第百十三話 素敵な彼氏が欲しいよね【宮桜姫鈴音視点】
午後零時二十五分。
お昼ご飯はやっぱりグルメストリートで食べたいし、私たちは迷宮の様な地下街を抜け出して喧騒にまみれた表通りを歩いていた。
表通りはにぎやかなんだけど、最近はガラの悪い人も増えて来たっていうか治安が悪化してるね。
気が付かなかった私が悪いんだけど、少し前から十人くらいの男の人が私たちの周りを囲んでるみたい。
まずったな。見回りをしてる人の姿は見えないし、何とか警察に連絡しないと。
「そこの可愛い嬢ちゃんたち、俺達とカラオケにでも行かねえかぁ?」
「俺達の行きつけの店でよぉ。ちょっとくらい羽目を外しても文句も言われねえいい店なんだぜぇ」
「大丈夫、だ・い・じ・ょ・う・ぶ!! 最初はちょ~っと怖いかも知れねえけどよぅ、絶対後悔させねえって!!」
前にいたガラの悪い男が私たちの動きに気が付いたのか、足を止めて道を塞いできた。
足の速い私や
周りの人は助けてくれないし……。あれ? 向こうの人こっちを見てる気がするけど……。
「ちょっと幼ねえが、たまにゃこの位の奴も……、なんだお前?」
人ごみの中からサングラスをかけた人が厳つい男達に怯んだ様子も無く、ひょうひょうとした足取りで近付いてきた。
この人、さっきこっちを見てた人だよ。
「結構特別保安部隊が増えたった話なのに、こんなバカがまだいたんだ」
「バッ……、バカだと? この人数に一人で喧嘩売るテメエがバカだろう?」
「この人数? 俺とやるには一桁足りなんじゃないかな?」
凄い。この人数差に全然怯んでないし、なんていうのか強がりとかじゃないのもわかっちゃう。
「足りないかどうか確かめろや!!」
「良い気になるなボケが!!」
ひとりの大柄な男が優男を捕まえようと手を伸ばした瞬間、その手を逆に掴まれて寄ってきたもう一人の男に向かって投げ飛ばされた。
優男は地面に倒れた男には即座に蹴りを入れてトドメを刺す事を忘れていない。
「暇じゃないから、少し本気でいくっスよ」
そう言うと優男は繰り出されるパンチや蹴りを紙一重でうまく躱して、逆に顎先をかすめる様に掌底をおみまいして瞬く間に残った八人の男全員を戦闘不能にした。
ガラの悪い男たち十人全員が地面で蹲った後でようやく騒ぎを聞きつけた特別保安部隊が駆け付けて来たけどちょっと遅すぎるよ!!
「そこまでだ!! とりあえず喧嘩はやめろ」
「喧嘩か? にしても十人相手に……」
「署の方で幾つか聞く事があるかいいか?」
「まあ、暇じゃないんっスけどね」
いけない。この人は私たちを助けてくれたって説明しなきゃ!!
「あの……、その人は私達を助けてくれただけです」
「そうです。絡んできたのは其処の人たちで……」
優男さんはサングラスを少しずらして小声で隊員に名を告げてるみたいだけど、それを聞いたその人はいきなり敬礼して敬語で始めた!!
え? この人そんなに偉い人なの?
「鈴音ちゃん、危なかったっスね」
「え? まさか……」
「俺っスよ」
優男さんの正体はランカーズの
凄いな、変装してたから私でも気が付かなかったよ。
そりゃあ敬語にもなるよね。
わたしみたいななんちゃってレジェンドランカーじゃなくて、歴戦の勇者なんだし。
「霧養さん?」
「そうっス。この辺りも物騒だから、気を付けた方がいいっスね。じゃあ」
助けて貰っちゃった。あ、今の騒ぎで正体がバレたのか女性の人に囲まれ始めた。
うわ、胸とか押し付けて大胆に誘ってる人までいるよ!! 何とか警察の人が来て霧養さんをどこかへ誘導していったみたいだね。
正体がバレたらああなっちゃうんだ。流石は有名人。
「あの人が霧養さん? あんなに強かったんだ……」
「あそこの人はみ~んな
「全員?」
「そ、お姉ちゃんは
たすけてくれたことに感謝はしてるけど、あの人たちが凄すぎるって事は知ってるからね。
凰樹さんはホントに人かどうか怪しいレベルだし、神坂さんたちも結構おかしい動きしてるから。
本人たちは自覚が無いんだろうけどさ……。
◇◇◇
午後一時四十五分。
私たち八人は話し合いの末にパスタが美味しいと評判のイタリアンカフェ『パスタ&ピッツア』で昼食をとっている。
看板メニューじゃないんだけどこの店はジェラート系のドルチェがすっごく人気だから中々行列が進まなくて、結局はこの時間になってようやく昼食という事になったんだよね。
看板メニューのパスタ系もすっごく美味しかったけどね。
「ランカーズの人に助けて貰ったのは二度目だけど、霧養さんってあんなに強かったんだ」
