I will lose you.
玄関チャイムが鳴った。
「鍵、開いてる」
扉の開く音の後、玄関から声がした。
「おい、誰か、いんのか? ……檜原?」
「サヤちゃんいる? いたら返事して」
「暗ぇ。電気どこだよ……あった」
電気がついて、毛布越しに部屋が明るくなったことが分かる。
「ひのっ……は、ら?」
「咲坂くん、と、光さん?」
「檜原!」
さすがにほっと息をついた。
花火の音はまだ聞こえている。
おかげで時間経過は何となく分かったが、その音が消える瞬間が来るのが恐ろしく、演目と演目の間は、気が気でなかった。
花火大会が終わる前に救いの手が来て、本当に良かった。
「ごめん。先に椅子、起こしてくれるかな。腕が下敷きになってて」
「どういう状況だよこれ! 光!」
「俺に聞かないで。分かんないって。とりあえず起こせばいいの?」
毛布をはぎ取られた。
間近に床と、テーブルの足が見える。
涙と鼻水で酷い顔をしているだろう。見られたくないと思うが、どうしようもない。
「光! ハサミ!」
「近くにコンビニあったよな? あとそれ、一人で起こせる?」
「いける! あいつらに連絡もしとけ!」
出て行くならハサミ以外にも買って来てほしい物がある。咄嗟に、追うように声をかけた。
「光さん、ティッシュもお願いしていいかな。あとパンとか食べ物……」
「――何でテメェは落ち着いてんだ!」
本気で怒り、戸惑っていて、泣きそうな声だった。
手も足も縛られ、体を折り曲げさせられている。見た目のことは自分では想像するしかないが、咲坂でも動揺するくらいには酷い状態なのだろう。
小一時間ほど置いておかれたせいで微妙に冷静になっていたが、咲坂の反応を見て、実感が戻った。
また涙があふれた。
涙を止めようと思っても、次々に泣きたくなる理由が浮かんでくる。
死にたくはあったが、生きていて良かったと思う。生きていて良かったが、やっぱり死にたいとも思う。
感情が入りまじっていた。安堵も悲しみも、憎しみもあった。
ただ、何よりも強く思うのは、賑やかで楽しい日常は、これで終わってしまったのだという悲しみだった。
清佳はその中の誰が犯人だったとしても構わない。戻れるものなら戻りたい。そう思っている。
だが、清佳自身が、もう五人に合わせる顔を持たない。
先程までモニターが置かれていた場所には、盗聴器が転がっている。
咲坂は背もたれを持って椅子を起こそうとしていて、ほとんど聞いてはいなさそうだったが、清佳は言う。
「ごめんね……」
椅子を起こされ、乱れた髪がはらわれた。
首の後ろに回った紐に指がかかるが、取れなかったようで、少しして指は力なく離れた。
「何なんだよ、その態度……」
かすれた呟きの後、バレッタがつけ直された。
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