背後から襲うモノ
「射出!? どういうことだ?」
『源次さん達の射撃で勢いを失ったダンゴムシ型が、体を開く時の勢いで中の怪物達を跳ね飛ばしたみたい……これ、緩衝区域へ落ちるよ!』
「マジ……ひゃっ!?」
恐らく機体のモニターをズームして確認したであろう翼ちゃんからもたらされた情報に思わず上がりそうになった声は、突然体を襲った浮遊感により悲鳴に変わる事になった。
すぐ側には、マスクに包まれた長船さんの顔。背中の膝裏に回された腕の感触。……どうやら俺は抱き上げられたらしい。
「ちょっと長……」
「翼ちゃんは別チームの支援に! 私と静ちゃんは緩衝区域に落ちた奴を叩きに行く!」
『わかりました!』
反射的に文句をいいかけた俺の言葉を無視し、長船さんが翼ちゃんに指示を出す。その指示に即座に反応して翼ちゃんは機体を翻すと、別方向へと駆けてゆく。
それと同時に、俺の体を強いGが襲った。
「ちょ、ま」
「舌噛まないように気を付けてね。急いで現地へ駆けつけるよ!」
「……はい!」
一瞬混乱しかけた俺だが、次の長船さんの言葉に状況を理解して返事を返すと、俺は長船さんにぎゅっとしがみついた。
最悪な事に、今緩衝区域には人がいる。自分から立ち入った阿呆共だが、そいつらの対応に出ているスタッフもいるのだ。それにそうでなくても緩衝区域の先は人が住む場所だ。一刻も早く撃退する必要がある。
それには近接戦闘が可能なビースト型やヒーロー型が駆けつける必要がある。緩衝区域ではマシン型は戦闘しづらいし、ガンナー型は居住区域が近くになると流れ弾や余波を考えて射撃できないからだ。
そうして駆けつけるには、俺が一人で駆けるよりもヒーロー型の長船さんに運んでもらう方が確かに早いだろう。変身後のヒーロー型って、人一人くらいの重量は全く負荷にならないらしいし。
「いた!」
大きくジャンプした後きちんと道路に着地し、少し駆けた後に再びジャンプする。それを3度繰り返した所で俺は声を上げた。大きく宙を舞った俺達の下、怪物の姿が2体確認する。
そして……最悪な事に、片方は恐らく例の不法侵入者達の間近に一体、もう一体はその先……より居住区域に近い場所を突き進んでいた。
それを見て、俺は即座に判断を下す。
「長船さん! 俺を手前の奴の方に"投げてください"!」
ジャンプの軌道的に、このままいくと不法侵入者たちの上を超えてしまう。それから戻って迎撃していたら、先行している奴が居住区に突入してしまうかもしれない。それだけは避けなければならない。かといって、不法侵入者といえども危機に陥っている人間を放置もできない。それにあそこにはEGFのスタッフもいる。
「気をつけなよ!」
長船さんは余計な言葉を発せずそれだけ口にして、俺を落とすようにして放った。その際体勢を戻してから放ってくれたので、俺は足から落ちていく。
足元にいる連中は、こっちには気づいてない。そりゃ目の前から化け物が寄ってきていればそうなるだろう。助かるわ、一応スカートだからな! 謎パワーであまり捲れあがったりしないようになっているけど。
そこにいるのは、大学生くらいの男達4人だった。それと先ほど俺達を送ってきたEGFのスタッフ。彼らと怪物の間に俺は降り立つ。さすがに足に衝撃が来るが強化された体だ、これくらいで怪我をすることはない。
俺は間髪入れず、能力を発動する。
「
最小範囲で、俺と怪物を内部に捉えるように。男達は上手く障壁の外に出せたのを確認して、安堵の息を吐く。いや、安堵している場合じゃないな。
「早く退避して! 後情報対応忘れないでね!」
「はっ、はいっ」
職員に声を掛けると、上ずりつつもちゃんと声が返って来た。そして次々と男達を車の中に押し込んでいく。EGFは適応者以外も現場付近に出る人は身体能力高いからな……4人の内3人は押されたまま慌てた様子で車に乗り込んだが、もう1人は怯えた顔をしつつもスマホをこちらに向けていた。
職員さんはその男からスマホを奪い取ると、思いっきり睨みつけてから車に叩き込む。
「ご武運を!」
その言葉には、手だけ上げて答えた。すでに戦闘に突入していたからだ。
俺の相手は触手を持ったアイツだ。俺こいつと対峙する事多くない?
だが逆にいえばこいつなら俺でも問題なく戦う事が出来るから助かったといえる。長船さんが向かった方にいた甲虫型とか、防御力が高い相手だと火力の低さが露呈するからな。
EGFの車が去っていくのを確認し、俺は障壁を拡張する。……範囲が狭すぎて防御に支障がでていたからな。直撃ではないが2発ほどもらってしまった。大したダメージではないけど。
俺は正面の怪物に集中する事にする。
叩きつけられる触手。それを光の剣で払い、切り落としていく。俺も何度も実戦を積んで来た。動けるスペースさえ用意できれば、こいつ相手に大きく手間取る事はない。こいつは将棋で例えれば歩兵のような存在だ。いつまでも手間取っていられない。
他の戦線だってあるし、出来るだけ早く形をつける。そう思い、前のめりになった時だった。
「!?」
突然背後から何かにのしかかられた。ぶにぶにした、何か。
振り返ろうとしたら、その顔が何かに包まれる。
──なんだ、これ!?
視界が歪んでいる。口と、鼻から何かが入ってくるのを感じ、俺は慌てて顔を包んでいる何かを握ると、思いっきり力を込めて引きちぎった。
「ぶはっ……!」
口を覆っていたものがなくなったが口の中に残っていたので慌てて吐き出す。鼻の中にもちょっと入っていたので鼻を抑えて噴き出す。不快感が酷かったからだ。
……冷静に考えれば対処の順番を誤った。
「うぐっ!」
突然の出来事に、
だが打ち付けられた触手はそれだけでは終わらなかった。
「ちょっと!」
触手はそのまま鞭のようにして俺の足に絡みついてきた。太腿部分はドレスでガードされていると考えたのか、露出している脛の辺りに絡みつき、それから触手の先端を伸ばして上の方に伸びて絡みつき……
気持ち悪いわ!
俺は
再び叩きつけられる触手を
──スライム?
スライムに触手とか、ファンタジー系のエロ作品かよ! ここは現代世界だぞ!
ヒーロー願望はあった俺だけど、エロ系作品のヒロインになりたいなんて願望は欠片としてないんだよ! 触手の方は絡まると同時に引っ張る力が強くかかったからエロ目的なアレじゃなくて引き寄せたかったんだろうけどさ。当然だけど。
「ええい、とっととくたばりやがれ!」
スライム?の汁の一部が体に掛かったのもあって気持ち悪い。とっとと戦闘を終わらせてやる!
心の奥底から湧き上がってくるなんともいえない感情に任せ、俺は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます