第2話 気に食わない
今日の下校時間、僕は少しお手洗いに行き教室に戻る途中。
「僕と付き合ってください!」
「っ!」
ちょうどトイレから教室に戻る途中にある階段で青春が行われていた。
(なんて間の悪い!)
そう心の中で悪態をつくがどうにもできない。この告白劇が終わるまでは出られそうにない。わざわざ遠くの方に行かなければよかった。
早く終わらないかなーと思っていると
「ごめんなさい。あなたとは付き合えません」
(この声って…)
壁からのぞくとそこには当然一組の男女がいた。男の方は知らない顔だが女の方は知っている。有栖院さんだ。
「そうですか」
男の方はフラれた割にはそこまで落ち込んでいる様子はない。多分だけどフラれるとわかっていて記念に告白したという感じだ。
「それでは失礼します」
「うん」
男の方はそのまま階段を下りて行った。有栖院さんはその方向を見ながら立っている。有栖院さんが反対側を向いている今がチャンスだと思い立ち上がった瞬間、
ガン――――
足を火災報知器の金属部分にぶつけてしまい大きな音を出してしまった。
「誰かいるの!?」
有栖院さんはこちらを向く。もう隠れていることがバレている以上このまま隠れるのは悪手だ。
「すまん。盗み聞ぎするつもりはなかったんだ」
僕は正直に姿を見せた。女子と話すのに緊張してぶっきらぼうに答えてしまった。
「あなたは、同じクラスの神川くん、だよね?」
「よく僕のこと知ってたね」
「だって同じクラスだもん」
どうやら『天才姫』はクラス全員の名前を把握しているらしい。まだ一か月も経ってないのにすごいや。そして僕に向けられている笑顔。まさに男を惚れされる完璧な笑顔だ。
「このことは誰にも秘密ね」
「他言するつもりはない」
人差し指を口元にあて少し前かがみになって上目遣いでお願いしてくる。きめ細やかなブロンドヘアが肩から落ちる。男を落とすのに文句の言いようもない立ち振る舞い。満点をつけたいくらいだ。
「ありがとう!お礼に何かしてあげようか?」
『天才姫』からの魅力的な提案。表情もいつの間にか無邪気なものから一変して蠱惑的なものになっていた。普通なら是が非でもお願いを聞いてもらうだろう。
「大丈夫です」
「……そう?」
僕は別に偽善者ぶっているわけじゃない。僕はただ――――
「僕はあなたが気に食わない。だからあまり関わらないでください」
「………………は?」
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