第34話 桜帆の眼
じゃんけん、クイズ、カラオケ、暗算……、パワーを必要としない分野においても驚異的な強さを発揮し、挑戦者を叩きのめす大神!
その圧倒的存在感は橋呉高生徒だけでなく、近隣の方々までも熱狂させ、体育館は最高潮の盛り上がりを見せる。
そして祭りも終盤となったとき、ついに一文字真子が大神と対峙する!
「お前が黒魔子って奴か……」
マイク片手に黒魔子を睨みつける大神。
たったそれだけなのに、相田李衣菜を代表とする黒魔子親衛隊が悲鳴を上げて、土俵際に群がる。
「黒魔子さま、ダメだよ!」
「お願い逃げて!」
「勝てる相手じゃないよ!」
「相手は熊よりタチが悪いバケモノじゃん!」
「見てあのいやらしい眼差し!」
「汚されちゃう! 黒魔子さまが汚されちゃう!」
「んなことするか、馬鹿野郎!」
当然叫ぶ大神。きゃーっと逃げ出す親衛隊。
まあ、これは叫んでもいい案件だろう。
「とにかくお題はなんだ、言ってみろ。なんでも受けてやる」
「……」
微動だにせず大神を見つめていた黒魔子は、片手をちょいちょい動かして、私にマイクをよこせとアピールする。
普段は戦地でマシンガンをぶっ放すのが本業のシルヴィの隊員さんが、今日に限っては黒子として働いており、素早い動きで黒魔子にワイヤレスマイクを渡す。
音が入っているか雑にマイクを叩いたのち、黒魔子は短く言った。
「書道」
おおーっと、騒ぎ出す観客。
冷静に考えれば、書道と聞いただけでなぜここまで騒ぐのか不明だが、今はもう何を言っても盛り上がるイベントハイな状態になっていた。
「ほう……?」
大神にとっては予想外。
本人は大いにバトルを望んでいたようなので、書道と聞いて拍子抜けし、なんなら不満げである。
「まあ、いい。準備してくれ」
黒子の皆さんが一斉に動き出す。
土俵の上で書道対決を行うための準備が行われる中、桜帆が深く頷きながら琉生に説明する。
「この勝負、勝てるとしたら書道しかなかった。お姉ちゃん正解」
「……そうなの?」
「そもそもフィジカルじゃ相手にならないから、運動系で勝ち目はないよね」
黒魔子が本気を出せば勝てる可能性もあるが、近くに前友司がいる以上、それを言葉にするわけにはいかない。ゆえに上のような説明をしたようだ。
「カラオケも無理だよね。異常に唄が上手いから」
「確かにそうだったね」
あの歌唱力はプロ並だ。
凄く気持ち悪かったけど。
「だったら頭を使うか、じゃんけんならもう運だから行くだけ行ってみろってなるけど、それも実は無理なんだよね」
「そこが不思議なんだよ。いくらなんでもじゃんけん強すぎだし、クイズだってオールジャンルに詳しすぎるし」
あのデカい図体で女子高生しか知らない流行りの動画とか造語まで当ててくると、凄いを通り越して気味が悪い。
しかしこの裏には仕掛けがあると桜帆は見抜いていたのである。
「ほら、あそこ見て、あの奥の方」
桜帆が指さした先に、仁内校長がいた。
壇上にあぐらをかいて、リンゴ飴を食べながら嬉しそうにこの騒ぎを見つめている。
そして仁内のすぐ後ろにあの杉村光がいるではないか。
「あの人がウラでこっそり教えてるんだよ」
「え?」
琉生は桜帆をガン見し、
「マジか」
隣の前友も声を上げて驚く。
どうやってそんなことを、と聞こうとしたが、理由は聞くまでもなかった。
仁内大介は生まれたときから不思議な能力を身につけていた。
いわゆるエスパーだ。
本人曰く、地球にたった一人生き残った魔法使いだそうだが。
あの事件の日、琉生の手から離れた熊虎銃を仁内は不思議な力で、それこそジェダイのように銃を引き寄せて自分の手に収めた。
そんな仁内にとって、言葉や身振りを使わず相手にメッセージを伝えることなどいとも簡単に行える。つまりテレパシーである。
そう。すべては大神と仁内の合わせ技だったのだ。
暗算やクイズは仁内の後ろにいる杉村やその分野を得意とする黒子が正解を仁内に伝えるだけで、あっという間に大神に届く。
運のみで勝敗が分かれるじゃんけんですら、仁内はたやすく勝利に近づける。
彼なら相手の考えをいともたやすく「先読み」できるからだ。
桜帆から真実を聞いた琉生と前友の評価はそれぞれに分かれる。
「ひどい、こんなのやらせじゃないか……。これじゃ一文字さんが出たところで何の意味もない……」
琉生はそう嘆くが、前友は違う反応。
「素晴らしい。どんな手を使ってでも客を喜ばせる。これこそ究極のエンターテイナーだ……」
まあ、前友のような考え方もありっちゃ、ありだとは琉生も思う。
ただ彼が我慢ならないのは真剣に勝ちに行った真子さんが、連中の卑怯な手段で負けてしまうことだ。
ただただ自分と同じクラスになりたいと言うだけのことで……。
「大丈夫だよ。言ったでしょ? 勝てる可能性があるとしたら書道しかないって。だって書くだけじゃん。仁内さんもこればかりは見てるしかない」
「そうかもしれないけど……」
「いや待て。俺は気付いちまったぞ」
前友は興奮のあまり手を叩く。
「キングはデビューしてすぐに腕と足を切断する事故にあった。だけど体の一部を機械に改造したことでバラバラになった部分を繋いで超人になったんだ。一人のレスラーがシルヴィの一員としてヒーローになったんだよ」
「うん。有名な話だね」
そういえば真子さんも同じようなこと言ってたなと思い出す琉生。
「腕の動きを機械に任せちまえば、どんな文字だって綺麗に書けるってことなんだろ? 薔薇だろうが、檸檬だろうが」
「そう。だから大神さんもカラオケと同じくらい、書道には自信があるはず」
しかし桜帆はそこに油断があると指摘する。
「お姉ちゃんならもっとできる。だって……」
前友がいるからそれ以上は黙ってしまったが、桜帆はこう言いたかったのだろう。
機械の部分で言えば、姉の方がはるかに上を行く存在だからと……。
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