死んだ妻が成仏しません 3人用台本
ちぃねぇ
第1話 死んだ妻が成仏しません
0:空にて。
神:なあ女よ
女:なによ
神:そろそろ成仏してくれんかのぅ。お主が死んでそろそろ一年になる。いい加減未練を断ち切ってくれんと、他の者の魂の処理もあるし
女:処理とか言うな。それより神様
神:なんじゃ
女:あれ、何とかしてよ
神:なんとかとは?
女:見えてるでしょ?誠が他の女とデートしてるの!止めてよ!
神:止めてって言われても
女:私というものが在りながら他の女なんかと…
神:お主もう死んだんじゃよ?もうおらんのじゃよ?彼だって、最愛の妻を亡くしてもう一年、そろそろ前を向いてもいい頃じゃろ
女:良いわけないじゃない!私よりも誠を大事にできる女なんていないのよ!
神:そんなこと言ったって、お主もう大事に出来ん存在じゃし
女:神のくせに心ナイフで抉らないでよ!
神:お主は、お主の大事な存在である誠をこのまま独りぼっちにしておきたいのかの?それとも、一緒に黄泉(よみ)の国に来て欲しいのかの?
女:はぁ?そんなこと言ってないじゃない!誠は世界で一番幸せで長生きしなきゃいけない存在なのよ!
神:じゃったら
女:うっさいわね!…分かってるわよ。ただの八つ当たりよ!ある日ぽっくり事故で死んだ可哀そうな女の八つ当たりくらい、神なんだから受け止めてよ!
神:ええ
女:誠…こんなに近くにいるのに…ねぇ、私を見てよ…誠ぉ
神:やれやれ
0:二人の会話をしっかり聞いていた誠。
男(M):楓…また神様困らせてるよ、全く…
男(M):生前の楓には言ってなかったが、俺には生まれつき霊感がある。物心ついた頃から見えてはいけないものが見えていた。俺の体質はばぁちゃんの隔世遺伝らしい。俺に霊感があることに気づいたばぁちゃんは「むやみにあっちの人と関わってはいけないよ。憑りつかれたり、未練を残してしまうからね」と忠告してくれた
男(M):見えてるのに何もできないのは、何も見えないよりよほど、辛い
女:あ!ちょっと!誠と手なんか繋がないでよこの盗人(ぬすっと)女!
神:何も盗んでおらんじゃろ
女:盗んでるわよ!現在進行形で私から誠を!誠…私たちの愛は永遠じゃなかったの?結婚式でのあの言葉は嘘だったの?
神:お主が誓ったのは「病める時も健やかな時もその生涯を終えるまで愛し合う」じゃろう?生涯終えたのじゃからもう保証期間外じゃよ
女:なんであんたがそんなこと知ってんのよ!
神:そら、お主らが神前式でわしに誓ったからのう。あの時は大人しい娘だと思って眺めておったが、まさかこんな天邪鬼(あまのじゃく)だったとは
女:うっさい神!ちょっと黙って!
神:亡霊が凶暴じゃぁ
男(M):俺への未練を消してもらうためにレンタル彼女を借りたはいいけど…彼女を呪い殺しそうな勢いだな。後でお守りでも渡そうか
女:あ、女が離れたわ。トイレかしら?二度と帰って来られないように全個室のトイレットペーパーを空にしてやろうかしら
神:お主にそんな力は無いわい
女:…ねぇ
神:なんじゃ
女:誠はもう、私のこと忘れちゃったの?私の存在はもう、誠の中に無いの?
神:そうかもしれんのう
男(M):なわけあるか。神も適当な相槌(あいづち)入れんじゃねぇ。お前毎日俺の傍にいてなんでそういうこと思えるかな。毎日仏壇の水換えてお前の好きな菓子供えて…お前を忘れる日なんか、来る気配すら無いっつの
男:ホント、勝手だよなぁ
神:ほう?
女:い、今、誠「勝手」だって呟いた?え?あの女に文句があるの?そうなの?そうなのね!?よーし分かったわ、今すぐ隣の女を私が消し炭にしてあげる
神:じゃから落ち着けと…あーでも、お主も長いことこっちにおるからのぅ。もしかしたらトイレットペーパーくらい操れるかもしれんの
女:マジ?
神:知らんけど。試してみるかえ?
女:ちょっとトイレ行ってくる!
0:女退場。
男:適当だな
神:やっぱり。お主、わしらの声、聞こえとるじゃろ
男:……
神:神を侮(あなど)るな。ちょっと前からもしかしたらとは思っとったんじゃ。返事をせい
男:……あー、これは~俺の独り言なんだけどぉ~もしこの世の者じゃない者と交流してしまったとして~不都合とか生まれるのかな~?
神:そんなあからさまな独り言せんでいい。突然変なことを言い出したお主に周囲が怯えとるぞ
男:でも~一応聞いとかないとぉ~これで俺に…楓に不利益が被るなら…俺はただの変人扱いでいい…
神:しっかりわしと会話出来ちゃってる自覚、無いんかのぅ。まあよいわ、お主の質問に答えよう。わしとの交信はセーフにしてやろう。あの女との交わりはおそらく…せんほうがよかろう。成仏を妨(さまた)げる
男:…勘は当たってたわけだ
神:死んだ後に執着から成仏できん魂は結構見てきたが、あの女も相当じゃのう。お主のことが気になりすぎて全く成仏する気がないわい
男:このまま成仏せずにいたらやっぱりまずいのか?
