オリジナルが書けない二次創作作者の話

くらげもてま

書ける理由、書けない理由


「趣味は小説を書くことです」


互いの趣味をさらけ出し合う健常者特有の不可思議なコミュニケーションに晒された時、私はいつもそう答える。

そしておさだまりの返答がこれだ。


「どんな小説を書くんです?」


途端に私は言葉に窮する。なぜならわたしの書く小説はだからだ。

けして恥ずべき趣味ではない、と思う。だが言いたくない。それは、コーラを飲んだらゲップをするくらい確実に、こんな返事をされるからだ。


「なんで 一次創作オリジナルを書かないの?」


と……。


以上は筆者がしばしば遭遇する屈辱的なやり取りの例である。

何が屈辱なのか。

それは書けねえからである。一次創作が。書けるなら書いてんである。もちろん二次創作は好きだ。大好きだ。でも本当は、卑しくも執筆を趣味とするオタクとしては、やはり書きたい! 一次創作が! でも書けねえ! 死ねばーーーーか!


……ということで。


なぜ二次創作作者は一次創作が書けないのか?

本エッセイではその理由を探っていこうと思う。

なおここでいう「書ける」とは、構想し、着手し、校正し、完結まで至る一連の作業を指す。

それと「二次創作も一次創作も普通に書けるが?」と言う方々。愚かな阿呆が惨めに苦悩する姿を是非楽しんでもらいたい。



以下、ほんへ。



【説① : 二次創作は思考の土台があるから】

二次創作は原理上、既に定まった一次創作物の上に成り立つ。魅力的なキャラクター、世界観、用語などが予め定義済みである。

それだけでなく、版権コンテンツのキャラクターは創作のために最適化されている。演じ分けやすい語尾、印象に残る設定、物語と連動したキャラクターの過去、人間関係、因縁…など。

さらに二次創作では多くの説明描写を省略できる。キャラクターの容姿や過去、性格など、既に読者は理解してるので改めて説明しなくていい。これはとても楽だ。

一次創作をスクラッチのゲーム開発と考えれば、二次創作はアンリアルエンジンでアセット使い放題の開発を行うようなものである。当然、二次創作は一次創作より楽に「書ける」ことになる。


【説② : 二次創作はモチベが上がるから】

改めて言うまでもない話だが、二次創作を行うのはその一次コンテンツが好きだからだ。もう初めからモチベーション全開だ。

そしてこれもまた釈迦に説法だが、創作におけるモチベーションとは最重要リソースの一つである。モチベーションとはガソリンであり、酸素であり、そいつがなければペンを持つことすらままならない。俺はエルデンリングやるぞとなる。

で、二次創作は高いモチベーションからスタートするのだから、必然的に「書ける」可能性は高くなりそうだ。


【説③: 二次創作は読んでもらいやすいから】

上の説の変則的なパターン。

二次創作執筆の経験がある諸兄には頷いてもらえるだろうが、二次創作は読者がつきやすい。

これは当然の話だ。二次創作を書くような酔狂オタクを生み出すコンテンツは、同時に二次創作を読みたがるファンも多く抱えてる可能性が高い。

比較して一次創作は苦しい。どこの誰とも知らん奴が書いたモンなぞ読みたくない。

結果、読まれやすい二次創作のモチベーションは高止まりするが、群雄割拠の一次創作はモチベーションが尽きがちだ。


【説④ : 二次創作は作者の「本当に書きたいもの」に近いから】

前提として、大抵の作者は「書きたいもの」を胸に抱いている。例えば少年少女の未熟な恋愛、例えば希望から絶望に人が突き落とされる瞬間、例えば宇宙戦闘機の熱い格闘戦……だが人は意外と「本当に書きたいもの」を自覚できない。たいていは遮二無二書いてるうちに「あ、俺の書きたかったものはこれなんだ」と自覚される。

二次創作はそうした「本当に書きたいもの」に辿り着く手掛かりになりやすい。そもそも選定された一次コンテンツが作者の好みを反映しているからだ。例えば「ガンスリンガーガール」と「ドールズフロントライン」の二次創作を書くオタクがいたとして、彼(彼女?)はきっと「本当に書きたいもの」に無意識にだいぶ近づいている。

そういった訳で、二次創作では自然と「本当に書きたいもの」に沿ったものを書いていたが、一次創作に移った途端に「本当に書きたいもの」が何かわからなくなるのかもしれない。


【説⑤ : 二次創作は完結だけが目的ではないから】

そもそも論だが、二次創作の目的は完結ではない。好きなキャラクターの妄想を垂れ流すのが主な目的だ。いわゆる「やおい」……山無し落ち無し意味無しなどの言葉に象徴される通りである。

もちろん一次創作だって自由だ。どんな妄想を垂れ流したって構わない。だが「書く」ということになると途端にタスクが増える。構想がいる。プロットがいる。校正もいる。

そうした意味で二次創作はカジュアルに楽しめる。結果的に筆も進むのだろう。



つづく…

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