第10話 完全にやられた

「結局何もなかったですね」

 昼休みになり、安心して席を立つ。今日は何も買ってないので食堂に行って食べる。



「まだ混んではないか」

 四時限目が終わってすぐに食堂へ直行したおかげか、人はそこまで多くない。

「おいしそうですね。いただきます」

 今日の昼飯は唐揚げ定食である。衣はサクサクして中はジューシーでおいしいと定評だ。実際僕も気に入っている。ただボリューム感があって食べきるには苦労する。



「お、おい!あれみろ!」

「『天才姫』だ」

「食堂に来たっていうのは初めてじゃないか」

 食堂が少し騒がしくなったと思ったらどうやら『天才姫』が食堂に来ているようだ。たしか有栖院さんは今までずっと弁当だったはずだけど。

 そんなことを考えていると

「となりいい?」

 聞き覚えのある声が聞こえた。



 そこにいたのは昼飯を持った有栖院さんと舞元さんだった。

「おいおい、なんであの二人はあんな端っこに行ったんだ?」

「でも二人分空いてる席ってあそこしかないみたいだぞ」

「なら偶然ていうわけか」

 あたりを見渡しているとこちらを見てひそひそと話している奴らが多い。あともうすでに学食は大量の生徒で埋まっていて二人分の席は空いてなさそうだ。

「完全にやられた」

「そんなつれないこと言うなよ~」

 そう舞元さんが言ってきた。おそらく昨日の夜に言っていたのはこれだろう。

「私としては食堂でたまたま席が隣になってそこからしゃべるようになって仲良くなる、っていうストーリなんだけどどう?」

「俺の意思が反映されてないので却下です」

「ちなみに反論は認めません」

「なぜ聞いた!?」

「なんか二人とも仲良くなってない?」

 これまで黙っていた有栖院さんが会話に入ってくる。

「そんなことな――――」

「連絡先交換したからね!」

「何バラしちゃってるんですか!?」

「…………」

 有栖院さんが無言になってしまった。

「あれ~?茜、どうしたの~?」

「な、なんでもない!」

「ほんと~?」

「ほんと!」

「ごちそうさまでした」

「「えっ?」」

「僕はこれで」

「ちょ、ちょっと!?」

「何も話しないの!?」

 騒いでいる二人をしり目に僕は食堂を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る