神:まずいのう。本来、四十九日をもって天に帰すべき存在じゃ。一年は長すぎる。このままこちらに留まり続ければ、いつか本当に帰れなくなるじゃろう
男:帰れなかったらまずいのか?
神:帰らんでほしいのか?
男:当たり前だろ。なんなら、今すぐ俺が視えてることを伝えて抱きしめてやりたい
神:抱きしめるのは無理じゃよ。すでに身体は朽(く)ちて消えておる
男:わかってるよ。じゃあ触れられなくてもいい。だけど…できることなら一生、いなくならないでそばにいてほしい
神:幽霊が一人の人間に憑(と)りつき続けると、その人間は遅かれ早かれ死ぬぞ。本人の意思とは関係なしに、生命力を奪っていくからのぅ
男:俺が早死にするだけか?それだけで済むなら
神:済むわけなかろう。上(のぼ)らなかった魂は二度と生まれ変わることもない。あの女が掴(つか)み取っていたはずの、第二の生、第三の生は永久に消えてなくなる。あと…おそらく全てを知った後、女は後悔するぞ。お主を死なせてしまったことを悔やみ、お主がいなくなったこの世界で未来永劫、独りぼっちじゃ。成仏する術(すべ)すら無くしての
男:…今日ほど、ばぁちゃんの教えを守ってよかったと思ったことはないよ。何十回、何百回と、気づいていることを伝えたくなった。…早まらなくてよかった
神:よく、我慢してくれたの
男:お前、神様なんだよな
神:神様だと認識してる存在にお前とか言ったらダメじゃよ?お主らカップル、神のこと軽んじとらん?
男:神様。俺、どうしたらいい?あいつをちゃんと、送り出してやりたいんだ
神:じゃったら、そう伝えい。どこぞの女を見せつけて未練を断ち切ろうとしても、あの女には効かんじゃろ
男:俺より楓の性格掴(つか)むの、やめてくんない?
神:神に嫉妬もやめてほしいのぅ
0:誠、レンタル彼女に電話する。
男:あ、もしもし細谷です。…あ、じゃなくて…すみません、急用が入ったのでデートの終了をお願いしたくて…はい、はい、大丈夫です。今日はありがとうございました、はい、はい、では
0:女登場。
女:ちょっと神!あんた適当なこと言ってんじゃないわよ!トイレットペーパー浮きもしなかったわよ!
神:知らんけどって言ったじゃろう
女:期待させといて、ほんと信じらんない!あの女狐(めぎつね)、もうトイレから出ちゃったじゃない!もうすぐこっちに…って、あれ誠?どこ行くの?待たなくていいの?
神:まぁ、ついて行けば分かるじゃろ。知らんけど
女:はぁ?
0:場面転換、墓にて。
女:ここって
神:お主の墓じゃな
女:なんで…
男:楓、久しぶり。仏壇には毎日手を合わせてたけど、最近忙しくて墓参りには来れてなくて、ごめんな。お前のことだから「私のこと忘れるの早くない!?」って怒ってないか?
女:誠
男:忘れられるわけないだろ?でも、忘れられたらいいのになんて絶対言わない。お前のこと、絶対に忘れない…忘れるもんか
女:誠…
男:なんでお前だったんだろうな。居眠り運転とか…ふざけんじゃねぇ!勝手に電柱に突っ込んでろよ!なんで、なんでお前に……!…なぁ、なんでお前、一人で逝っちまったの?なんで連れてってくんなかったの?
女:っ!
男:俺さ、お前が死んでからしばらくの記憶が無いんだわ。葬式とか手続きとか、事務的にいろんなことが降ってきたのは覚えてるんだけど、五感がさ…死んでるんだよね。ほら、よくあるじゃん?色を無くしたような、みたいな表現。あんなの足りないんだよ。色も音も匂いも、全部が体に入ってこないんだ。あるのはわかってる。でも、感じないんだ。何にも考えたくないから仕事詰め込んで、なに食ってもなんの味もしないから、いつもコンビニで一番手前においてあるやつで適当に腹だけ満たして…そんな生活繰り返してたら、身体壊した
女:バカじゃん
男:そしたら夢にお前が出てきてしこたま怒られた。「何やってんのよバカ!ちゃんとしろ!」って頭グーパンしてきたの。夢なのに痛かったわぁ
女:そんなに強く殴ってないもん
男:ああ、お前に見られてんだなぁ俺、って思ったら、ちゃんとできた。その日から世界に色が戻った。飯に味がした。コンビニでお前が推してたパン食ってみた。美味かった
女:でしょ?あのパンは絶対これから流行るよ
男:お前はもうちゃんと成仏した?もしかしてまだ、ここにいる?
女:いるよ、私ここに、いるよっ
男:もしいるならさ、俺もう大丈夫だからさ…ちゃんと成仏してな
女:そんな…
男:お前の気配がするんだわ。どうしようもない俺が心配で、お前まだこっちにいるだろ。俺……楓のこと死んでも愛してる
女:っ…!
男:だからそっちで待っててよ。大丈夫、すぐに逝ったりしない。うんと長生きするから。だからさ、そっちで気長に待っててよ
女:…約束だからね!絶対忘れないでよね!絶対絶対、幸せに長生きしてよね!
男:うん、約束する
女:…愛してる。さよなら
男:愛してるよ。さよなら
0:女消える。
男:あいつの未練、消してやれたかな
神:多分な。知らんけど。…うんと先、お主のことを迎えに来るわい
男:それまであいつのこと、頼みます
神:それじゃの
0:神退場。
男:さて…飯食うか!
死んだ妻が成仏しません 3人用台本 ちぃねぇ @chiinee0207
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