このままこの騎士を押さえ込めれば……!
「キシャァァッ!!」
ガ・ルービが烈風の勢いでエルフの騎士に猛攻を加える。
さすがその剣技でこの任務に選ばれただけのことはある。敵の騎士に勝るとも劣らぬ速さでハーフエルフに対して連続攻撃を仕掛ける。
リリムはそれを見ながらガ・ルービの攻撃から少しだけタイミングをずらし、また騎士の死角になりそうな角度から
即席の、しかもリリムがあわせるだけの一方的なコンビネーションだったが、それでもガ・ルービの実力のおかげで攻守が逆転し、女騎士は劣勢にまわる。
「ギャア! ギャア! ギャア!」
ガ・ルービが叫ぶ。その叫びは攻撃のタイミングは全く噛み合っておらず、それに気を取られるとタイミングを狂わされる、そういう叫びだ。
「それ、それ、それ!」
リリムもそれを見習ってタイミングをずらすようにかけ声を掛ける。しかし、敵の騎士も手練れだ。そのような小細工に惑わされることなく的確にこちらの攻撃をいなしている。
しかし、それでよかった。
リリムは横目で背後を見た。そこではイシルウェがすでに魔法の詠唱に入っている。彼は魔法のスペシャリストとして完全性を求めるあまり、魔法の発動までに時間がかかるという欠点があったが、しかしその分魔法の威力と正確性は折り紙付きであった。
(このままこの騎士を押さえ込めれば……!)
そう考え、リリムは攻撃の手を早める。それらはいとも容易く弾かれてしまうが、それでいい。戦いは個人戦ではないからだ。
そう、戦いは個人戦でないのだ。
敵にとってもそれは同じであるという、当たり前の事実にリリムが気づいた。しかし、時すでに遅しであった。
小さな黒い影がガ・ルービの背後に現われたのをいち早く察知したのはその位置関係的にリリムであった。
「みゃぁぁぁっ!」
リリムが仲間に注意を呼びかけるよりも早く、背後に忍び寄った敵は何を思ったか大きな叫び声を上げてリザードマンに斬りかかった。
その声に素早く反応したガ・ルービは敵の攻撃を身体を捻ってかわし、さらにその勢いで大きな尾で飛び込んできたワーキャットを弾き飛ばした。
「みゃ――――っ!」
そのままワーキャットが大きく吹き飛ばされた。しかし、ワーキャットに対応したそのほんの少しの隙を女騎士が見逃すはずもない。
「ぐふ……っ!」
リリムと切り結んでいた女騎士は、そのままの体勢からリリムに前蹴りを食らわせた。ノーモーションで放たれたそれをリリムが回避することはできず、女騎士の攻撃を正面から食らってしまい、先ほどのワーキャットと同じように大きく吹き飛ばされた。
「ぐはっ……!」
河原に叩きつけられ、一瞬動きが止まってしまった。慌てて起き上がり、ガ・ルービの加勢に向かうため急いで体勢を整える。
が――
「しまっ……!」
時すでに遅し。ガ・ルービのその強固な鱗で覆われたその身体は、女騎士の持つ聖剣によって一刀のもとに斬り捨てられていた。
リザードマンをそのおそるべき攻撃力で倒した女騎士はそのまま魔法詠唱中のイシルウェの方へと駆けていった。
しかしエルフの魔法は発動直前である。女騎士の攻撃よりも発動する方が早いとリリムは判断して加勢には向かわず、周囲の状況を把握することにした。
「ぎゃあ!」
その時、イシルウェの悲鳴とともに、何かが爆発する音が聞こえた。
横合いから先ほど吹き飛ばされたワーキャットの娘がナイフを投擲してイシルウェの魔法行使を妨害したのだ。彼の魔法は暴発して彼自身にダメージを与えた。
それを見たリリムは救援には駆けつけず、別の方向へ向けて走り出していた。
先ほどからワーキャットや女騎士に指示を出している少女の存在を目にしたからだ。
小さい。まるで子供だ。見た感じ十歳くらいにしか見えないが、いくら“叛徒”といえど、そんな子供を特殊部隊にぶつける部隊の指揮官にするとも思えない。
もしかするとその見た目すらこちらを油断させる敵の罠なのかもしれない。
だとすると、最も危険なのはあの少女――
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