初陣②

先手は異星人にとられた。


射程の問題ではない。俺の光の剣はそこまで長距離での遠隔操作は実戦レベルでは使えないが、それでも此奴の有効射程は同程度。先に仕掛ける事はできた。


──情けない事だが、思い切りが付かなかったというのが正解だ。アイツがどう出るかを頭の中でいろいろ考えているうちに先に動かれてしまった。


いくら訓練は重ねてきたといはいえ、実戦はこれが初めてだ。少なくても相手の異形の姿に身が竦んでしまっているというわけではないのだから、許して欲しい。


その分、相手の動きにはきちんと反応できたし。


この肉塊のような奴の攻撃方法の一つは、見て分かる通り触手だ。ただ最初から生えている奴ではなく、体の一部から芽を出すように生えたいくつかの触手が勢いをつけてこちらへ飛来して来た。


俺はそんな攻撃を焦る事もなく、迎撃する。


相手の初撃は速度重視の直線的な攻撃だった。反応が遅れれば面倒だが、そうでなければ一番迎撃しやすい攻撃だ。


俺は、両腕を上へ跳ね上げるように振るった。


光の剣は、基本的には俺の腕の動きに連動して動くようにしてある。勿論意識するだけでも動くようにしてあるが、現時点では咄嗟の動きはこちらの方が早く、より正確なので。ほら、例えば顔にボールとかが来た場合頭の中で明確に考える前に顔をガードしたりするだろう? それの延長線な感じだ。


いずれこの光の剣を体の一部のように扱えるようになればまだ違ってくるだろうが、身に着けてまだそれほどの期間がたっておらず、しかも使用頻度も週に二、三回、それも限られた時間の中だけだ。そんな境地に辿り着けるわけはないので、今はこれがベースになる。二つは体の動きに連動させ、残り二つは決められた動きをとにかく叩き込んだ。付け焼刃に近いレベルではこれがやれる限界だろう。


だが、こいつ相手ならこれで充分だ。


俺の腕の動きに連動して触手を下から救い上げるように襲った光の剣は、何の抵抗もないようにあっさりと触手を切り裂いた。それぞれ5本の件で断ち切られた触手はその勢いのまま俺の左右をすり抜けて後方へすっ飛んでいく。


あの触手は断ち切られた後自立して動くなんてことはないので、後は放置でいい。


こいつはこれまで他の適合者達がさんざん駆逐して来たタイプだ。動きはもはや完全に解析されており、そのデータは当然俺にも叩き込まれている。だから今の俺がするべきことは焦らずシミュレートした通りに動く事。それだけでこいつは倒せるハズ。


コイツはいわば将棋で言えば"歩"だ。開拓を担う個体を除けば異星人の中では最も弱いタイプ。油断するわけではないが、そんな相手に手間取るようでは今後に不安がある。淡々と捌きたいところだ。


伸ばした触手を切り裂かれた異星人は、その裂かれた断面からドロドロとした体液をまき散らしつつ、残った部分を引き戻すと自身の体の中にとりこんだ。


まぁこの程度では大したダメージにはならないよな。


肉塊はこちらに突進する動きを緩めていた。そして再び触手を伸ばして攻撃をしてくる。今度は4本。だが指をめいいっぱい広げて振るう事でまとめて処理できた。


ガラスを金属で引っ搔いたような不快な悲鳴を上げる怪物に向けて、俺は距離を詰める。


あちらはほぼ移動を止めてしまったため、こちらから接近していくしかない。


俺の剣の能力は距離が離れるとその分威力が落ちる。触手を断ち切るくらいなら問題ないが、本体に致命的なダメージを与えるためにはもっと接近する必要があった。


──正直、こんな気持ち悪い存在に寄りたくはないが仕方ない。


それにしても、翼ちゃんはこんなのとずっと戦っていたのか。


チーム内で最古参と呼ばれる彼女がマテリアル適合者となったのは、侵略が始まってからまだ間もない時だった。当時の彼女はまだ高校生だったハズだ。


……現在、マテリアル適合者として選ばれるのは基本的に成人している人間だ。未成年に適合者としての試験を行う事はない。もしなるとしたら俺のようにたまたま直接見つけ出し、更には自分の意思で触れたもの。そんな運と奇特さを兼ね備えた人間はまずいないだろう。


