行かせるかよ!
「体力増強、速度超強化、全方位警戒」
リリムは手持ちのスキルを発動させて
そして強化された肉体で一歩を踏み出す。
そのタイミングで女騎士が突進してきた。
リリムは冷静にそれを横飛びで回避すると、女騎士がまだ体勢を整える前に全力で駆け出した。
「行かせるかよ! これでも食らいやがれ!」
あらかじめ発動しておいた全方位警戒のスキルが接近する飛来物を察知した。おそらく、追いつけないと察した女騎士が手持ちの剣を投げたのだろう。
しかし今のリリムは後ろに目がついていると行っても差し支えない状態だ。飛んでくる剣を難なくかわし、さらに川下へと加速して走っていく。
「このまま、わたし一人でも街に潜入して攪乱することができれば……!」
リリムが勝利を確信したその時である。
背後から鈍い音が地響きとともにやってくる気配を全方位警戒が察知した。何か巨大な質量が広範囲にわたって襲ってくる。
「な……!」
思わず振り返ったリリムは驚愕に目を見開いた。
それまでほとんど流量のなかった河原に、まるで壁が迫ってくるかのごとく怒濤の水流が押し寄せてきた。
スキルによって加速して走るリリムであったが、その圧倒的な速度と質量の暴力にはなすすべもなく、濁流に呑み込まれるしかできることはなかった。
「がぶっ……ふがっ……げほっ……!」
泥水を被り、それを意図せず飲み込みながら、リリムは意識を手放した。
「げほっ、げほっ……」
リリムが気づいたのは川の河口近くだった。
すでに川の流量はもとに戻りつつあり、あれからしばらく時間が経っていることがわかる。日もすっかり落ちていた。
リリムは打ち上げられていた河原から身体を起こし、堤防の上に登っていった。
どうやら、あの突然の増水によって一部の堤防が崩れたようだ。街の一部が浸水して騒ぎになっていた。
この混乱に乗じて当初の予定通り、街に火を放とうと思ったが、水に流されたときに着火剤は使い物にならなくなっていた。
逆に、今この混乱しているタイミングを逃すと脱出さえ困難になるだろうことは予想された。
「アガリアレプトさまに報告だけはしておかないと……」
リリムは疲労と水分で重くなった身体を引きずってカールトンの街を後にした。
彼女が原隊に復帰できたのは戦闘が終わった四日後であった。
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