#3 殺戮アンドロイド
「殺戮アンドロイド?」
「あぁ。ただ、詳しくは俺にも分からない。俺の異能力【
なるほど。ここに初めて来た時に会長が言っていたやつか。
どうやら僕らはこのセンターに収容される時に、それぞれの役割で名称が登録されているらしい。
その役割は上が勝手に決めた仕事みたいなもの。
なんだか出荷を待つ家畜みたいですごく不快だから自分がどんな名称で登録されているのかなんて聞いたこともない。
まだ15.6歳と思しきこの少女が殺戮アンドロイドと名付けられているくらいだ。
上層部には頭のイかれた老害か、厄介な性癖持ちしかいないんだろう。
考えるだけ無駄だ。気持ち悪い。
「……ねぇ、この子さ。清水さんのことマスターって呼んでて、私たちにいきなり攻撃してきたけど……。
彼女の異能力がそうさせるのかな」
「……それは誰かに洗脳されることで効果を発揮する異能力があるってことか?俺は聞いたことないぞ」
「私もないよ。でも、私の異能力に拘束した相手の異能力を封じ込める効果があるのは知ってるでしょ?
実際、この子は私が拘束した瞬間に死んだように大人しくなった。それに……」
「うん。真彩の棘が刺さっているというのに悲鳴一つあげなかった。僕が銃を向けても動じずに攻撃を続けていたよ。
もしかしたら、彼女の異能力は攻撃を無効化するもの……あるいは、」
「待って。2人とも離れた方がいい。この子起きるよ」
ザザッと床に何かが擦れる音がすると思えば、思いっきり後ろに引かれた僕と礼央。
こういうときの真彩は本当に力強くて驚いちゃう。
「おはよう、新人ちゃん。気分はどう?」
真彩が声をかければ、自分に巻かれた拘束具を恨めしそうに眺めた少女はむくりと起き上がって……
「新しいマスターですか?」
「へ?」
真彩越しに僕と目が合うなり、そう告げた。
「マスター……?」
「はい。私をこうやって拘束して、部下を引き連れて待っているのは、あの時と同じですから」
「あの時って?」
「私が初めてここに来た時です」
…………なるほど。
既に銃を向けられた経験も、周りの人間から敵意を向けられた経験も十分ということか。
僕らみたいに孤児、という訳ではないみたいだ。
殺戮のために制作された特殊兵器とでも呼べばいいのか?アンドロイド、ってことはそういうことだろう。
礼央の情報を引き出す異能も効かないとなると、やっぱり口を割らせるしかなさそうだ。ラッキーなことに僕をマスターと勘違いしているようだし。
意識が洗脳されているうちに、こちら側に洗脳し直したい。
きっと持っている異能もすごく強そうだし、敵のままでいられるのは辛い。
「君、名前は?」
「音透」
「どうしてここに来たの」
「今のマスターが、ここが私の新しい居場所だって教えてくれたからです。
私は施設にいた時に先生から無理やり犯されて、穢された。
だけど、そこにマスターが助けに来て、ここで暮らせるように整えてくれました」
「……君の身の上話は後でゆっくり聞いてあげる。
今僕が聞いているのは、君がここに来て僕らを襲った理由だ」
「わかりません。マスターは質問すればなんでも教えてくれたし、私に知識を搭載してくれたけど、その質問だけは答えてくれませんでした。
ここに来るのは私の任務、としか言われてなかったです」
任務か……なら、きっと明確な理由があったはず。
今のところそれを知る方法は清水さんか、施設長の宮原さんに直接聞くしかないな。
じゃあ、とりあえず後回し。
本題に移ろう。
「ところで君の異能力は、何?」
「異能力……?」
まさか、異能力を知らない?
