第45話 最終決着


「一応名乗っておこう。私が第103代魔王のカリオン・ザッハトルテだ」


 両肘と両膝を折られ首元にゼノンロードを突きつけられた状態で、それでも尚平静をその表情に保ったまま魔王は語りだした。


「最初に断っておくが今までの行いを謝罪する気はない。私は私達魔族が戦争に勝ち生き残るために最善を尽くしただけだ。罪悪感など抱いたことすらない」


「そうか。言い残すことはそれだけか」


「すまなかった。心から反省している」


「……」


 こいつ……。


「まぁ、いい。俺だってお前の仲間を殺したことに罪悪感は抱いてないからな。なら、なぜ話し合いを求めた? 逃れられない死を先延ばしにするためか?」


「違う。神について。そして魔族の今後について話し合いたかったからだ。私個人の命は既に諦めている。そうだな。だから今こうしているのは悪あがきみたいなものだ」


「神についての話は少し興味があるな。魔族の今後についても、まぁ聞いてやらんでもない」


「感謝する。まず此度の侵攻は神の意志によるものだ。私以外の全ての魔物が神の意思によって操られ、同時に強化され、暴走した。閉じたはずのグリモワール王国への転移魔法陣が何故か再起動し仲間たちは皆そこに殺到し転移した。私には止めきることができず、仲間を見殺しにしないため仕方なく私も含めた総戦力での全面攻勢を仕掛けることにした。この機に仲間を皆殺しにされてはもはや勝ち目はないからな」


「なるほど。フィルレイン。こいつの言っている神というのはルートとかいう使徒で間違いないな」


「うん。間違いないの。神界に戻ったらぶっ殺してやるの」


「……ところでそこにいる童子は、本当に神様なのか? いや、信じざるを得まいな。ルートとかいう天上の存在の加護を受けた我を素手で圧倒するような童子がこの世にいるはずがないのだから。そんなものがいるとしたら同じ天上の、それもルートとやらの上位の存在しかいないだろう。まぁ、依然信じがたい話ではあるがな」


「信じるの」


「信じ難いが信じてはいる」


「それで本題はなんだ」


 カリオンは一瞬瞑目してから、覚悟を決めた表情で語り出した。


「そうだな。そろそろ本題に入ろう。我らが奉じていた神が偽物であることは分かった。私は本物の神であるあなたに頼みたい。どうか――この1万年以上続く人魔戦争を終わらせてくれ。もう死をこれ以上見たくないのだ」


「なに? お前らは好きで戦争をしていたんじゃないのか?」


 耳を疑う。カリオンのフィルレインへの頼み。それは俺の望みと寸分違わず一致していたからだ。


「そんな訳無いだろ。私は貴様らこそ好きで戦争をしているのかと思っていたぞ」


「……はは。互いに戦争なんて嫌だと思いながら戦争してたわけだ。皮肉なもんだ」


「……全くだ」


 手足を失い命さて諦めてでも戦争の廃止を望むカリオン。俺は初めて魔王に、少しだけだが好感を持った。


 だから俺からもフィルレインに頼むことにした。


「フィルレイン。俺からも頼む。人魔戦争を終わらせてくれ」


「うんなの。頼まれなくても戦争をゲームとしてこの世界で起こすのはもうやめるつもりなの。だから安心してなの。もう人魔戦争は終らせるの。――フィルレインは今まで無自覚に酷いことをしてきたの。けど自分もこの世界のプレイヤーとして生きることでようやく思い知ったの。死んだり、傷ついたり、それは本当に辛いことだって。他者に与えちゃいけないものだって。だからもう――」


 戦争は終わりなの。


 憂いを帯びた神々しい笑顔とともに、フィルレインは――神は、確かにそう宣言した。







「んん……」


「あ、起きました! 痛いところはありませんか!?」


「え、ホリィ……? なんで、ここに……」


 戦いに破れ気絶していたアリアはホリィの神聖術により癒やされとうとう気を取り戻した。


「私、魔王に負けて――ガスキンッ!」


 アリアはガバッと起き上がりガスキンを目で探す。そして魔王をマルスと知らない女の子が身動きを封じて話し合っている想像だにしなかった光景に丸くする。そしてその奥――ガスキンの死体を見てアリアは絶叫した。


「いやぁあーーーーーっ! ガスキーーーーーン!」


「っ!? アリア! 気がついたのか!」


「セイントブラスター!」


「!?」


 アリアが魔王へと放った聖属性の光線魔法を俺はゼノンロードで天井へと弾き返した。


 天井に大穴が空き王城が揺らぐ。まずい。このままでは王城が崩壊する。アリアを止めないと。


「やめろアリア! 戦いは終わった! もう戦わなくていいんだ。憎まなくていいんだ!」


「なんで私を邪魔するのよマルス! あなたも敵なの!? 敵なのね!? ならばもろともぶち殺して――」


「ごめんなさいアリア。記憶の追想ダウジングメモリーズ!」


「お゛っ!?」


 ホリィがアリアの後ろからダウジングメモリーズを発動する。アリアは白目を剥きえげつない声を出した。大丈夫なのかあれ。


 3秒ほど痙攣した後、アリアは膝から地面に崩れ落ちた。ピクピクと痙攣し口の端から涎を垂らして「お゛お゛お゛」とうめき声を漏らしている。ちょっと怖い。


 ホリィが今アリアに起こっていることを説明してくれる。


「神とか使徒とか今ここであったこととかの記憶をとにかく全部無理やりぶち込みました。記憶を送るだけなら許可を得ずに行えるので。副作用で一時的に脳が混乱することになるのですが、やむを得ませんでした」 


「ひ、久しぶりに見たけどやっぱりえげつないな……」


「あとは正気に戻ったあとアリアがどんな行動に出るかですが……それはもう、アリアを信じるしかありませんね。ひとまずは王城から脱出しましょう。地面が揺れてますし」


「そうだな。転移ゲート発動」


 俺は転移ゲートを出現させた。俺は魔王とガスキンの死体をかついで、ホリィとフィルレインはアリアは担いで転移ゲートを通る。


 孤児院跡地に俺たちは転移を完了した。


 遠くの方で地鳴りと崩壊音が聴こえる。グリモワール王城が崩壊する音。その音はまるで今までの歴史と運命が崩壊する音のようだった。


 この日、俺たちの戦いは終わった。


 血を流し待ち臨んだ平和へと、少々思いがけない結末ながらもついに辿り着いたのだった。




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