第百八話 俺達だけのゲート攻略【神坂蒼雲視点】


 八月五日、午前十一時十七分。


 とりあえず一つ目の拠点晶ベースの破壊に成功した。


 使った武器の威力には全員驚かされてるけどな。


「これは悪用されると、簡単に人を殺せる兵器になるな」


 人に向けてさっきの攻撃を行えばどうなるか、俺達には容易に想像できた。というか、実銃以上に危険なのは全員理解しただろ。


 あの破壊球の内部にいれば死亡は確実で、一部の人間を除いて五体満足な状態など考えられないからだ。


 これはもうトイガンじゃない。間違いなく兵器だが、こんな物を流通させてもいいのか?


「そこは問題っスね。出力を下げても人殺しには使えるし、逆にGEには役に立たないとか本末転倒っス」


 頭を狙えば、僅かに数センチ消し飛ばすだけで殺せるからな。


 あの光球の中心に居たら死体も残らないんじゃないのか?


「市販されるのはその辺りの法整備後からやろか? フレンドリーファイアでついうっかりも想定されるんとちゃいまっか?」


「多分、その状態なら防衛軍とか守備隊に所属する人とか、セミランカー以上とかにしか購入できないように制限かかるんじゃ無いかな?」


 銃って存在は元々そういった物だし、たぶん貫通力で言えばこのトイガンは実銃よりはるかに劣る、


 これは俺の予想だが、撃ち出される光弾は何かにぶつかればそれがGEでなくても反応してあの光球を生み出すだろう。


 その範囲内にGEがいれば倒せるかもしれないが、そこに味方の誰かがいないとは限らないからな。


「とりあえず、俺達はこの作戦を終わらせちまおうぜ。あまりぼやぼやしてると日が暮れちまう」


「そうでんな。明日は登校日やし、早いとこ片付けまひょ」


 今日もクソ暑いしな。


 あきらは朝早くに作戦を開始していたが、日中になるとここまで暑くなるのを分かっているからなんだろう。


 俺はそこまで気が回らなったが……。


「とりあえず安全な奪還区域にいるうちに水分とミネラルの補給はしておこう。塩飴はあるか?」


「全員忘れずに持って来とりまっせ」


「そうだね。これが無いとキツイし」


 再び戦闘区域に入ったらそんな暇がないかもしれないしな。


 一息ついたら二つ目の拠点晶ベース破壊に向かうか。


 八月六日は登校日だが今までの状況から考えれば、環状石ゲート破壊作戦が成功した場合には明日は間違いなく休校となるだろう。


 機能調べてみたら今回の環状石ゲート支配区域内で石化から解放される人の数は四万人程らしいが、全員の社会復帰手続きは容易じゃ無いし役場の人間だけでは対応など出来ないからな。


「あそこが環状石ゲートで、その少し手前にあるのが問題の拠点晶ベース


環状石ゲート内部でGEに囲まれるより、外で片付けた方が楽っちゅうのは分かるんやけど、面倒な事になりそうでんな」


「最悪内部には俺と霧養だけが突入する。他のみんなは外でGEを押さえてくれないか?」


 ざっと目を通したけど、環状石ゲート内部にGEが戻ってくるって話はなかった。


 出てくる時も周りから湧いてくるように出て来るって話だしな。


 それでも、あの狭い空間でこんな物騒な武器を使って撃ち合いたくはない。


「今まで中型はゼロ。離れた場所の拠点晶ベースにいるのか、伊藤からの警戒情報も無いし」


「GEが少ないルートを選んでくれてたっスね。おかげで余計な弾を消費せずに済んだっス」


 弾が無限にある訳でもなく、またバッテリーなども使用できる時間に限りがある。


 余計な戦闘は避けるに越した事はないし、こういった連戦を強いられる状況で最短で交戦確率の少ないルートをナビゲートしてくれる伊藤の存在は本当にありがたかった。


 あいつが伊藤の存在を重要視する訳だ。


「えっと~、拠点晶ベースの右前方に大きな紅点がありま~す。MIX-Pだと思うんですけど、なにかありますか~?」


「まあ、居るよな。あの松の木がそうなのか?」


「そうでんな。いかにもな枝ぶりしとるから気が付かんとこやったわ」


 拠点晶ベースの傍、そこに生えている松の木は時折風も無いのに枝を揺らしていた。


 目を凝らしてよく見れば根元に石化したセミらしきものが大量に転がっているが、それを隠していた為だろう。


拠点晶ベースとアイツを倒した後、俺と霧養はそのまま環状石ゲートへ走る。竹中は拠点晶ベースの破壊後に支援射撃、窪内と宮桜姫は周囲の制圧を頼む」


「分かりました。お気をつけて」


「わてらも人の心配なんてしとる場合やおまへんで!!」


 竹中がマガジンを切り替えてグレード十を装填した後でPSG-1改にヴリルをチャージし、拠点晶ベースとその前に居たMIX-P中型ミドルタイプGEをそれぞれ一撃ずつで倒した。


 その隙に俺と霧養はチャージ状態を維持したまま環状石ゲートへ走り、一気に内部に突入する。


 迷いはない、後は中にいる最後の守護者キーパーの討伐と要石コア・クリスタルを破壊するだけだ。


「後はあの最後の守護者キーパー要石コア・クリスタルの破壊っスね」


「ヤスデ型リビングアーマーか。また厄介な奴がいたもんだな」


 なんとなくなんだがあの時の百足よりも装甲が厚そうだ。


 その代わりに動きは遅そうで、今のところはこの狭い区間でも何とかなるんじゃないかと思うような動きしか見せない。


「やれると思うか?」


「やるしかないっスよ」


 そりゃそうだよな。


 外では窪内たちが頑張っているんだ。


 俺達がここでグズグズしていたら、あいつらに余計な負担をかけるだけだろう。


 ここは一気に攻める!!


「あの時は攻撃が通じなかったけど今のこれなら、いけるっス!!」


 リリースボタンを使用した特殊トイガンの銃口から光の粒子に変わった特殊弾が十数発撃ち出される。


 そしてその全てがヤスデ型の最後の守護者キーパーに命中し、眩い閃光と共に破壊の光球を生み出してその身体を原型が留めない程に破壊した。


 僅かにその十発の銃弾を受けたヤスデ型リビングアーマー最後の守護者キーパーは、その身に隠された特殊能力を発揮する事無く僅か数秒で光の粒子と化す。


 って、やっぱり恐ろしい威力だな。この武器は!!


「異常な再生能力を持つ最後の守護者キーパーが、あんなに簡単に?」


「これ、凄いっスね。まるであきらさんみたいな力が手に入った気分っス」


 これはヤバイ。


 いろんな意味でヤバすぎる。


 こんな物を手にしたら、分も弁えずに環状石ゲート攻略に手を出す部隊が山ほど出て来るぞ。


 そりゃ、攻略できれば問題はないけど、これだけの武器を持っていたとしてもここまで辿り着けるかどうかは分からないからな。


要石アレも破壊しちまおうぜ」


「次は神坂さんが試したらどうっすか?」


「そうだな。なるほど、こりゃすげえ」


 要石コア・クリスタルを撃ち抜くと僅か一撃で要石それは砕け散り、環状石ゲート内部に光の粒子が溢れ始めた。


 リリース機能が必須なんだろうが、特殊ランチャーなしで要石コア・クリスタルを砕けるなんてな。


 今回の戦闘データを見たら、坂城の爺さんが喜びそうな気がする。


 また厄介事を押し付けてくるかもしれないな。

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