第百十一話 プチ・フェアリーの仲間たち【宮桜姫鈴音視点】


 小妖精プチ・フェアリー


 永遠見台付属中学とわみだいふぞくちゅうがくに複数存在するGE対策部のひとつで、部員数は僅かに八名。


 この私宮桜姫みやざき鈴音すずねが部隊長を務めている。


 部隊の創設目的は大発生時に石に変えられたお姉ちゃんを元に戻す事だったけど、その二日後に凰樹おうきさんが助けてくれたからその事自体はとってもうれしいんだけど、困ったってのも本当の話だったりする。


 学生AGEだけで環状石ゲートの破壊なんて絶対にできないと思ってたし、それをあんなに簡単に実行しちゃう凰樹おうきさんを凄い人だなってその時は思ってたんだ~。


 装備に関してはお小遣いをはたいて最新鋭の物を揃えていたし、それが無駄にならないようにAGE活動を続けてるんだけどこんなに大変だとは思わなかったよ。


 今日八月六日は登校日で、私たちは学校の体育館で先日の赤竜種ドラゴンタイプヴァンデルングトーアファイント撃破の映像を観る事になった。


 私たちの戦いだけじゃなくて、守備隊の戦いの映像も教訓として流されている。


 でも、これはちょっと酷いよね。


「ひでえ、全滅するまで突撃を続けさせるとか正気かよ」


「でも、あそこで守備隊の人やAGEが何とかしないと、居住区域に攻め込まれたら壊滅しちゃうよ?」


「だから、そうなる前に防衛軍に緊急の援軍要請して手を打たないと……、ああっやっぱりあの小隊も壊滅したじゃん」


 元々攻撃が通用しないっていうW・T・Fドラゴンを押さえ続ける事なんて不可能だし、AGEや守備隊を生贄にする様なこんな作戦を実行する方が馬鹿げてるよ。


 次から次へと集められたAGEや守備隊の小隊がW・T・Fドラゴンを取り囲むまではいいんだけど、口から吐き出される炎とシッポなどの攻撃で石に変えられていくのを見続けるのは正直きついな。


 全員全裸で石像になってるから映像にはモザイクがかけられてたりするんだけど、気を使わなきゃいけないのはそこじゃない気もするんだよね。


 たまにモザイクをかけ忘れてるシーンもあったし。


「……うちの対GE民間防衛組織事務所の所長が影於幾かげおきさんで良かった」


「あの人なら、絶対にすぐ撤退命令を出してくれるよ」


 そうだよね。


 あの所長さんは危なくなったら何を置いてでも逃げろっていう人だし、そもそもこんな命令は絶対に出さないと思う。


 作戦に失敗してもそこまで怒られないし、私たちが浅犬あさいぬさんに騙された時も親身になって話を聞いてくれたしね。


 そろそろ守備隊とAGE部隊の戦いは終わりかな?


 W・T・Fドラゴンはあの高速道路のサービスエリアに移動しちゃったし、私たちが戦った時間になりそうだ。


「画面が切り替わった、ここからがランカーズなのか」


「え? さっきまで全然攻撃が通用して無かったのに、あんなにダメージを……。あっ、再生してる」


「嘘……、こんなのどうやって倒せば……」


 何度見てもあの再生速度は異常だよね。


 あ、わたしが映った。


 フルフェイスの防護マスクを着けてるし、気が付かれないと思うけどどうかな?


「ちょっとしか映って無かったけど、アレ鈴音でしょ?」


「レジェンドランカーになった時のだよね? 凄いじゃない!!」


「ちょ……、これ、結構恥ずかしいな」


 バレてるし!!


 しかも小妖精プチ・フェアリーのみんなが周りの人に教えてない?


 いや、教えなくてもいいんだって。


 私の活躍した場面なんてほとんどないし、神坂さんたちに比べたら私の攻撃なんて本当に威力が無かったんだから。


 同じグレード五の特殊弾を使ってる筈なのに、なんであんなに威力に差が出るのかな?


「何よ、装備のおかげじゃない」


「同じ装備があれば私達も攻撃位できるわよ……、なにあの威力?」


 あの新型トイガンは使う人でかなり威力に差が出るだよね。


 その事を理解していない人たちは好き勝手に言ってるけど、誰が見てもはっきりとわかる差を見せつける攻撃が映し出されている。


 W・T・Fドラゴンに容赦ない銃撃を加える凰樹おうきさんの姿がスクリーンに大きく映し出された。


 何をどうしたら同じグレード五の特殊弾であんな真似ができるんだろう?


「あ、凰樹おうきさんの攻撃が始まった。何度見ても出鱈目な威力だよね~」


「凰樹さんって例の? そっか~、あの人がそうなんだ」


 あの攻撃を受け続けてるのに倒せないW・T・Fドラゴンの耐久力と再生能力が異常なんだけど、あれだけ抉り取られた体が気持ち悪い速度で元に戻るのはホントにホラーだよね。


 ネットに流れてるホラー映画の内容よりよっぽど恐怖だよ。


 しばらく銃撃を続けていた凰樹おうきさんの動きが止まった。そろそろかな?


