腹は違えど血を分けた兄弟姉妹達が並んでいる。彼らの視線を一身に集め、アガリアレプトは赤絨毯の先に待つ人物のところへと歩を進めていった。
謁見の間の最も上座、一段高くなった玉座の上でアガリアレプトを待つのは彼の父でもある魔王サタナキア六世。豊かな白い顎髭をたたえる壮年の男性である。
魔王の元までやってきたアガリアレプトはその前に跪き、挨拶をする。
「アガリアレプト、ただ今叛徒討伐の任より帰参いたしました」
その言葉を受け魔王は鷹揚に頷いた。
「うむ、よくぞ帰った。戦果については聞いておる。よくやってくれた」
「はっ、ありがたきお言葉。叛徒どもが異世界より召喚した勇者たちのおよそ半数を倒しました」
その報告に魔王は満足そうに頷いたが、かすかに舌打ちの音も聞こえてきた。
魔王は帝国の国是である『強いものこそ尊ばれる』ことに忠実で、戦略的才能を発揮し、軍を率いて多くの武勲を上げるアガリアレプトに対して好意的であったが、兄弟姉妹達は母を人間に持つアガリアレプトを下に見ていた。
その
周囲に侍る近衛や侍従達も表にこそ出さないものの、同じように考えているだろう。
しかし、アガリアレプトは気にも留めない。それこそ日常茶飯事だからだ。
「久しぶりに子供達が揃ったのだ。アガリアレプトよ、今宵はゆっくりしていけるのだろう?」
そう言われて初めて気がついた。成人済みの魔王の子供達――アガリアレプトの兄弟姉妹が今日は全員揃っている。
普段はそれぞれの領地に引きこもっている者も多く、確かに珍しいことではあった。そのこともあって父王の機嫌が良いのだろう。
兄弟姉妹達と食事をともにして楽しいはずがなかったのだが、これも魔王家に生まれた者の責務として付き合うことにした。
「はい、もちろんです」
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