黒魔子さまは今日も僕しか見ていない。 ー学校一の美少女の頬を僕だけが好き勝手できる件について
はやしはかせ
一文字真子は改造人間である!
第1話 見合って、見合って
地球が滅びるかもしれない。
そんな恐怖を三ヶ月だけ世界に味わわせた悪の秘密結社マオーバが、ヒーローチーム「シルヴィ」に壊滅されてから一年経った。
日本も少しずつだが日常を取り戻し、シルヴィの相手も「悪人」から「自然災害」へと少しずつ変わっていく。
と、前振りはここまでにして、主人公を紹介しよう!
早速だが琉生は困っていた。
いったいどうしてこんな事になったのだと、途方に暮れていた!
「おい息子、今度の日曜日、父ちゃんの用事につきあってもらうぞ」
という父の誘いをなんとなく受け入れただけなのに。
なぜだろう。
テーブルを挟んだ向かい側に、
書いてくれと差し出された書類になんとなくサインしたら、高校卒業後すぐに籍を入れることになってしまった。
しかも相手は同じクラス……。
というわけでもう一人の主人公を紹介しよう!
一文字真子は輝くほどの黒髪と、宝石のように美しい瞳を持つ、道行く人が全員見とれる、基本、真っ黒い服を着て、ミステリアスな雰囲気かつ無口なので、まわりから
同じクラスであっても、黒魔子さまは琉生にとって雲の上の存在。
会話したのは数回程度で、つい最近、県立の美術館で会ったくらいの関わり。
それがなぜか、結婚を前提にした交際をすることになってしまった。
しかも相手は乗り気というか、鈍い自分でもわかるくらいに頬を赤くして、じっとこっちを見つめているのだ。
夢を見てると思って何回か頬を引っ張るという古くさいことをしたが、やはり夢ではなかった。
改めて状況を確認しようと、琉生は深呼吸をする。
場所はフジヤマという高級旅館、その中にある料亭の個室。
本郷家から琉生とその父。
一文字家からは黒魔子さまと、妹の
戸惑うだけの琉生。
伏し目がちの黒魔子。
喋り続ける父と緑川氏。
そしてあまりに美味そうでキラキラ光っているから具体的になんなのかわからない料理をひたすら食い続ける桜帆ちゃん。
「いやあ、こんな綺麗なお嬢さんが俺のバカ息子と一緒になりてえだなんて、こんな光栄なことありませんよ!」
「いやいや、こちらこそ嬉しい限りです。この子の父親が亡くなってから二人ともすっかり落ち込んでしまって……、久しぶりに笑顔が見られてホッとしてるんです」
その言葉に親父は頷いた。
「あんたらのお父さんは、うちの店にもよく顔を出してくれてね」
琉生の父は「手打ちそば、スパーク」という血迷った名前のわりには美味いと評判の蕎麦屋を経営している。
「そりゃもう旨そうに喰ってくれるもんだから、俺らもお父さんが来るのが楽しみでしょうがなかったんですよ。それがあんな病気になって、本当に残念なことで」
「まったくもって悔しいです。眠るように逝ったのがせめてもの慰めと言いますか……」
おっさん二人が同時に溜息をつく。
なんとなく無言に包まれる中、沈黙を貫いていた黒魔子さんが、意を決したように言葉を紡ぎ出した。
「琉生くん、覚えてる? この前、県立美術館近くで会ったこと」
「あ、ああ。うん、覚えてるよ」
忘れるはずがない。
県立美術館近くの公園をぶらついていたら、黒魔子さんに会ったのだ。
「私、迷子になっちゃって……、あなたが案内してくれなかったら、きっと美術館にたどり着けなかったと思う」
そう、あの日、同じ所をぐるぐる回っていた黒魔子さんがあまりにオロオロしていたので、つい声をかけたのだ。
あの時の黒魔子さんの可愛らしさは、そりゃもう破壊的だった。
「ありがとう……!」
涙目になるくらい喜び、しかも手を繋いで一緒に美術館まで歩いたのだ。
関わることがないと思っていた憧れの人と、一瞬ではあっても同じ時間を過ごせた。
これはきっと一生の思い出になると喜んだものだが、それから一週間でこんな展開になるとは予想だにしていない。
「私、決めたの、一緒になるなら、あなただって」
「それだけで……?」
道に迷ったところを助けただけで婚約って、そんなんでいいの?
そもそもあの公園から美術館までの道のりで迷子になること自体がおかしい。
目と鼻の先という表現がまさにふさわしい場所なのに……。
「あれは、タイミング悪く私のGPS器官が……」
よくわからない単語で事情を説明しようとした黒魔子さんであったが、桜帆ちゃんがきつめに姉の頬をはたいたので、空気が一瞬にして凍り付いた。
「ごめん蚊がいた。お姉ちゃん、大丈夫?」
「も、もちろん大丈夫」
わざとらしく咳をする黒魔子さんに比べ、妹さんは冷静だ。
「そろそろお二人の時間って奴にしません? 残り物は全部頂いておきますから」
この場で一番しっかりしている最年少の言葉に、父と緑川氏は思い出したように席を立ち、どこかにいなくなってしまう。
「琉生くん、行こう」
黒魔子さんは琉生の手をそっと握り、旅館の中庭に連れて行く。
惚れ惚れするほど明媚な日本庭園。
黒魔子さんは周囲に誰もいないことを確認したあと、
「琉生くん、私もうダメ!」
いきなり琉生の胸に飛び込んできた。
「げげっ!?」
思わず声を出す琉生。
クラクラしそうな甘い匂いと、黒魔子さんの熱い吐息がシャツの上でも伝わってきた。
「あの日から、ずっとあなたのこと考えてたのよ」
「そ、そうなの?」
「いきなりこんなことして困るのはわかってるし、自分でも強引なやり方してるのもわかってる。けどもうダメなの。ずっとこうしたかった……!」
柔らかくて真っ白な頬をすりすり首にこすりつけてくる。
大変だ。
大変なことが起きてる。
何が何だかわからないが、一週間前に美術館に行って良かった……!
「私の気持ちはわかってくれた?」
「それほもう十分すぎるくらいに……」
「じゃあ、その上で、これからの話をしましょ」
「これから……」
「うん、まず、一緒に住む家のことなんだけど……」
「一緒に住む家?!」
琉生は凍りついた。
―――――――――――――――――――――――
作者より。
読んで頂きありがとうございます。
基本、能天気に話が進んでいきます。
ちょっとした時間潰しに読んで頂けたらそれこそ本望です。
がっつり読んで頂いても最高に嬉しいですが、あまり中身はないですw
フォロー、評価、ご意見、ご感想、誤字脱字報告、ありとあらゆるリアクションが頂ければ泣いて喜びます。
よろしくお願いいたします。
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