第6話 戦うのなら、支えるだけ
俺は何をすればいいんだと問われた桜帆は探るように琉生を見た後、すぐ答えた。
「お姉ちゃんのことは心配しないでいいよ。こんなやつら楽勝だし、暴れてるところをあなたに見られるのも嫌だろうから」
「そうか、わかった」
「私達はサポートに回ろう。まずはみんなでここを出た方が良いからね」
そして自身のデイパックからヤバいブツを取り出し、琉生を大いに驚かせた。
「それ、銃……?!」
世間一般でイメージするような人を殺す道具といった感じではなく、子供の玩具のようなケバケバしい銃だ。
「機械触手の知能を狂わせる、レーザー照射式超音波ブラスター、略して
「ぜんぜん略されてない気がするけど……、これをどうするの?」
「機械触手に向かって射てば元のケースに戻るように仕込んどいたから、これで立ち往生してる人達の逃げ道を確保する。触手は人を襲わない習性を利用して、ある程度人数が揃ったら大人に人助けを任せて、あなたは触手の里帰りに集中する」
「なるほど」
「ただ気をつけて。ここまで浸食されちゃうと触手が柱の代わりになってる所もあるから、目に入る触手ぜんぶ戻しちゃうと、柱が抜けて崩れ落ちる可能性もある。考えながら使って」
「な、なるほど」
「あと、ここまでやる以上、触手があなたのことを脅威と見なして襲いかかってくる可能性がある。死にたくなければ熊虎で応戦して」
「ななななるほど」
「最後に」
桜帆は立ち上がり、おかずがたっぷり詰まったタッパーをデイパックに押し込んでいく。
「とにかく屋上に逃げろってみんなに伝えて。あの人たちが来るときに仕事がやりやすいだろうから」
あの人たち。
背筋がゾクゾクする響きだ。
「シルヴィ……」
「そう、シルヴィが来るよ」
マオーバを壊滅させた伝説の超人集団。
「あの人たちはこうなることを予想していたはずだから、今頃大急ぎでこっちに向かってるはず。私は彼らがやりやすいように準備しとく」
なるほどよくわかった。
この子に聞いて大正解だった。
しかしだ……。
「ってか、桜帆ちゃん、なんでそんな色々わかるの? 頭もめちゃくちゃ良いし……、凄いモノ作ってるし……」
その質問を待っていたとばかりに桜帆はニヤリと微笑む。
「私ね、小っちゃい頃からお姉ちゃんの体のケアをしてたから、なんか色々吸収して凄くなっちゃったのね」
「はは……」
とても納得のいく説明に琉生は苦笑いを浮かべた。
そして桜帆はウインクを琉生に投げつける。
「じゃあね、お兄ちゃん。いいとこ見せて」
小さな体を躍動させて料亭を駆け抜けていく桜帆であった。
「よ、よし……」
なんでこうなったとか、そんなことを考えるのはやめにして。
「い、行こう、熊虎!」
小ぶりなわりにはずっしりと重い熊虎銃を手に奥へと進む。
「誰かいますか! 助けに来ました!」
叫びながら、ゆっくり慎重に歩くと、ドンドンとガレキの壁を殴る音が聞こえる。
閉じ込められた! 出られない!
叫ぶ男たちの声。
琉生の目の前にはまるで生物のようにどくんどくんと脈打つ無数の触手がある。
「キモい……」
腹が割けるんじゃないかってくらい長い深呼吸をしてから、銃を撃つ。
ブンっと鈍い音がしたあと、静電気に触れたようなあのバチバチとゾワゾワが一瞬だけ体を包んだ。
すると目の前の触手はあっさりと退却を始める。
「言うとおりになった……」
桜帆の凄さに舌を巻く。
触手が消えたことでスペースができたので、そこから大勢の遭難者が出てきた。
助かった! ありがとう!
などと叫びながらこちらにすがってくる大人たちに、
「屋上に行ってください! 救助が来ます!」
と指示を出す。
「君はどうするんだ?! 大丈夫なのか?!」
心配してくれる大人に琉生は心配ご無用とばかりに笑顔でうなずいて見せる。
すると、一人の男性がハッとした顔で琉生に迫った。
「君、シルヴィなのか……?」
その言葉に反応した皆が羨望の目でこっちを見てくるので、
「……実を言うとそうです」
とんでもない嘘をぶっこんだが、この言葉は極限状態に置かれた人達を大いに勇気づけることになる。
あの伝説のヒーローチームが来てくれれば、もう何の問題ない。
気持ちが前向きになると体も大いに動く。
屋上までの道を知る仲居さんたちが先導して女性と子供を連れて行く。
動ける男たちは率先して、無理がない程度に救助活動を行おうとグループを作って琉生に協力してくれる。
「俺はもう少し奥に行きます。皆さんは無理しないでください!」
シルヴィと名乗った以上、かっこ悪い姿は見せられないと妙な責任感がわいてくる。
「大丈夫……、俺はできる。俺は蕎麦屋の息子、スパークの息子……」
何のバフにもならなそうなことを呟きながら、奥へ進む。
避難通路の邪魔になる触手は熊虎銃で追い払い、立ち往生する遭難者に会えば、屋上へ逃げろと指示を出す。
それを繰り返しているうちに次第に人の姿は見えなくなり、さっきまで嵐のように巻きおこっていた悲鳴と破壊の爆音も聞こえなくなってきた。
「そろそろ、行っていいかな……」
やった。
やりきった。
そう思って良いんではないか。
ふうっと一息ついたとき、危険はやって来る。
背後からゆっくり近づいていた触手が琉生の体をつかんだ。
「あ、ちょっと待った!」
待つわけがない。
まるでカメレオンに飲み込まれる寸前のエモノのように、琉生は触手に引きずられていった。
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