そして僕らは
喧嘩、というより、一方的に私が暴言を吐いた、あの日。
あの日はカーライルの要望で、二人とも初めて行く、実装されたばかりのダンジョンに潜っていた。
ダンジョンは潜る人数によって難易度、獲得できるアイテムに差が出る。最低1人、最大4人、いいアイテムが欲しければ4人のフルパーティーが推奨される。
ダンジョンに行きたいと申請を出した人たちを集めて、ランダムで4人チームを組むシステム、ランダムマッチングもあったが、私が知らない人とダンジョンに潜るのは緊張するので、カーライルと一緒の時はいつも二人で行動してもらっていた。
彼がタンク、私がヒーラーというのが、最近の定番だ。
初めて行くダンジョンなので、敵の配置や仕掛けのことももちろんわからない。
ギミックにいちいち引っかかっては、そのたびにペコペコ謝る私という図が何回繰り返されただろう。
しんどくなってきていた。いちいち許さなければならないカーライルも、負担を感じていたことだろう。
中ボス攻略の時だった。乱発する範囲攻撃を順序良くかわしていかないといけないギミックに、私は苦戦していた。
ヒーラーなので回復魔法をかけなければならない。でも回復に気を取られると範囲攻撃がうまくよけられなかったり、HPバーばかり見ているといつの間にか死んでいたり、そんなことを繰り返し続けていた。
「回復はそんなに気を使わなくていいですよ、範囲を避けるところをがんばりましょう!」
そのたびにカーライルは励ましたりアドバイスしたりしてくれていて申し訳なかったが、申し訳ない気持ちは、通り越すと面倒くさいに切り替わるのだと実感して、私はとにかくイラついていた。
「基本継続回復魔法だけで大丈夫です。HPが減ったからって全部回復しなきゃ、って思わなくていいんですよ」
いちいち回復してる初心者で悪かったな。
「シエラさん、dotってわかりますか?ちびちび継続ダメージを与える魔法です。できれば常に切らさないように使ってください」
使ってないスキルがあって悪かったな。あんなのいらないと思ってスキルバーに組み込んでないんだよ。
「ヒーラーでも攻撃は結構重要なんで、回復だけに徹さないで攻撃魔法も使ってくださいね」
スキル回しできなくて悪かったな。これでも全力で攻撃して回復してるんだよ。
「範囲攻撃来る前に、シエラさん自身にも継続回復かけてください。避けきれなかった時の保険に」
避けられなくて悪かったな!一回避けられないと大抵全部当たるんで、継続回復なんて意味ないんだよ死んじゃうんだよ!!!
強いボスにイライラして、下手な自分にイライラして、先輩面でいろいろ教えてくるカーライルにイライラして。
今日は一旦ここまでにしましょうか、離脱しましょう、なんていう彼の気遣いに、侮辱されたような気がしてついに爆発してしまった。
「初心者連れまわして先輩面して楽しい?」
「…シエラさん?」
「あなたは素質あったのかもしれないけど、私はもともとダンジョンなんか好きじゃないのよ!」
「あの、シエラさん落ち着いてください」
「みじめな気持ちにさせて満足?気遣ってる俺えらい??何なのよ!」
「シエラさん、俺はそんなつもりはなくて」
「いつもいつもあなたのペースでどんどん進めてって、私がどれだけ必死でついて行ってるかわかる?
みんながみんな、あなたのようにできるようになっていくわけじゃないの!
いい加減にして!私はあなたのおもちゃじゃないのよ!?」
言い終わった途端冷静になった。というより、冷や水を一気に被ったような感覚がした。
発言はもう戻せない。壊してしまった。目の前が真っ暗になる。心臓の音だけがうるさかった。
傷つけた。
その罪悪感から私は、数日ログインすることができなかった。
その日から開催のイベントの報酬が魅力的だったから。
そう自分に言い聞かせて、再びログインしたのは、あの日から4日後だった。
ビクビクしていたけど、フレンド欄にカーライルのオンラインマークはなく、ほっとしたけれど、とても残念な気持ちになった。
何を期待しているのだろう、自分は。
あんなことを言って、返事も聞かずにログアウトしてしまったのだ。もうきっと前のようには付き合ってくれないだろう。
体験的にも知っている。リアルでもよくある、「スルー」の関係になるだろう、私ならそうする。
ここはオンラインゲームの世界なのだ。面倒ごとなんて誰も持ち込まれたくない。
面倒があったなら、顔を会わすわけでもないのだから切ってしまえばいい。
何もなかったみたいに、話しかけなくなり、別々に遊ぶだけ。それが現実だ。
傷つけたのだから。そうされて当然なことをしでかしたのだから。私に怒る権利なんかない。
ただそっと、いなかったものとして扱われてあげなければならない。
それがせめてもの罪滅ぼしで、自分もこれ以上傷つかないための最適解。わかってる。
胸が痛んだ。じくじくとさいなむように痛むそれに、息ができなくなる。
バカだな、本当にバカだ。そっとログアウトボタンを押そうとした。もうこのゲームで遊ぶことは二度とないだろう。
画面にふと、見知ったキャラが現れる。遠目にも目立つ、赤の帽子とコート姿。
ああ、あの弓使いさんだ。何してるのかな、一人かな。何だろ、まっすぐこっち来るな。え、止まった?
呆然と目の前の画面を眺める。美しい銀髪の男性の姿が映し出されていた。
(こんばんは)
ささやきで挨拶された。まさかあの時の人が、自分なんかに話しかけてくる日が来るなんて。
さっきまでさいなまれて死にかけていた心臓が、一気に鼓動を取り戻す。頬が紅潮して手先が震えた。
(こんばんは)
そう返すのに数十秒かかった。指先がうまく動かなくて、その返事だけで精いっぱいだった。
彼は私を安心させるように、微笑むのエモートを使い、お辞儀のエモートをした。
(突然話しかけてごめんね、緊張させたと思う。
悪いんだけど少し話したいんだ、時間をもらえないかな?)
(私に話…ですか?)
(うん。パーティーを組ませてもらっていいかな?話は少し長くなりそうだし、ささやきはチャットやりづらいから)
数秒遅れて、頷くのエモートを返す。パーティー申請画面が現れたので、OKのボタンを押した。
「よし、これでパーティー会話ができるね」
「あの、お話というのは…」
「うん、大丈夫、悪い話じゃないから安心して。
少し場所を変えよう。俺の個人ハウスでいいかな?」
憧れの個人ハウスの話が出て、少し興味が湧いた。
あれはお高い買い物なので、いつかいつかと思っていてもなかなか手が出ないのが実情だ。
おまけに土地争いの問題もある。決して全プレイヤーが手に入れられるものではないのだ。
行ってみて内装などを見せてもらいたい、でも同時に人様のテリトリーで二人きりという状況になるのが、例えゲームの中とはいえ、少し怖いような気がした。相手は男性なのだ。
返答に困っていると、弓使いはそれを察したかのように話しかけてきた。
「いきなり人の家じゃ怖いかな?ごめんごめん。
じゃあ庭はどう?家の中じゃなくて庭なら、まだマシだったりするかな?」
「すみません、変なところで臆病で」
「いいよいいよ気にしないで。わからなくはないから」
女心に聡いイケメンだ。これでゲームの中でも強キャラなのだから、きっとかなりモテるのだろう。
別世界の住人に話しかけられた気分だったが、意外と悪い気はしない。
この人もまぶしい人ではあるが、何というか、光がお日様のようにやわらかいのだ。