「前の時はGEが怖くてあまり他の事は覚えてなかったんだけど、私達と殆ど歳が変わらないのに凄い落ち着いてるっていうか大人だよね……」
「霧養さん達って恋人とかいるのかな?」
「霧養さんについてはそんな話は聞かないかな。神坂さんは年上趣味でおっぱい星人だから無理として、窪内さんも恋人がいるって聞いた気がする」
あの大きな胸で特殊小太刀を振り回してるスタイルのいい
私は未来に期待かな? お姉ちゃんを見てるとちょっぴり望み薄そうなんだけど……。
「恋人いるんだ~」
「後は凰樹さんだけど、あの人と付き合うとなると大変だよ? 私はあの海水浴の一件でちょっと恋人は無理かなって思ったから。いまだに恋人になろうとしてるお姉ちゃんは凄いなぁって思ったくらいだし……」
あんな人と付き合っていけるなんてすごいよね。
怖いって事はないけど、私はそばに居続けられる自信が無いよ。
「恋人欲しいよね~? 誰かいい人いないかな?」
「同級生の男の子はなんか子供っぽいし、AGEやってると敬遠してくる人も多いから」
「恋人が石像に変えられたら悲しいから、だっけ? 大丈夫僕が助けるよくらいは言ってほしいよね~」
「そのセリフ言えるの、ランカーズの人位だよ」
あの日まで学生AGEでの
私もお姉ちゃんを助けたいとは思っていたけど、何年かかるか分かんないって覚悟してたし。
その二日後にあっさりして見せた人がいるけどね。
「でもでもっ、クリスマスまでには恋人欲しいでしょ?」
「あの高級ホテルのロイヤルスイートに部屋を取ってあるんだ。とか言って欲しいよね」
「……ランカーズの皆なら泊り慣れてるんじゃないかな?」
お姉ちゃんは今朝帰ってきたけど、いい所だって言ってたし。
「石像から元に戻った人も多いけど、私達の年齢位から上はいまだに女性の方が多いじゃない?」
「男の人はAGE活動に積極的に参加した時に、結構犠牲者でたからね……」
十年くらい前から数年間、全国の対GE民間防衛組織で行われた【男であるなら手に銃を取れ!!】ってキャンペーンに乗せられて男の人がAGE活動を始めたのは良いんだけど、すっごい数の犠牲者が出たんだっけ?
おかげでその後も結婚率や出産率の低下なんかの社会問題をたくさん生み出してるって話だし、私たちより少し上くらいだと男の人の学生も少ない。
多分私たちの下の年代の子はもっと苦労するよ。
「いい人は争奪戦激しいから。霧養さんはちょっと軽そうだし、上手くいけば恋人になれるかも!! って思ったひとたちに取り囲まれる事は多いかもね」
「霧養さんやさしそうだし。金持ちだしね~」
「四十億ポイントだっけ? それとも五十億?」
「あそこはグレード五とか使ってるみたいだから使う方も湯水だろうけど、使いきれるポイントじゃないよね~」
装備も凄いけど、それでも使い切れる額じゃないだろうし。
「あ~、どこかに強くて格好良くて懐の広い同年代の男の人っていないかな~」
「それって美人でスタイル良くて大和撫子な女性いないかな~、って男の人が言ってるのと同じだよね?」
「だね……」
「椎奈さんは婚約者がいるんだっけ?」
「うちは古い家系だから……。私自身に選択権なんて無いし、まだ一度もあった事など無い婚約者ですけど……」
「名前は? 聞いて無いの?」
「それもまだ聞いていません。本当に決まるまで知らされないのが普通なんです」
それも酷いよね。
時代錯誤っていうか、せめて拒否権くらい必要なんじゃないかな?
よその家の事に口出しなんてできないけど。
「それ酷くないですか?」
「まあそうだが、大体うちの婚約者は心身を鍛えあげた者が多い。家を継ぐにはその位の婿を迎える必要があるんだ」
「羨ましい……」
「代われる物ならば代わってあげたい位ですよ」
古い家のしきたりなんだろうけど、やっぱりつらいよね。
でも、椎奈の性格から言って変わってと言われても断固拒否しそうな気がする。
大和撫子でおしとやかなのに頑固な部分もあるから。
「隊長にはいい人いないんですか?」
「いないよ。私は少し前まで凰樹さんがいいかなって思ってたけど。ちょっと無理って分かったから」
「素敵な人ですけどね」
「決めた!! このままAGEを続けて、絶対にいい人をGETするんだ!!」
「そうだね。やっぱり彼氏にするなら同じAGEでないと」
後輩たちは盛り上がってるけど、共闘とかしない限り出会いなんてほとんどないよ。
大人しくクラスの子でフリーの子を狙った方がいいのに。
恋人かぁ。
ホント、誰かいい人いないかな~。
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