乱戦
今回の戦場は、これまで俺が参戦して来た戦場とはまるで様相が違った。
それは当然だろう。如何せん数が違いすぎる。
これまでの戦場は、お互い一桁以内の戦力がぶつかりあう戦場だった。だが今回はその十倍を超える戦力が入り乱れているのだ。迫力が違う。いってみれば、これまでのものは戦闘だった。だが、これはもう戦争だ。
「せいっ!」
掛け声と共に、いつもの半数だけ展開した
戦闘が始まってから多少時間が経過し、いくつか前線を突破する異星人達が散見されるようになってきた。
最初の第一陣の時点では、ほぼ完全に前衛で抑え込めていたのだ。だがドームから新たに第二陣が現れ、戦場へと突入したことで網目から漏れる奴等が出てきている。すでに第三陣の出現の前兆も出ているので更にその数は増えるだろう。
俺自身は出来るだけ戦闘に力を使うなといわれているが、怪物が抜けてくる以上護身として
ちなみに護衛の長船さんはきっちり仕事をしている。抜けていた異星人は全部で4体。いずれもダメージは負っていたため前に出た長船さんがその内1体を一撃で沈め、残り2体を抑え込んでいる。俺の方へ抜けて来たのは一番弱った1体で、問題なく処理できると判断されたのだろう。
別段ここを突破されてもまだ後方にいる源次さん達ガンナー型の適合者がなんとかしてくれるだろうが、ガンナー型はガンナー型で飛行型やダンゴムシの迎撃、戦場へ突入する前の異星人に対する”削り"の一撃があるのでそこまで余裕があるわけではない。無理なレベルでないなら、俺の所できっちり処理しとくべきだろう。後ガンナー型が地表の敵を狙うのはなかなか難しいし。狙いがつけずらいとかじゃなくて出力絞らないと地表を大きく削っちゃうんだよね。で、地表が削れるとその分動きづらくなるわけで。敵の後方──戦場へ向かう異星人の元へは容赦なくぶち込んでるけど。相手の足止めにもなるし。
ちなみにフレンドリーファイアの可能性が高いので乱戦状態の所にガンナーが直接攻撃を撃ち込まないように今回は規則が設定されている。……なんか変態じみた腕を持つ人が一人だけいて、その人だけは出力を絞った状態でなら許可が降りているらしいけど。たまに走る細い光条が多分それだろう。
これまでの戦闘では特に警戒されていた遠隔射撃型のエネミーも見受けられるが、これらは今回は後回しにされている。戦場の後方にいる上に、初期の段階で奴等の攻撃は
「静ちゃん、大丈夫かい?」
「問題ないです、もう満身創痍でしたしね、あいつ」
そんな彼女に頷きを返すと、彼女は小さくため息を吐いてから視線を戦場に向ける。
「すぐ連絡が来ると思うけど、第三陣が出現したわ。これから多分抜けてくる連中は増えるわよ」
「了解です」
恐らく視力を強化してドーム間近を確認したんだろう。長船さんの言葉に頷くと、そのすぐ後に予測通り通信で第三陣の出現の連絡が入った。更に第四陣の出現予測も。更に、ここで一つの悪い報告が入る。
「大型異星人が出てくる可能性が高い……と」
「まぁ予測してた事ではあるけどねぇ」
大型異星人の出現の可能性は予測はされていたが、出来れば出ないでくれた方がよかった。EGFの職員や適合者の大半はそう祈っていたハズだが、祈りは通じなかったようだ。
大型異星人は過去のデータの限りではあるが、強力な戦力だ。サイズが大きいだけではなく耐久性や火力も高い。またサイズ差の都合でヒーロー型ではなかなか相手にしずらいので、マシン型がそちらの対応にとられる事になる。その分他の異星人の対応が疎かになる可能性も高いだろう。
「気合入れなおさないといけませんね」
「そうだね、多分抜けてくる連中の数も増えるハズだよ」
「本来なら歌いたいところですが……」
「まだ先が見通しきれていなからね。次の第4陣で最後なら歌ってもいいだろうけど……」
基本的には異星人一体一体よりは適合者の方が能力としては高いため、現状は数的な面ではやや異星人の方が多いレベルとはいえ概ね優勢に戦闘は推移していたが、第三陣が出現した事によりこれで完全に数は異星人側へ倒れる。
ここで恐らく
逆にいえば
「……しかしこうなると、あちらが戦力の逐次投入をしてくれるのは助かりますね」
「まぁ戦力を集結させようとすればガンナー型のいい的だっていうのは、あちらさんでもわかってるだろうからね」
こちらからの攻撃や侵入を防ぐドームであるが、あれは強固な分中から外に出る事も一筋縄ではいかないらしく、一度に出現できる限界があると予測されている。また出現まで時間がかかり、前兆の変化も訪れる。それを観測してこちらは予測を立てているわけだが。
なので奴等は大群を編成して一気にこちらに仕掛けてくるということはできない。正直な所全部の戦力を一気に戦場に投入されていたら、こちらは戦線を支えきれなかった。……奴らがドームを解除すれば一気に戦力を投入できるのだろうが、それはやってくるとしても向こうが確実に勝ちを確保できると判断したときだろう。
「……さて、私はまた少し前に出るよ。静ちゃんはあまり無理せず、自分の身を守る事のみに専念ね。抜けたところで、
「わかってます。長船さんもお気をつけて」
「危なくなったらすぐ戻るからね」
そう言って彼女はすごい勢いで前方へ駆けて行った。同時に前線から抜けてくる異星人が見えたから、彼女にはそれが見えていたのだろう。
抜けて来たのは一か所ではなく複数個所だが、そちらに対して動く気はない。長船さんのいう通り、背後のガンナー達に任せる。実際すでにそちらに向けて狙撃が開始されている。
あまり深く入り込まれると撃破の為に緩衝区域の街並みを削る事になるが、その辺りはもはや必要経費だ。今回の作戦はとにかく居住区域に被害を出さない事を最優先に動く事は決定している。
敵の第三陣が完全に戦場に突入し、最早前線に立つ適合者の殆どは一人で複数体の異星人を相手にしているのが見える。最早殆どの適合者も無傷ではいられないだろう。出来る事ならいますぐ
今やれることは
抜けてくる異星人は最初の頃と違い、あまりダメージを受けていないのも抜けるようになってきた。
特にダメージを受けていないようなは前で長船さんが抑えてくれているが、さすがに抑えきれていない。そんな中から俺は直接こっちを狙ってくる奴だけを叩き、抜けていく奴はスルーする。後方で轟音が響くので恐らくガンナー型なにかしてくれているのだろう。そちらを気にしても仕方ない。俺はただ前に現れる異星人だけを
とはいえ正直、大分戦力比が傾きなかなか厳しくなってきている。だがまだ戦線は崩壊していない。逆に前線の適合者達がギアを上げたのか、異星人達を撃破する速度は上がって行っているように見える。……恐らく第4陣が出現する前に出来るだけ数を減らすため。きっと誰もがまだ来るなまだ来るなと頭の中で唱えつつ、目の前の異星人達を削っている。
だがその思いを裏切るように、ドームの中から巨躯が姿を現した。
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