気分がポカポカして、思わず着込んでいた分厚い罪悪感コートを脱いでしまいたくなる。
だが脱ぎ掛けて気を引き締め直した。話の内容はまだわからないのだから。
「そういえばまだ名乗ってなかったね。俺はシエスタ。名前通りお昼寝が大好きなんだ」
ウィンクのエモートまでつけてくるのがキザだが、その仕草もよく似合っていた。
「私はアルシエラです。呼び方は、えっと」
「シエラさん、でいいんだよね?」
「あの、どうして…」
「それも詳しく話すよ。とりあえず、俺の家に行けるように、フレンド登録してもらっていいかな?」
「は、はい…」
この呼び方。あの人が関わっていることが直感的にわかった。
私は罪悪感コートを、頭から深く被りなおして、シエスタの後について行った。
美しい海の広がる港町に、シエスタの家はあった。
石畳の街、建物は欧州風のようで、少しレトロだがそれがいい味になっていた。
時折カモメが頭上をゆったり飛んでいく。素敵な街。
私がまだ足を踏み入れたことがない地域だ。物珍しさにきょろきょろカメラを動かしていたら、彼を見失った。
慌てて探し回ると、曲がり角で待ってくれている。ついでにエモートで微笑まれた。
こちらの気持ちなんか見透かすような彼の行動に戸惑い、画面前で私は頬を赤らめた。
ゆっくり歩いてくれる彼についていきながら、街並みを堪能する。本来の目的を忘れそうだった。
やがて白壁に三角屋根、出窓のついた小さな家に辿り着いた。
華奢な飾りの門をくぐると、芝生の敷き詰められた前庭には、バラが植えられ、小さな白いガーデンテーブルが置かれていた。
かなり女受けの良さそうな作りに、一瞬ひるむ。この人、女心捉まえに来すぎだろ。
当の本人は涼しい顔で、ガーデンテーブルに着くとこちらを手招きした。
招かれるままにテーブルに近づき、椅子に座るのエモートを使う。
座ってみてわかったが、確かに画面が庭先だと、それほど緊張しないで済むようだ。
「大丈夫かな?」
「あ、はい」
「よかった。では早速本題に入るね」
「…よろしくお願いします」
「面接じゃないから、そんなに気を張らないでね」
シエスタは足を組みなおした。そんなエモートがあるのかと驚く。
「気づいているかもしれないけど、俺はライルさんから話を聞いているんだ」
ズキ、と心臓が痛む。やっぱり彼が関係していた。
「まずは俺がなぜ話を聞いたのかから説明するね。
少し長くなるけど、いいかな?」
「はい、どうぞ…」
押しつぶされそうな気分になりながら、シエスタの話を待った。
だがしばらく待っても話の続きが来ない。不思議に思っていると、テーブルの上にティーセットが出現した。
驚いて彼を見ると、エモートで微笑まれる。安心させようとしてくれているのだ。気遣いがうれしかった。
「…二人にはSモブ狩りの時に会ったね。会ったと言っても見かけただけだったけど。
実はあれからしばらくして、ライルさんとはダンジョンのランダムマッチングで再会したんだ。
攻略の後、ダンジョンから出る直前に白チャで、「Sモブの時はありがとうございました!」って言われたのが、話すきっかけだったんだ」
少し間が開いた。シエスタの方にもティーセットが出現する。
この人は雰囲気を重視する派らしい。
飲めたらいいのにな、そんなことを思いながら、話の続きを待った。
「そのあと少し彼とダンジョンで話をしたよ。彼はどうやら俺のことを結構調べてくれてたらしい。
PVPランクバトルの上位者だとか、ゲーム用のSNSも見つけたって言ってたな。今では日記のファンです、なんて言われてこそばゆかったよ。
そのあと、調べまわったことを謝ってくれた。誠実な人柄だな、って思って好感が持てたよ。
彼とはフレンド登録をして、強くなったら一緒にSモブ狩りに行く約束をして別れた」
すごくカーライルらしい話だった。彼との会話、彼のエモートの微笑みなどが頭に再生される。
それと同時に、自分の暴言も思い起こされて、胸の痛みが増した。
「俺は彼がいろいろ強くなるコツとか聞いてくるかな、と思ってたんだけど、彼は自分で調べて強くなる派だったみたいで、それから一切連絡はなかった。
