見てるベア

 謝罪はするが、その前に、個別に首謀者たちと話をしなければならないと、考えた末に清佳は結論づけた。

 できれば夏休みが終わる前、なおかつ咲坂と祐希が帰ってくる前に、顔を合わせて話しておきたい。そう思って数日待ってみたが、一人は中々実家から帰ってこなかった。連絡をしてみても返信もない。

 結果、仕方なく一人は後回しにして、プラントポットに残っている方と話をすることにした。

 一方的な連絡によって約束したその日、清佳は自室の壁にかけた二枚の絵を拝んでから、三階への階段を上った。

 そして早々に、思いもよらなかったものに出迎えられた。


「……ベアくん」


 階段上、三階の入り口。

 見覚えのあるテディベアが鎮座していた。

 何故ここに、と首を傾げながら、手に取る。

 先日の時点では、これも理由は定かではないが、ムラサキのアトリエにあったはずだ。あの後、ムラサキがいらないと持ち主に突き返したのか、それとも持ち主が再び手元に戻したのか。

 どちらにしても、今日、ここに置いている意図は今ひとつ読み取れない。

 つぶらな瞳と何となく向き合った後、頭を撫でた。柔らかな毛の感触を楽しみながらも、このテディベアを贈られかけた時のことを思い出す。

 短いやり取りではあったが、印象的だった。光の笑みも、母の日と言われた瞬間に「気持ち悪い」と突き放してしまったことも、よく覚えている。

 実は時々、反省もしている。年下の、精々が友達くらいの関係の女を母親扱いするのは、やっぱり褒められたことではないと今も思う。だが、いくら相手に非があっても、罵っていい訳ではない。


「謝ることが多いね」


 テディベアは当然何も言わない。

 テディベアを持ったまま、目的地へ向かった。

 階段を上りきれば、目的地までは数歩だ。

 階段から最も近い部屋の前に立つ。

 深呼吸を一つした。覚悟はもうできている。

 ノックしようと手を上げた。

 だが、扉はノックする前に開いた。


「おっはよー、サヤちゃん」

「ひっ、光さん。おはよう……ございます」


 タイミングが良すぎる。輝かしい笑顔がさらに怖い。

 驚いているうちにテディベアを奪われた。


「わざわざ来てもらって何だけど、俺の部屋で話す訳にいかないし、リビングまで下りない?」


 テディベアの腹を、顔に押しつけられる。

 身を引きながらうなずいた。



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