正体の予想

★第三者視点


某チャットサービスのとあるサーバー。


異星人とマテリアル適合者に関する情報共有の為に建てられたそのサーバーでは、現在サーバーの参加者の一人が投下した一枚の写真で盛り上がっていた。


「うわ、マジだ。ドレス姿で歩いている」

「銀髪にドレスってなんだ、この場違い感」


写真はかなり望遠で撮られたようで、廃墟となった街並みの中を歩くその人影ははっきりと人物が特定できるほど鮮明には映っていない。更に中途半端に肖像権を気にしたのか顔にはモザイクを掛けているので猶更だ。


だが、そんなはっきりとしない写真でも話題になるほど、その姿は特徴的だった。


銀色の髪、そしてまず日本で見る事のないであろう大きく膨らんだスカートのドレス。


日本の家屋の並ぶ街並みの中を歩く姿は違和感バリバリだった。某夏休みと年末に行われる例の巨大イベント会場になら会うかもしれないが。ただその場所だとしても、ひどく目立つだろう。ゴージャスすぎて。


「コスプレイヤーかな……?」

「いや、この辺りって進入禁止区域だろ? なんでそんなところがコスプレイヤーがいるんだよ?」

「コスプレイヤーが適合者になったんじゃないの?」

「だからって、コスプレしたまま戦場に突っ込むのか……?」

「てか同行しているヒーロー型は変身したまんまなのに、この娘は変身解いてるのな」


実際は変身したままの状態なのだが、公開されているマテリアルの型の中にはあんな姿は存在していない。だとしたら、ドレス姿を見てそれが戦闘の為の形態だとは誰も思わないだろう。


「まぁでもさ、あんな場所でまでコスプレしているって事は顕示欲強いよな? ってことはすぐメディアに出てくるんじゃないの?」


マテリアル適合者へのメディア関係者の接触は基本的に禁止されている。これはメディア関係ではなく一般人に関してもある程度適用されており、明らかにその人物を特定できる情報をSNS等に流した場合は罰則が適用される。なので、この写真もモザイクが掛けられているわけだ。だが髪色が特徴的なので、特定も難しくはなさそうだが。……尤もこのサーバーを見ればわかる通り殆どの人間はコスプレだと思っているので案外気づかれないかもしれない。


尚当人は一切メディアに出る気はない。


「実は、新しいマテリアルの型だったりしないかな?」

「なんの型だよ」

「てかビースト型なんじゃないの? ほら、下半身がスキュラみたいになっているとか」

「それはちょっと……興奮するな」


そんな感じで、サーバーの中では予想合戦は非常に盛り上がった。だがその中でお嬢様の外見がまんま戦闘形態だという予想を立てた人間はないかった事はここに記しておく。


☆主人公視点


「かちょーかちょー」

「いや、俺はもう課長じゃないぞ」

「……そでした」


あの日、結局変身を解除すると体に掛かっていた異星人の体液は消失した。正直これは助かった。ドレス以外の部分に掛かっていたものが残ってしまっていたら間違いなく変身解除した時に元の服汚れてしまっただろうし、地球の環境に害なす怪物の体液が掛かってしまった服を日常生活の中で着るのは気が引ける。一着お釈迦にするところだった。


戦闘終了後、一応直帰はせずEGFに一度立ち寄り検査を受けた。その結果は一切問題なし。


よって翌日俺は普通に会社に出勤していた。


いろいろ聞きたそうにしている同僚達には、問題なく勝利した事だけ伝えた。いろいろ聞きたそうにしていたが、機密があるから……とか適当にいったら皆引いてくれた。……当面はこれで逃げていいかもしれない。


そうして非日常の空間から戻って来た俺はこれまでと同じ日常に戻り、昨日途中で抜けたせいで残してしまった仕事を片付けて、休憩スペースでコーヒーを飲みながらひと段落していたところ、掛けられた声が先ほどのものである。


声を掛けて来たのは、以前から割と懐いてくれている若手女性社員の子だった。オタク気質のある子で、ヒーロー物好きな関係でわりとそういうものを見たりする俺とはそこそこ話が合ったりするんだよな。


「で、どうしたんだ?」


とはいえ、仕事中にそうそう雑談するような相手でもない。ということは何か用件があるのだろうとそう聞くと彼女はコクコクと頷き


「これ見てくださいよ!」


そういってスマホを差し出してきた。


「なんだ……?」


そこに映し出されている写真らしきものを覗き込んで──


危うく手に持っていたコーヒーの紙コップを握りつぶしかけた。


「おい、なんだこれ!?」


そこに映っていたのは廃墟の写真だった。その廃墟の中にある、二つの人影。そのうち片方は、銀色の長い髪の少女でドレスを纏っている。


どう見ても俺である。


となりには変身状態のままの長船さんもいる。間違いない。


「あー、やっぱりこれかちょ……時塚さんだったんですね」


スマホを持った若手の女性社員は、そんな俺の反応を見てこの姿が俺であるこを確信したらしい。……まぁマテリアル適合者を知っている彼女が銀髪のこの写真に写った人物を俺だと思うのは当然だ、それは仕方ない。


「滅茶苦茶可愛い恰好してますよね! これ自前ですか!?」

「そんなわけあるか」


この外見になったせいで元々社内でも注目を浴びやすくなっている上に、先ほど大きな声を上げてしまったので他の社員からちらちらと見られてしまっている。俺はその視線を出来るだけ避けられるようなポジションに移動しながら、今度は声を抑えて彼女に突っ込む。


……とりあえずここまで知られているのに隠すのは無駄だろう。というかこれが私服と思われるのがいやだ。女性になった途端こんな服着るようになったなんてどんな願望持ってたんだよと思われそうで……なので、俺は真実を伝える事にする。


「変身後の姿なんだよ、これ。ヒーロー型と同じだ。後声のボリューム落として」

「アッハイ。てか、これ変身後のコスチュームなんですか? 魔法少女みたいですね」


魔法少女……俺はヒーロー願望はあったけど、魔法少女になりたいなんて事は一度も思った事がないハズなんだがなぁ……


まあいい、それよりもだ。


「で、だ。この写真は一体どこから?」

「ああ、私が利用しているチャットサービスのコミュニティに投下されました。結構大規模コミュニティなので結構な数の人が目にしているかも? あ、当然時塚さんの事を書き込んではいませんよ!」

「それは心配してないけど……マジか」


時たま超望遠で撮られたマテリアル適合者の写真が出回る事がある事はしっていたけど、まさか初出撃で早速被写体にされるとは……しかも俺の場合外見は変身前と変身後で変わらない。しかも日本ではほぼ見かけない銀髪。


これは、早い段階で特定されるかもしれない。適合者はいろいろな法で守られているため、家に押しかけられるとかそういった事は大丈夫だろうけど……


この外見だ、特定されたらいろいろ話題になるのは覚悟しておいた方がいい。


それを考えると、の事は公開してもらっておいた方がいい気がするな。


勿論時塚 静という個人の情報を、じゃなくて変身しているだけで元は男だって事をだ。変に外見から人気が出て、後から詐欺だとか言われたくないし。


近々、"フロイライン"型の事は公開する予定だって話だし、その時に合わせて情報を流してもらうとするか。



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