「画面切り替わった? 何が……」


「え? 消えた?」


 カメラが特殊小太刀を片手に構える凰樹さんに切り替わった瞬間、W・T・Fドラゴンに向かってすっごい速さで駆け抜ける映像が流れた。


 凰樹さんってこんな速さで走ってるの?


 改めてみてみると信じられ無い光景だよね……。


「はやっ!!」


「なんであんなに速く走れ……え? 一太刀?」


「ウソっ……、なんであんなに簡単に斬り裂けるの?」


 凰樹さんが特殊小太刀でW・T・Fドラゴンの身体を右斜め上に向かって斬り上げて、わずか一太刀で上半身を斬り落した映像が流れると周りでは驚きの声が響いている。


 あの光の刀もそうだけど、現実味の無い光景だと思うよ。


 凰樹さんが返す刀で光り輝く特殊小太刀を剥き出しになった要石コア・クリスタルに突き立ててそのまま破壊すると、絶対に倒せないと思っていたW・T・Fドラゴンは光の粒子と化して消滅した。


 被っていた特殊ゴーグル付きのヘッドギアを外して小脇にかかえて、特殊小太刀を腰の鞘に収めた凰樹さんがアップで映し出される。


 降り注ぐ光の粒子に包まれた幻想的な光景。


 こうしてみると神々しいっていうか、お姉ちゃんが凰樹さんの事を好きなのは理解できる気がするな。


「素敵……」


「ねぇ、その画面のコピーとかもらえないかな?」


「私も欲しいっ!!」


「なんて神々しい姿なの? こんな人がいたなんて……」


 AGE活動をしてる人で凰樹さんを知らない人なんていないけど、噂だけは聞いてて実際に戦う姿を見た事が無かった子たちが今の映像で完全に魅せられてるみたい。


 そうだよね。こうしてみたら凄い人だと思うだろうけど、これがどんなにあり得ない光景なのかはAGE活動をしてないと分からないよ。


「化け物かよ」


「特殊小太刀で何をどうしたらあんな真似が出来るんだよ……」


「あれが最強のレジェンドランカー」


 やっぱりAGE活動してる人には衝撃の方が大きいよね。


 同じ事をしろって言われても絶対無理だし、完全に人間の域を越えちゃってるから。


「てことはあの特殊トイガンも同じだよ」


「あの人の攻撃だけ異常だったもんな」


「まあ、あの子も良くやってたじゃない……」


 他のGE対策部の人もやっと分かってくれたみたいだね。


 私の武器がいいのは否定しないしお金で装備を揃えたのも本当だけど、最低限御装備も揃えられないんだったら戦うのはやめた方がいいと思うよ。


 この映像を流す意味なんてあるのかな?