でもある日連絡があってね。
誰も頼れる人がいないから、あなたを頼りました。ご迷惑だと思いますが、相談に乗ってもらえませんか、って来たんだ。
人間関係の話です、重いです、と最初に前置きされたからちょっとひるんだけど、断れる雰囲気もなくて聞いたんだ。
君を傷つけた、って話だった」
「違う!傷つけたのは私で」
思わず反論してしまった。その一言で、カーライルが今どんな気持ちでいるかがわかった。
謝りたかった。ただ素直で真っ直ぐで、心優しい彼に。
「彼が最終的に知りたいのは、君を傷つけないように謝る方法だと言った。
なら全部話してくれないと判断もできない、ライルさんの傷をえぐることになるけど、全部思い出して話せるかい、と聞いたんだ。
それでできる限り詳しく聞いたよ。ここはシエラさんの了承もなしに聞いて悪かったと思ってる。ごめんね」
「いえ、私は…文句なんて言える立場じゃ…ないです」
「これは俺なりの感想でしかないけど、喧嘩両成敗かな、って思ったよ。
どっちが悪いとかではなくて、どっちも悪くて。だから互いに謝ったらいいんじゃないかなって、ライルさんに言ったんだ」
ここでふと話が途切れた。間が開くのはちょっと怖いのだが、シエスタも考えながら話してくれているのだろう。
「ライルさん、言ってたんだ。
自分がだんだん強くなっていってるのが楽しかったから、その楽しさを、シエラさんにも知ってほしかったって。
ネットを使って勉強して、できる限り強くなるコツを学んで、それを君に教えて。
君がそれに応えて、どんどん戦い方がよくなっていくのを見ているのが、とても楽しかったって。
だから君自身がそれをどんなふうに思っているのか、ちゃんと確かめることを忘れてしまっていた、って。
君が爆発して、はじめてそのことに思い至った、って、それを恥じていたよ」
「…私、ライルさんにすごい暴言を吐きました」
「うん、それも聞いてる。でも内容は悪かったかもしれないけど、君の気持ちはわからないわけじゃないんだ。
実はこういうのって「あるある」なんだよ」
「…あるある、ですか?」
「うん、結構ある。初心者に教えるのが楽しくてやりすぎたー、ってね。
まあ多分ライルさんは、初心者同士が一緒に強くなっていくのが楽しくて、それが理想だったんだと思う。
それを押し付けちゃったんだね。それが悪いところ」
「私の悪いところは…言葉を選ばなかったこと、爆発するまでため込んだこと、ですか?」
「…君は頭がいいね。おっと、上から目線ごめんよ」
「いえ…」
シエスタと話していて、少し気が楽になったのを感じた。
自分だけでため込まず、人に話す、というのがこんなに気持ちを落ち着かせるものだとは思わなかった。
それに、第三者が意見してくれる、というのが、話の整理に役立つこともあるのだと知った。
これは間に入る人によるだろうが、シエスタは今回の話では、とびきりの適役だったのではないだろうか。
少しその事実に感動していると、シエスタが突然咳払いのエモートをした。
「あ、すみません、私何か失礼なことを…」
「違うんだ、失礼なことをしたのは実は俺なんだ。
今からそれを謝るから、ちゃんと聞いてね」
「え?は、はい…」
思わず本体の姿勢を正しながら話を待つと、シエスタが再び足を組みなおしながら、話を続けた。
「ライルさんと話し終えたあと彼も、君みたいに少しほぐれた様子だったんだけど、問題はそこからだったんだ」
「問題…?」
「どうやって君と話すか、だよ」
「…そういえば、シエスタさん私がログインしてすぐお会いしましたけど…」
「うん、はい、ごめんなさい」
「え?なんで謝るんですか?」
「まず君のログイン自体を待つしかないのは事実だったんだ。
問題は、ログインしたとき的確に会いに行く手段を得ること」
「…どうやって?」
「そう、そこなんだ。
結論から言うと、外部ツールを…公式に認められていない、使用を禁止されているものを使ったんだ」
「え?」
さっぱりわからなかった。
使っちゃいけないもの…?それって、捕まったりしないんだろうか?