だが彼女が適合者になった時は、そんな余裕がなかった時代だ。恐らく否応なく巻き込まれたハズ。そしてこれまでこんな化け物と戦って日本を護って来たのだ。頭が下がる。


救いは彼女のマテリアルは"マシン型"なので直接こいつと殴りあいしないで済んでいる事か。──そう考えると、見た目はただの主婦なのにコイツ等と肉弾戦をしている長船さんの胆力は凄まじいな。


──負けていられない。


駆け寄っていく俺に対して、今後は次々と触手が放たれる。それを俺は片っ端から切り捨てていく。両手に連動した2グループだけでは処理しきれない奴は、左右に展開したもう2グループで処理していく。


……処理が遅れた触手からあふれ出した体液が、ドレスの一部に引っかかったが無視だ。このドレスはいわばヒーロー型のスーツと同じ。あちらほど耐久力はないだろうが、こいつらの体液が掛かったくらいでどうにかなる代物ではない。


そして、データ上では有効と掲示された距離まで到達した。相手の触手はさらに激しくなる……が捌ききれない程ではなく問題ない。それに一発や二発はたとえ貰っても問題ないとこれもデータで掲示されている。


ならば確実に屠れるようにもう少し詰める!


中途半端な威力で剣があのキモイ肉塊の途中で止まってしまうと厄介だ。確実に行く。


そうして更に距離を詰めると、肉塊の一部……というかこちらに相対した正面部分がコブのように一気に膨れ上がった。そしてそのまま、これまでとは比べ物にならない肉塊の触手がこちらへ伸びてくる。


が、それもデータで知ってる。先人に感謝だ!


俺は慌てず、ガード用の2グループを全面に展開。そしてうち1グループを船の衝角のような形状にし、正面から叩きつけた。ただそれだけで、触手は自らの勢いで一気に裂かれていく。


そうして裂かれた後、こちらの方に向かってくる部分だけを残りの1グループで処理しつつ、俺は足を止めた。


ここまで近づけば問題ないハズ!


俺は一度左右に広げた両腕を、まるで抱き着くような動きで一気に振るった。ただそれだけで10本の剣は肉塊に叩きつけられ、切り裂いていく。


再び不快な悲鳴を上げる肉塊。振り切った腕に連動した剣は見事に奴の体半分を大きく斬り裂いた。だが、まだ奴は動きを止めていない。だから俺は更に踏み込み、内側に振り切っていた腕を今度は外側に向けて大きく振った。


──それが、とどめとなった。


断末魔の悲鳴を上げた怪物は最後に何度かビクンビクンと震えた後動きを止めた。それに続けて、"討伐完了"のメッセージが腕時計に送られてくる。


どうやら、これにて俺の初陣は終わったらしい。相手から貰った攻撃は一発も無し、完勝といっていいだろう。ただ、


「うげぇ……気持ち悪い」


奴の体液でこちとら全身ドロドロだ。あの極太の触手と、本体を切り裂いた時に奴がが派手にまき散らした奴をもろにかぶってしまった。特にダメージがあるわけではないけど、ドロッとしていて感触が気持ち悪い。勝ったはいいが恰好の付かない有様だ。


この辺も腕が上がれば、華麗に勝利する事ができるようになるのだろうか。


とりあえず、変身で切り替わった衣装に関しては変身解除すれば次に変身した時には綺麗になっているらしいのでそこは問題ないとして、これ肌に直接被っちゃった奴はどうなんだろう。一緒に消えてくれるの? 無理?






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