 AGE活動を推奨する宣伝的な映像にしては冒頭で悲惨な戦闘風景が映ってるし、凰樹さんたちを目標にするにもあまりにもハードルが高すぎるんだけど。


「これで今年の登校日に見る映像は終わりだ。特定のシーンの映像が必要な場合は生徒会に申し出て欲しい」


「凰樹さんのあの姿のシーン!!」


「え? 有料なの?」


「十秒で五百円……。あのシーンが貰えるんだったら」


「ポイント払いもできるみたいだよ!!」


 AGE活動をしてない子と一部のAGE隊員が凰樹さんの映像を貰う為に群がってるよ。


 隣の学校に居ても超有名人だから気がるには会えないし、近付いたらSPの人に止められるもんね。


 写真部なんて本当に長距離で撮ってるみたいだけど、それ完全に盗撮だから。


 あそこはそれをブロマイド風にしたのを売ってるみたいだし……。


「宮桜姫さん。凰樹さんのもう少しいい映像とか無いの?」


「確か一緒に海水浴に行ったんだよね? その時の映像と気唖欲しいんだけど」


「そんなお宝映像があるの!!」


「あはははっ、プライベートな映像はちょ~っと渡せないかな。私が怒られちゃうから」


 多分凰樹さんは渡しても気にしないと思うけど、特にお姉ちゃんからね。


 怒らせると怖いんだから。


「仕方ない。写真部に頼むしかないわ」


「いいブロマイドあるかな?」


「はいは~い。凰樹さん関連商品は急がないと売り切れるよ~」


 商売がうまいな~。


 写真部の前にすっごい人だかりができてるよ。


 文化祭とか体育会の時以上に凄いんだけど、あの時はネットで注文できたから……。


 流石に非合法な商品をネット販売したら捕まっちゃうだろうし、あんまり派手にやってるとまた風紀委員や生徒会に怒られるよ。


 どうやって情報を集めてるのか知らないけど、写真部に頼むと好きな人とかの映像を売ってくれるらしいし……。


◇◇◇


 小妖精プチ・フェアリーの部室。


 発足後間もない私たちの部は当然部室なんてなかったから、話し合いの時なんかは空き教室の一室を使っていたし装備は視聴覚教室の倉庫にあずかって貰っていた。


 でも、先日私がレジェンドランカー入りした事で学校側が空き教室の一つを改造して、急ごしらえだけど正式な部室を用意してくれたんだよね。


 このまま活動を続けるんだったら校庭の一角に部室を建ててくれるって話だけど、流石にそこまでして貰うのは悪い気がする。


 それはそれとして私はある事に悩んでいたりするんだ~。


「う~~~~ん。やっぱりみんなの装備もなんとかしないといけないよね……」


「え? 鈴音ちゃんに揃えて貰った装備もそこまで古くないよ?」


「他のAGEさん達よりはひと世代以上うえだよね?」


 確かにそうなんだけどね、みんなが使っている特殊トイガンはチャージ機能の無い旧型なんだ~。


 チャージ機能は諸刃の剣だけど、うまく使いこなせば確実にGEからダメージを受けるよりも遥かに、生命力ライフゲージの消費を抑える事が出来る。


 チャージ機能を使わなくても内蔵されているブラックボックスの性能が段違いだから、同じグレードの特殊弾を使っても威力が全然違うんだ~。


「今武器は凄い勢いで進化をしてるの。私の持ってるこの銃だったら、他の銃の数倍は威力があるんだよ。それでも使う人次第で威力は変わっちゃうんだけど」


「あの凰樹さんみたいに?」


「う~ん。凰樹さんは別格として、あの映像で他の人の攻撃シーンも見たでしょ? 私も同じ物を使ってるのに神坂さん達の攻撃って軽く数倍は威力があったし」


 何人かはグレード十の特殊弾も使ってたみたいだけど、神坂さんたちは同じグレード五の特殊弾を使っていたはずなんだけどね。


 この辺りは殆ど安全区域になっちゃったし少し遠出をしなければAGE活動もできないけど、それでも活動を続けるからには万全の状態で挑みたいんだ~。


 わたしは車の免許もとってきたし、今度からは学校の駐車場に止めてる車で現地まで向かえるのは大きいよね。


 それはそれとして。


「最低でもこの装備と同性能。できたら今龍耶たっちさん達が使ってる物と同じ性能の武器が欲しいんだよね」


「そんなのあるの?」


「うん。この装備だと流石に凰樹さん抜きでの環状石ゲート破壊は無理だと思う。今使ってるのは最低でもこれよりワンランク上の武器だと思う」


 昨日の事だけど、神坂さんたちは凰樹さん抜きで環状石ゲートの破壊を成功させた。


 正直びっくりだったよ。


 確かに神坂さんたちも凄いけど、環状石ゲートを破壊できるかって言われると微妙なレベルの実力しかないと思う。


 これは別に馬鹿にしている訳じゃなくて、もし仮に私がその作戦の部隊長だったら素直に凰樹さんが戻って来るのを待つよ。


 だってお姉ちゃんの話だったら遅くてもあと一週間以内に戻って来るんでしょ?


 そんなに急ぐ理由もないだろうし、そんな危険を冒さなくてもいいじゃない。


 だから、その作戦に踏み切れる何かがあったのは間違いない。


 それが多分ワンランク以上は上の武器の存在だ。


「そんな武器……。凄っごく高いんじゃない?」


「多分凄い高いとは思うけど、今の私ならみんなの分くらい買えなくはないよ?」


 それどころか余裕で買えるんだけどね。


 あの戦いで私もレジェンドランカーになったから十五億ポイントも稼いじゃったし。


 全員の装備を一新しても痛くもかゆくもないよ。


「それはちょっと悪いよ!!」


「そんな高い物をもし壊したら……」


 中学生にそんな高価な装備など弁償など出来る訳も無い。


「武器はね、壊れるモノなんだよ。でもみんなの命はモノじゃないの。わたしはね、みんなで作戦の成功をいつまでも祝いたいんだ~。誰も欠ける事無く、ね」


「鈴音」


 もしあの時あの装備を買っていたら。そんなな泣き言だけは口にしたくない。


 お姉ちゃんに聞いたんだけど、あの大発生時にグレード五の特殊弾をたくさん持って行っていたら、お姉ちゃんはあの時石に変えられずに済んでたって話だったし。


 確かにグレード五の特殊弾は高い。


 一発千円の弾なんて使い続けてたらあっという間にお財布が空になっちゃう。


 一回のAGE活動で最低でも三万発近く特殊弾を使うから、全部グレード五なんて使ってたら一回の活動で弾代が三千万円もかかっちゃうしね。


 保険にワンマガジン。三百発だけでも持ってたら安心できると思うんだ~。


「それに前の時、私の甘い判断のせいでみんなを窮地に追い込んじゃったじゃない。あんな事を二度と起こさない為にも、装備は常に最新鋭の物を揃えたいの」


「でも、そんな装備売ってる店なんてあるの?」


「一か所だけ心当たりはあるよ。これと同じ装備だけどね」


 そうなると再開発地区のショッピングモールに行かないといけないな~。


 あそこに行くのは良いけど、誘惑も多いんだよね。


 寄り道せずにあの店に行けるかな?

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