集団戦
飛び出したそれらに対して、俺の反応は遅れてしまった。
本来は
その結果、無防備な状態になっていた俺に対して飛び出した姿の内の一つが突っ込んでくる。
不味いと思いつつ
飛び出したそれは、とびかかってきたそれを思いっきり殴りとばす。
「大丈夫、お兄さん!?」
「……ごめん、助かった!」
俺を庇ってくれたのは翼ちゃんの機体だった。
……これじゃ、先ほど冗談交じりでいっていた騎士と護られるお姫様そのまんまだ。情けなさを感じるが、今はそれを気にしている暇はない。
これまで何度か実戦を積んできたが、いずれもやってくる前からきっちり準備をして完全に迎撃体勢を整えてからの対応だった。今回のような未知の事象に対応した事がない経験不足による判断の遅れが露骨に出てしまった。
だが反省は後回しだ。すでにこの場は戦場と化したのだから。
中の生物を放出したダンゴムシは、再び体を丸めマングローブを取り囲もうとしていた。だがそれが閉じきる前に、その中に長船さんが飛び込んだ。
「源次さん!」
『おう』
たったそれだけのやり取り。その直後、長船さんが怒声とも咆哮ともいえる声を上げた。それと同時、ズンとさっきほどでもないにしろ地響きが響き、何かが激しくぶつかる音、そして──
ダンゴムシの内側から、何かが上空に飛び上がった。
……いや、飛び上がったのではない、放り投げられたのだ。その証拠にマングローブは横向きに浮かび上がっている。
そして。
奴の体がその軌道の頂点になったところで、後方から放たれた極太の光が奴を包み込んだ。
源次さんの狙撃が、マングローブを捉えたのだ。その結果、奴のその植物に似た体の大部分は消失した。いくらかの残ってしまった"破片"がゆっくりと墜落してくる。
それと同時、前方で金属に硬い物を叩きつけたような音が数度響いた。そしてその後ダンゴムシの内側から長船さんが飛び出してくる。
「とりあえず"開拓型"は片付けたし、こいつは硬いから他のを先に殲滅するよ!」
彼女の言葉に、俺達は同意の返事を返す。
長船さんが他の奴を後回しにして最後方にいたアイツを真っ先に狙ったのは、アイツが一番危険な存在だったからだ。俺達に対して危険ではなく、地球に対して危険な存在。
"開拓型"。奴は地面に根を張り、大地を汚染する。奴によって汚染された場所は人類にとって有害な物質を発生させ、俺達マテリアル適合者以外の人間が立ち入れない場所となる。
そのためその存在を確認した場合は何よりも優先して撃破することになっているのだ。
現在地はすでに汚染されている場所となっている為これ以上の被害はないのだが、奴は地中に根を大きく伸ばす。この位置だと居住区は問題ないが緩衝区域までは微妙なラインだった。だからの最優先の撃破が必要だった。
その"開拓型"は長船さんと源次さんの手で恙なく抹消されたので、後は余計な事は考えずに残りの連中を撃破そればいい。
長船さんと源次さんが連携している間、俺達もぼうっとその光景を見ていたわけではない。
翼ちゃんは殴り飛ばした防御力の高い甲虫型にエネルギーの弾丸を大量に叩き込んでボロボロにしていたし、俺も作り出した剣で偵察型の一体を相手取っている。
今回、出現したのは輸送役だったダンゴムシを含め8体。内一体はすでに消失、翼ちゃんが相手にしている甲虫型も虫の息。後は俺が相手をしている奴含めた偵察型が2、甲虫型が1、攻撃力が高いとされる蜘蛛のような下半身の上にハンマーのような形状のものを左右に生やした肉の塊が乗ったような図体大き目の蜘蛛型が1、機動力の高い羽虫型が1。
長船さんの言う通り、ダンゴムシが硬いのは間違いない。何せ源次さんの射撃を2発、それにおそらく数度の長船さんの攻撃も耐えている。幸い動きは鈍いようだから彼女の言う通りでいいだろう。
厄介なのはこの中だと速度の速い羽虫型だったが、すでにその羽のうちの一つが撃ち抜かれていたためやや速度を失っていた。源次さんが開拓型を狙撃した後すぐに攻撃したのだろう。エネルギーのチャージをほぼ無しで撃っただろうから火力はなかったが、それでもきっちり機動力を奪ってるのはすごい。
どちらにしろ空を飛んでいる羽虫型の相手はガンナーもしくは飛行可能なビースト型が相手をするのが基本なので、ここは源次さんに任せておいていい。
というか俺は他を気にしている余裕はあまりない。もう一体の偵察型がこちらに向かってきたからだ。4組の剣のグループの内2つをすでに相手している方に、残りの2つを新手の迎撃に当てて対処していく。
……正直対処法が分かっている偵察型で助かる。中ボス的な蜘蛛型が来られると厄介だった。
その蜘蛛型には長船さんが当たっていた。残りの甲虫2匹は翼ちゃんが当たっている。ダンゴムシは体をまだゆっくりと丸めていた。
「
襲い掛かってくる触手を捌きつつ、通信機越しに声を掛ける。相手は源次さんだ。まだ羽虫型が生き残っている事をチェックしてからの確認。
返って来たのは否定だった。
『羽をもう一個消した。速度ももう殆どないから大丈夫だ』
「了解」
念のための確認だったので、俺は即そう返した。……正直そこまで余裕がないので、戦闘の方に集中できるのは助かる。
「もうちょっとしたらフォロー行くから、お兄さんそれまで頑張って!」
声が頭上から降ってくる。翼ちゃんはそのエネルギー弾による銃撃で、すでに甲虫を一体屠っていた。今は残りの一匹を相手にしている。その相手もすでにいくらかダメージが入っているようなので、それほど長くはないだろう。
蜘蛛型に関しても問題なさそうだ。すでに長船さんが2本ほどその足を捩じ切っていた。というか長船さんがっつり組み付いて戦うのな。先ほどもそうだったけど度胸が凄まじい。まさに"ヒーロー"だ。
みんなやっぱり経験を多く積んできているだけあって強い。最弱である偵察型相手になかなか倒しきれていない自分が情けなく感じもするが、経験も、そして単純な戦闘能力も劣っているのだからここは仕方ない。余計な事を考えずに体を、思考を動かせ──。
2つのグループを新手の方に展開して足止めをし、その間に残りの2グループと共にダメージを与えてある偵察型への方へ突っ込む。叩きつけられる触手は剣を振るって斬り落とす。
数本の触手がまとめられた極太の奴が頭上から叩きつけられる。こちらの位置的に迎撃では斬り落とせないと判断し回避する。
すぐ横の地面にそれが叩きつけられて、大地が揺れる。だがそれに足を取られる事はなく俺は奴の懐近くまで近寄ると、右手を大きく振るった。
俺の腕に連動して動く5本の刃が、奴の体を大きく斬り裂いた。噴き出す体液が俺の纏うドレスを汚す。だがそれを無視して残りの5本の刃を束ね、巨大な1本の剣に作り替えて叩きつけた。
この力は剣の形をとっているが、その正体は物質ではなく単純なエネルギーの塊だ。これまでの実戦と訓練で、こういった使い方も俺は覚えていた。サイズがでかいから取り廻しづらくはあるので、いざという時の一撃用だ。
断末魔が響く。偵察型はその全身の大部分を大きく断ち切られ、その動きを止めていた。
それを見届けた直後。
俺は再び地面が揺れるのを感じた。
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