大規模侵攻開始

「……なんか、完全にポジションがヒーローじゃなくて姫とかのあれだよなぁ……」


場所はすでに汚染区域の中。マテリアル適合者以外は立ち入る事すら叶わないその場所の指定された位置に、俺は前方を見据えて立っていた。


今回大規模侵攻が予測されるため、担当エリアの垣根を外し大部分の適合者が集結している。俺が適合者になって以降間違いなく最大規模の防衛戦だ。さすがに散発的な発生の可能性がゼロとはいえないため東京湾側にある程度の戦力は残しているが、それでも全体の8割に近い適合者がこの近郊に集結している。


そんな状態なら当然それを統率する必要も出てくるので、今回各適合者の配置は細かく指示されていた。ある程度はチームメンバーも考慮されるものの、基本は能力に合わせて配置されている。


今回特に能力で割り振られているのがマシン型だ。今回彼らは出現が予測されている大型の異星人に対応するため、初めから前線に設置されていた。予測通り大型の異星人が出現した場合は優先してそれらを相手にする予定だ。大型は攻撃範囲も広くいつもの待ちの迎撃態勢だと被害が広がる可能性が高いので。翼ちゃんも今回は側におらず、他のマシン型適合者達とともに前線で待機している。


その後方にビースト型とヒーロー型がある程度範囲を広がって配置。その後方に、フロイライン型──ようするに俺が配置された。


まごうことなき後衛である。更に後方にガンナー型が配置されているから最後方ではないけど、近接戦闘を行う中で最後方である。


軍隊で言えば指揮官ポジションといえるかもしれないが、俺は当然指揮なんてものは行わない。そう考えれば俺の位置は先ほどの呟きの通り、護られるお姫様のようなポジションのようなものだ。


「今回の作戦のキーマンは静ちゃんなんだ。そう考えたらお姫様扱いというのはあながち間違いじゃないかもねぇ」


俺の呟きを耳にした長船さんが笑いながらそう言ってくる。すでに変身しているので顔も笑っているのかはわからないけど。


長船さんは今回、俺の護衛としてこうやって後方に位置している。


「自分の役目は勿論理解していますけどね……」


あんな事を口にしたが、当然今回の配置は納得済みだ。この役目を果たすためにここまで俺もスタッフも頑張って来たのだ。その役目はきっちりこなす。


俺の役目は障壁バリアによって居住区域への被害を出さない事。また俺がその役目を果たすことによって前回は居住区域への攻撃を気にして戦わなければなかった他の適合者を異星人の殲滅に専念させること。


必要に応じて祝福ブレスを使用する可能性もあるが、とにかく障壁バリアの維持が俺の最優先の仕事だ。また俺はぶっちゃけ戦闘能力でいえば適合者の中では最弱なので、直接戦闘に参加して余計な力のロスをさせないように申し付かっている。そのために長船さんが護衛についているのだ。


「まぁ姫とか考えずに、静ちゃんは切り札と考えればいいわ。切り札を護るのは当然でしょ?」

「──ええ、解ってます」


大丈夫、前線に出て縦横無尽に戦うというヒーローのような姿はあくまで憧れだ。外見は幼くとも、中身は30代半ば。憧れは憧れとしておいておいて役目はきっちり果たす気概はある。


もう一度周囲を見渡せば、遠くの方で手を振っているのが何人か見えた。……いや、そっちを俺が見たのが見えてるの? 適合者は視力とかの能力も強化はされているハズだけど遠すぎない?


元々初のフロイライン型ということで適合者達の中でも話題に上がっていた俺だが、信仰フェイスの為のライブ活動を始めてからさらに興味を引くことになったらしい。適合者はあまり担当区域から大きく離れる事ができないため近隣のチームを除けば初対面かオンラインでの顔合わせしかしていない人もいるが、むしろそういった相手が手を振ってきているように見えた。……それこそアイドルに向けるような感じなのかもしれない。俺アイドルじゃないけど(ここは抵抗する)。


作戦が終わった後ライブやらない?とか提案した適合者がいたらしいけど、勘弁してつかぁさい。今日は作戦終わったら泥のように眠りたいので。


「おっと、そろそろ気を引き締めなさい」


周囲を見渡し、丁度正面に視線を戻した辺りで長船さんが正面を見据えてそう口にした。俺に比べれば適合者のキャリアの長い長船さんは何かを感じ取ったのだろう。その言葉を聞き俺も、視線を泳がせるのをやめて正面をまっすぐ見据え、背筋を伸ばして立つ。


同時。通信機から音声が流れた。


『ドームより異星人の第一陣の出現を開始しました』

「始まったか……」


思わず無意識に声が漏れ出た。


『総数およそ50。他"ダンゴムシ"を8体確認。大型はまだ確認されていません』

「わかっていたけど、数がすごく多いですね。これまでの戦闘の比じゃない」


これまで俺が参戦して来た戦いは大体向こうの数は一桁程度。直近の襲撃の時ですらせいぜい二桁をちょっと超えた程度だ。それとは明らかに規模が違うというその量。無意識に体に力が入るのを感じる。


「この分だと推定総数が80~90程度。一人一体から二体倒せばいい数だもの、まだ焦る時間じゃないわよ」


そんな俺の背中を長船さんがパァンと叩く。その意図は伝わったので俺は深呼吸と共に力を抜いた。まだこれは序の口も序の口だ。


「まずは"ダンゴムシ"の迎撃からかね。ビースト型とガンナー型が撃ち落とした本格的に戦闘開始ってところか。だけどその前に」

「わかってます」


俺は通信機に意識を集中する。障壁バリアの起動タイミングは指示が入る予定だ。さすがにインカムから聞こえてくる音声を聞き逃す事はないだろうが、もし聞き逃したら大事なのでそちらに集中する。


視界の中では"ダンゴムシ"の迎撃の為だろう。飛行を可能とするビースト型が空高く舞い上がっているのが見えた。恐らく後方に控えるガンナー型の適合者達もいまはスコープを覗き込んでいるハズだ。


「……来る」

『ダンゴムシ型射出されました。各員迎撃準備』


長船さんが小さく呟き、ほんのわずか遅れて通信機からも情報が連絡される。まだ指示は出ていない。力のロスを最小限とするため、ギリギリまで障壁は貼らない事となっている。


そらに光条が走り出す。ガンナー型の迎撃が始まったのだ。だが"ダンゴムシ"は相変わらず強固だ。撃墜されることなく、こちらへ向けて飛来してくる。


まだか?


ダンゴムシ自体に遠隔攻撃能力はないため、指示はまだ発せられない。その間にもダンゴムシへの迎撃は行われ、更に勢いを落としたダンゴムシに向けてビースト型が攻勢を始める。それによって、一つ、二つとダンゴムシが地上に落ちていく。


障壁バリアの展開をお願いします!』

「了解っ!」


ある意味待ち望んだ指示がようやくやってきた俺は、即座に障壁バリアを展開した。信仰フェイスで集めた力を借り、これまでにないほど大規模の結界。更に訓練の結果円形ではなく楕円形に展開できるようになった障壁バリアか瞬く間に戦場を包み込んでいく。更に障壁バリアを閉じないようにもできるようになったので、俺はその形状を細長いグラスのようにして安定させる。


障壁バリアを完全に閉じてしまうと第二陣がこちらにやってこれなくなり別方向に侵攻させてしまうし、こうして展開させることで力を節約する事もでる。


これである意味俺の一番の仕事は終わり。後は敵の動きに合わせて障壁バリアを調整していく、保守のような仕事になる。


そしてその障壁バリアに覆われた汚染区域の中で、いよいよ戦闘が開始されていた。


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