&かいものタイム


「あの、すみません、小野寺先輩。これから買い出しに行くんですが……」

「荷物持ち? 大丈夫、行くよ」

「ありがとうございます」

「ちょっと準備してくるから待ってて」


 小野寺が戻るまで待っていようと、ソファに腰かけた。

 何気なく向かいにいた祐希を見ると、ちょうど祐希も清佳を見ていたようで、視線がかち合った。


「祐希くんって、スマホでいつも何見てるの? 映画とか?」


 接し方に迷っている。

 先日、ムラサキから聞いた言葉を思い出しながら、問いかける。

 迷っているだけで、悪感情を持たれていないのであれば、話しかけてもそこまで嫌がられないだろう。

 ムラサキが適当なことを言っている可能性もあるが、指針にする程度ならばちょうどよい。


「……何で言わなきゃならないの」

「言いたくなければいいよ。私、映画好きで。もし面白いもの知ってたら教えてほしいと思っただけ」

「映画じゃない。写真」

「何の?」

「何だっていいでしょ。うっざいな。邪魔」

「あぁ、ごめん」

「……」


 これでは本当に、反抗期の子どもを持つ母親のようだと苦笑いしつつ、ダイニングの方を見る。

 ダイニング側の盗聴器は、今のところ、テーブルの裏側に貼りつけてある。音質が悪くなることを承知で、絶対に落ちないようにガムテープで固めてはいるものの、小野寺が足を組んだり、咲坂が騒いで体をぶつけたりするのを見ると、落ちてしまわないかと不安になる。

 時間があるともっと良い方法がないか考えてしまうのだが、中々思いつかない。


「買い物行くなら、プリン買ってきて、欲しい……」


 再び祐希の方を向く。

 以前よりは語気が弱く、わがままという雰囲気はなかった。


「いいけど、どういうの? 焼き? クリーム?」

「普通の」

「どれだ……」


 どことなく祐希の好みに関しては傾向がつかめてきたが、「普通の」では範囲が広すぎる。

 祐希はだいぶ変わった。今はもう間違ったものを買っても、再び買い物を行かされるようなことはないだろうが、それでは祐希が不満をため込むだけになってしまう。


「祐希くん、一緒に買い物来ない? 自分で選んだ方がいいように思うのだけど」


 今までも何度か誘ったことがあるが、花粉症だから、面倒だからなどと言って、来なかった。

 だが、今日は何となく、機嫌が良さそうだ。一応、何を見ているかという問いについては、答えてくれた。

 祐希は目をそらす。


「……い、く」


 すぐに念を押すように祐希は言った。


「荷物持ちはしないから。プリン買いに行くだけ」

「うん。小野寺先輩いるから、大丈夫」

「めんどくさ……。マスクつけてくる」


 花粉症は大変そうだと思いながら見送る。薬は高価なので難しいが、マスクくらいは共益費でまかなうべきかもしれない。

 祐希とすれ違いに、小野寺が戻ってきた。


「小野寺先輩、祐希くんも一緒に……」


 その後ろに咲坂もいた。

 じろりとにらまれ思わず口を閉じるが、今日は怒られるような覚えはない。

 見上げて固まっていると、何故か、横に置いていた買い物袋を取られた。


「咲坂くん? あの、袋」

「清佳さん、敬司も何か、買いたいものあるらしいから、行くって。あと祐希も行く? のかな?」

「あ、そうです。祐希くん、今マスクを取りに……咲坂くん! 買い物袋持っていかないで! 財布も入ってるから!」


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