このクロノス・センターに連れて来られている時点でそんなことあり得ないはずだ。
だけど、さっき礼央が言っていたことが本当ならば洗脳されて話さないように命じられている可能性もある。
だって、自分のことマスターって呼ばせるくらいだし。
その時どこからともなく聞き馴染みのある歌声が聞こえた。
「真彩⁈何やってるんだ、緊急時以外の異能力の使用は……」
「礼央、黙って」
いつもと変わらない真彩の綺麗な歌声。異能を使う時、急いでない時は詠唱じゃなくて歌を歌ったほうが体力消費が少ないらしい。
たまに異能関係なしに歌って、ピアノを引ける礼央がセッションしたりしてて綺麗なんだよなぁ……最近聞けてないけど。
「おい翔太、別の事考えてんだろ。集中しろ」
「あっごめんごめん」
歌声に合わせて踊るかのように撒かれたツタは次第に深く絡まり、音透に棘が刺さっていく。
じわじわと浮かんだ血が床に垂れた瞬間に歌は止まった。
「……痛覚がないの?」
「分からない」
「それ、痛い?」
「……?」
当たりだ。
真彩の言う通り、彼女が無くしているものは痛覚。
なるほど、、だから"殺戮アンドロイド"か……。
本当にイイ趣味してる。
でも、これはチャンスだ。
「全部わかった。いいよ、僕らが君の新しいマスターになる」
「翔ちゃん……何言ってるの?」
「いいから、黙ってて」
現状きっとコレが最適解だから。
洗脳が解けて、彼女が殺戮アンドロイドでなくなるまでの間だけ。
彼女が自分の異能に呑まれて暴走しないように監視しよう。
あとは、彼女が人間らしくなる手伝いでもできればいいけど。
「
床にペタリと座っていた姿勢から、片膝をついて僕に頭を垂れた音透。
よし、乗っ取り成功。
清水さんが非異能力者で良かった。
「ご命令を、ください」
「まずは、そうだなぁ……そうだ、僕と約束して。僕らは君の敵じゃない。僕らも君に攻撃はしないから君も僕らに攻撃はしないこと。いい?」
「はい、マスター」
「それじゃあ真彩、拘束外して」
「……わかった」
さっきとはキーの違うリズムを短く歌えば、パッと消えてなくなる薔薇のツタ。
もちろん音透は僕らに飛び掛かろうとはしない。
よしよしいい感じ。
さて、次の質問だ。
「君は異能力について口止めをされている、よね?
それを僕らに話して欲しい。代わりに僕らの異能力も説明しよう」
彼女をカタルシスの一員にするには大事な情報。
大方見当はついているけど、念のため。
「……私は殺戮アンドロイド、なので」
「へぇ、興味深い話だね。もっと聞きたい」
「それは命令ですか?」
「うん、命令」
真彩と礼央、その少しずつ距離を取っていくのをやめろ。
これは僕の趣味じゃない。
今の彼女と距離を縮めるにはこれしかやり方がないんだから。
そんな思いを込めて2人を見れば、少し距離が戻った。安心安心。
「分かりました。マスターのご命令に従います。
私の前のマスターたちが私をそう呼んでいました。ここに来た時は実験体Aと呼ぶ声も聞こえていたけれど、三日後にはそう呼ばれました」
「三日間の間の記憶は?」
「あまりありません。
手枷と足枷をつけられて、電気がいっぱい着く天井のある部屋の硬いベッドに寝させられたまでは記憶があるのですが……」
それって、まさか。
チラリと真彩を見れば、青白い顔でこちらを見ていた。
考えることは同じみたいだね。
「その後は銃の打ち方と短刀の使い方を教えてもらいました。
私が100人のホログラムの敵を倒した後は外に連れて行かれました。
渋谷に蔓延る犯罪グループの制御……それが私の初任務でした」
「よくわかった。話してくれて嬉しいよ、音透」
「いえ、命令に従ったまでです」
「あぁ、そうだ。僕らのことを教えてなかったね。
僕の名前は翔太。マスターなんて呼ばれるのは堅苦しいからこれからは名前で呼んでよ。
それから、こっちが真彩で、この眼鏡が礼央。
もう1人君と同い年くらいの子、圭人もいるんだけど、まぁそれは今度でいいか」
「手荒な真似しちゃってごめん!
まぁこれからは仲間ってことで許してね?」
「……眼鏡キャラ、やめたい」
それぞれ左手と右手を差し出して器用に握手を返している。
眼鏡と紹介されて落ち込む面白い礼央が見れたことだし……
「音透、ようこそカタルシスへ。歓迎するよ」
カタルシス、新始動といこう。
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