あそこだ。待ち伏せているぞ!

 ここまで誰の目にも触れず、誰にも怪しまれず来ることができた。

 だから、この先も順調に任務は遂行できるだろう。


 そういう油断が無かったといえば嘘になる。


 しかし、敵の奇襲に対し迅速に次の手が打てたのはさすが選ばれし精鋭といえるだろう。


 最初に異変を察知したのはガ・ルービである。

「跳ベ! 今スグ!」

 その叫びに残りの三人も一斉に飛び上がる。しかし、どこからか飛んできた投げナイフがナールに襲いかかった。


 地上にいれば容易く躱せたであろうそれは、直前に飛び上がったことによって回避不能の一撃となった。ナイフはナールの太股をかすめ、そのままドワーフは転倒した。


 待ち伏せしていた何者かはそれを見逃すはずもなかった。

 巧妙に偽装されていた草むらの間から輪っかの形に結わえられたロープが飛び出した。それはナールの足に絡みつき、彼の足を縛り上げた。


 彼はそのまま脇に生えている木に宙づりの形にされた。これではさしもの潜入工作のスペシャリストであってもどうしようもない。

 それでもできることをするのがプロのプロであるゆえんであった。


「あそこだ。待ち伏せているぞ!」

 ナールは王国公用語で叫んだ。味方に指示を与えると同時に敵に自分たちが味方であると錯覚させるための咄嗟の判断だった。


 ナールの指示に仲間たちは迅速に動いた。エルフ、リザードマン、人間の三人はそれぞれ剣を取りだし、素早く散開していく。

 相手も迎撃態勢に入ったようだ。身を隠していたと思われる橋のたもとの茂みから、部分鎧を身につけた女騎士が飛び出した。


「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 女騎士はその可憐な見た目とはとても似つかわしくない乱暴な叫び声を上げて襲いかかってきた。そのまま正面にいたリリムに対し、攻撃を開始する。


「…………! 速い!」

 ハーフエルフであろうその騎士は、文字通り目にも止まらぬほどの勢いで連続攻撃を繰り出してきた。


「オラオラオラオラオラオラオラオラァ!」

 残像さえ見えるその連続攻撃を、リリムは思考加速と反応超上昇のスキルを併用してなんとか防いでいる。それでも少しでも気を抜くと一瞬で刈り取られてしまいかねない猛攻だ。


 リリムはリリムなりに血のにじむような努力をしてこの地位を勝ち取ったつもりだった。しかしその遥か上を行く目の前のハーフエルフの騎士を見て、種族の差に愕然とする。


 だが、ないものを嘆いても仕方がない。あるものをフルに使って目の前の敵を仕留めればいいのだ。


 そして今のリリムにあるものとは――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る