第44話 終わりはあっさり


「王城から禍々しい気配を感じます」


 かつての仲間の死に動揺したものの、元々心の強いホリィはすぐに立ち直った。

 ブレイドとマナの死体を火葬して簡単に弔ったあと、しばらく街を探索していたらふいにホリィが立ち止まって王城を見てそう言った。


「すぐに行こう」


 走って王城に向かう途中邪悪センサーを発動する。凄まじく巨大な反応。これまでで間違いなく一番の大きさ。


 そして、この気配は魔剣ゼノンロードの記憶を通して見たことがある。


「魔王がいる」

  

「え!?」


「マルスたまなら勝てるの。心配はいらないの」


「準備はしておこう。スーパーチャージ」


 聖剣がグワンと唸り力が漲る。そしてスーパーチャージはいくらでも重ねがけできる。


「一瞬でケリつけてやる」


 王城につくまで俺はひたすらスーパーチャージを重ねがけし続けた。





 王の間。


 気配の発生源へと俺たちは辿り着いた。


 ドアを蹴り開け発生源へと出せる最高速で斬りかかる。邪悪の気配の主は驚愕に目を見開き反射的に手で腕を庇う。だが、無意味だ。スーパーチャージを重ねがけした斬撃を腕一本で防げる訳――


「っ!?」


「ふん!」


 防がれた。


 俺は衝撃をいなして後方に飛ぶ。そして聖剣から王魔剣ゼノンロードを取り出し、聖剣を床に捨てた。突然力を失ったゴミっぷりに苛ついたからだ。

 原因は薄々と勘付いている。その予想を後方で見守るフィルレインが補強してくれる。


「る、ルートの奴またやりやがったの! 聖剣の機能を強制停止したの!」


 どうやらまた神の使徒のせいらしい。


「リュートと同じか。神の使徒ってのはどいつもこいつも耳っちくて卑劣だな!」


「貴様、聖剣使いのマルスか! ちっ! あと数秒あればそこの女に止めをさせたものを!」


「女――アリア!」


「よそ見をする暇があるとは余裕だな!」


「うるせぇ死ね!」


 魔王と思しき整った顔立ちの男と剣と拳で打ち合いながら俺はアリアに視線をやる。意識を失っているが命に別状はなさそうだ。しかしこのままだと戦闘の余波で傷つけかねな―――。


 そこまで考えて俺は気づいてしまった。アリアのそばに倒れている胴体に大穴の空いた血まみれの男の存在に。


「ガス、キン」


 ガスキンの死体を見て一瞬、俺の頭の中は真っ白になった。


 真っ白に、なってしまった。


「致命的な隙だな」


「しまっ――」


 紙一重で保たれていた均衡が崩れる。腕を大きく弾かれ、ガードが崩れた。

 魔王の鋼よりも硬い拳が迫る。悪あがきすらできそうにない。迫る拳を俺はただただ無防備に喰らい血飛沫と化す――はずだった。


「鏡力聖壁!」


「ふん、なの!」


 俺の前に発生した透明なバリアに魔王の拳が受け止められる。その拮抗は一瞬でバリアはすぐに砕け散ったが、体制を立て直すには十分な時間を稼いでくれた。ゼノンロードを振るい応戦しようとするが、俺が動くよりも前に小さな人影が俺の脇をすり抜けて魔王へと接近し、そのまま殴りかかった。


「ぬ、おおおおおおおおおおおおおお!」


 小さな人影――フィルレインに殴られた魔王は大きく吹っ飛ばされそのまま壁に激突しめり込んだ。


 俺は呆気にとられて追撃も忘れてフィルレインを見た。フィルレインはえへんと胸を張りブイサインをした。


「キャラクリポイントの振り方がよく分からなかったからとにかく死ななければいいと思ってステータスに全振りしたの。だからステータスだけならフィルレインはこの世界で最強なの。ほ、褒めてもいいの? マルスたま」


「あ、ああ。言ってる意味は殆ど分からないけど偉いぞフィルレイン」


「えへへーなの」


「……本当にふっ飛ばしちゃった。一瞬時間稼いでくれたらぶっ飛ばすって宣言どおりに。神様だから強いとは思ってたけどここまでだなんて……」


「ぐ……神、だと。なるほど。この童女が主が入れ込んでる存在と言う訳か。く!? 男を殺せ男を殺せと耳の奥で何度も……気が狂いそうになる」


 土埃の向こうから出てきた魔王はフィルレインの攻撃を防いだ際に折れた右腕を左腕で庇っていた。なんかオタク臭い格好であった。


「……釈然としないが過程はどうでもいい。今ここでお前を殺して全て終わらせてやる」


「ま、待て。少し話し合おうではないか」


「話し合わない」


「くっ!? ふ、ふん!」


 魔王は何を考えたのか左腕の肘の部分を右手で握りそのまま握りつぶした。流石に呆気に取られて俺は攻撃を躊躇する。魔王は痛みに青ざめながらもう一度停戦を乞い願う。


「私にもはや勝ち目はないし両腕を潰されてろくな抵抗も出来ない。これでもまだ不安なら次は右足を。その次は左足を潰そう。話し合いに応じる気になるまでいくらでも体を差しだす。それでも駄目か」


「……不穏な動きを見せたら即殺す」


「充分だ。寛大な判断に感謝する」


 俺はどうしてこうなった? と頭の中に無数の疑問符を思い浮かべながら敵の首魁たる魔王と話し合うことになった。

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