パーティー


「ただいまー」


 弁当やお菓子、服の入ったビニール袋を持って、シェアハウスに帰宅した。


「咲坂くんいる?」


 問いかけながらリビングに入る。ソファには祐希しかいなかった。


「……いない。バイト」


 清佳が怒って以来、祐希は大人しい。居心地が悪くなるくらいに大人しい。

 清佳に怯えているような気配もある。

 自分の方が酷かったくせに、と思わないでもないが、清佳も考えなしに暴言を吐いてしまった負い目がある。その態度に文句もつけにくい。

 ただ、咲坂母に言われた言葉を思い出すと、今日くらいは良い人間であらねば、という気になった。


「ねえ、祐希くん。この間、嫌いになるとか言って、ごめん」


 ビニール袋をソファに置いて、祐希の向かいに座った。


「あの時言ったことは本心だったけど、態度は悪かった。嫌いになるって言うのも、何だか呪いをかけるようだったなって、あとで反省しました。……ごめんなさい」


 祐希は無言だ。だが、視線はスマートフォンではなく、清佳に向いている。

 頭を下げた。

 これ以上、言うことはない。

 許せとも言えない。

 仕方ないかと諦めて謝罪を終える。そして、咲坂家からの帰りしな考えていたことに、話を移す。


「それで、別件なんだけどさ――咲坂くんに、お金貸してたりしない?」

「は?」

「お金じゃなくても、借りパクとか。悪口言われたとか。何か、腹立った、みたいなこと」

「そんなの……いつもだけど」


 祐希はよく咲坂にからかわれている。

 ただ、いつもと言われると際限がなくなってしまう。


「とりあえず一個だけ。咲坂くんに腹が立ったこと」


 祐希は思い切り顔をしかめたものの、視線をさまよわせた後、ぽつりと言った。


「名前書いて取っておいたお菓子、勝手に食べられた」

「あー、それは咲坂くんが悪いね。何のお菓子?」

「チョコ」


 チョコレートなら大量にある。

 ビニール袋から、適当なチョコレート菓子を取り出して、祐希に投げ渡した。行儀が悪いが、近づくと怯えさせそうだったので、いたし方なしだ。


「な、何?」


 汚いもののように、祐希はチョコレートの包装をつまんで持ち上げた。

 清佳も同じ種類のものを取り出し、以前清佳を「根暗」と呼んだことを罪状として、口に放り込む。

 毒はないと伝える気分で祐希に笑いかける。毒など入れようがないが、気持ちの問題だ。

 そして問いかけに答えた。


「事情は省くんだけど、それ、咲坂くんが自分のお金で買ったお菓子なの。そのお菓子でさ、祐希くんのお菓子を勝手に食べたこと、許してあげてくれない?」


 咲坂は怒るだろうが、仮にこれで物資が大量に減っても、咲坂自身の人望のなさが原因だ。清佳は反省する気はない。


「さて。他の三人にも、声かけてくる」


 ソファから立ち上がって、清佳は階段を上った。


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