まずはシエスタのことが心配になったが、詳細を聞くとその心配も恐怖に変わる。
「まず、ライルさんはその手のことに詳しくなかったんで、
俺がPCを数日間立ち上げたままにして、ゲームにはずっとログインした状態にしていたんだ。
そして外部ツールを使って、指定したターゲットがログインしたら、スマホに通知が来るように設定していたんだ。
ターゲットの座標も出るから、これなら絶対に逃さない」
え、何それこっわ。
「で、俺がPC前にいられるときに、シエラさんがログインしてくれたから、急いで会いに行った、というのが真相です」
「…あの、言葉は悪いですけど」
「はい」
「…ストーカー」
「その通りです」
シエスタは椅子から立ち上がると、椅子の横で土下座のエモートをしてくれた。
謝ってくれたのはいいんですが、でも正直怖いです。
とは思いながらも、ここで一つ疑問が浮かんだ。私は椅子に座りなおしたシエスタにそれを聞いてみる。
「シエスタさん…どうして、私たちのためにそこまでしてくれたんですか?」
彼にとっては、ただの初心者が初心者らしい喧嘩をした、ただそれだけのことだったのに。
どうしてそこまで協力してくれたのか、それが疑問だった。
シエスタは少し間をおいてから、話し始めた。
「ライルさんの姿勢と人柄に興味を持ったのが一つ、かな。
あとは、俺個人の問題なんだけど…俺も、このゲームの人間関係ではいろいろあった方でさ。
もう誰とも話さない、一人でゲームをしよう、って思った時期もあったんだ」
少し前の私の話を聞いているような感覚になった。
ああ、この人に抵抗がこんなに少ないのは、そういう部分が似ていたからなんだろうか。
先程の警戒心が解け、親近感が生まれるのを感じる。
「でもいろんなところで繋がりができるのは、リアルでもネットでも変わらないよね。
ライルさんは俺に繋がりを持ちに来てくれた。真剣に話してくれた。相手を思いやっていた。
どんな結果になるとしても、彼の真剣な思いを、一度は届けてやりたい、そう思えたんだ。
思えちゃった上に、俺には手段があった。だったらもう、しょうがないよね?」
べっ、と舌を出すエモートをしてみせるシエスタ。
おどけて見せて、ストーカー行為を揉み消そうとしているらしい。
何だかかわいくて、許せてしまいそうなところが小憎らしい。
「ライルさんが来るまでには、まだ時間が早いからもう少しかかると思う。
よければ話を聞いてあげてほしい。俺からは、以上です」
「はい」
「…聞いてあげてくれる?」
画面前で笑ってしまった。聞き方がかわいい人だ。
「はい、私も謝りたいし、大丈夫です」
「そっか」
二人同時に、笑うのエモートをした。私の心は決まっていた。
あれほど押しつぶされそうだった胸の痛みはなくなっている。深呼吸をした。大丈夫、いける。
私は、カーライルのログインをシエスタの家の中を案内されながら、待つことにした。
「振られる覚悟で来ました」
「いや、付き合ってないから」
ログインするなりパーティーに参加、シエスタの家に来たかと思ったら、
歩行からの流れるような土下座エモートの後に、とんでもない台詞を吐かれた。
カーライルの発言に思わず、ノリツッコミのような返しをしてしまう。
「そうですよね俺なにいtttってんだ住みません1111!!」
相当焦った返事が来て、彼の動揺が如実に伝わった。
シエスタが大爆笑のエモートをして笑っていた。さすがに私はエモートはしないが、画面前で吹き出してしまった。
「あの」
「あの時はごめんなさい。私の言葉も悪かったし言いすぎました」
彼が何か言うのに被せるように、自分から謝った。
素直な気持ちを伝えられた。それだけで胸の内は澄み渡った。
「あの、俺も…本当にごめんなさい。あなたの気持ちを考えずにいろいろ押し付けてしまって」
「うん、それは正直つらかったです」
「う、はい…」
「でもおかげで強くなれたし、強くなる楽しさも知りました」
「…本当ですか?」
「嘘だったら言いません。特にあなたには」
「…はい」
「…許してくれますか?」
「俺の方こそ!許してもらえますか…?」
「恋人同士か」
二人してシエスタの方を向く。突っ込んできた本人は、大笑いのエモートのあと、口笛を吹くエモートをしていた。
かわいいけどかわいくない。場の空気はすっかり和んでいた。
「じゃあ仲直りの証に、こないだ攻略し損ねたというダンジョンでも行きますか!
もちろん俺も連れてってね」
「それを先に言わないでくださいよ。今誘えたらいいなって思ったところだったのに」
シエスタとカーライルの言い合いにも笑ってしまった。
許されたと、思ってもいいのだろうか。
お互いにスルーしなかった関係が、ここに生まれてもいいのだろうか。
「行きましょう。私、ヒーラーやります」
その発言に、カーライルがこちらを振り向く。続いて笑顔のエモートをしてくれた。
シエスタのフレンドを含めて4人、初めてのフルパーティーで、私たちはダンジョンに挑んだ。
無事に範囲攻撃を避けきった私は、勝利の喜びの味を知ることができたのだった。
アルシエラ:キャラクターラフ絵
https://kakuyomu.jp/users/wanajona/news/16817330657277999844
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