第百七話 ベースを破壊しなくちゃな【神坂蒼雲視点】


 八月五日、午前十時三十分。


 KSK環状石ゲートのある畑跡から数キロ離れた業務用スーパー跡。


 そこの駐車場にマイクロバスを停めた俺はトランクから装備を取り出してそれを身に着けていた。


 このスーパー跡地には拠点晶ベースが生えていたはずなんだが、あきらが事前に破壊してくれていたから奪還された安全区域として俺達の拠点として利用できる。


 この場に居なくてもあいつは俺達を助けてくれるもんだな。


 今回の作戦は、俺、窪内くぼうち霧養むかい竹中たけなか宮桜姫みやざきの五人が環状石ゲートの攻略に向かい、伊藤いとうがこの拠点で周囲の探索を行って楠木くすのきが不測の事態に備えて護衛についている。


 ここは安全でGEが攻めて来る事は無いが、伊藤を一人で残すの悪いしな……。。


「今回は途中に攻略していない拠点晶ベースが二ヶ所存在する。安全の為に破壊していくが、あまり時間を掛けられないので注意してくれ」


「時間制限があるの?」


「それは無いが今までの経験上拠点晶ベースの至近距離でGEを倒すと、周りの拠点晶ベースに居るGEが防衛の援軍として近付いてくる傾向がある。ひとつ目は拠点晶ベースの破壊と同時に処理できるから問題無いんだが、二つ目は環状石ゲートのメイン支配範囲にあるから破壊しても集まったGEを纏めて処理できないから厄介なんだ」


 環状石ゲートのメイン支配範囲でなければ、拠点晶ベースを破壊した時点でその影響範囲にいるGEは急速に力を失ったと出自壊して消滅する。


 普通のAGE部隊で高価な特殊ランチャーの代金を少しでも回収する為の手段として、これを利用してオハジキ大魔滅晶カオスクリスタルを大量に掻き集める方法もあるが、リスクに対してリターンが上回るかといえばそんな事は無いしな。


 むしろ大量の魔滅晶カオスクリスタルを探す手間が増える上に、箒などを使って纏めて回収すると後で分別する手間も増える為に隊員たちもそんな作戦に手放しで賛同する事は無いだろう。


 このあたりで活動しているAGEはともかく、そうしなければ運営資金が不足する部隊が多いのも事実なんだが……。


「無視して通り過ぎるとか?」


「その手もあるが、地形的にそこを無視すると視界の悪い草むらを延々進まなきゃいけなんだ。まあ、十年近く放置されりゃ畑や田んぼはよな……」


 少し離れた場所には雑草がびっしりと生い茂る畑が存在しているが、そんな場所を延々進むとGEの接近に気が付きにくいし奇襲を受けやすいから出来れば避けたい所だ。


 伊藤が索敵をしているから奇襲を受ける確率は少ないけど、GEの報告を受けた後で見つけられないのも怖いからな。


 そのうえ田んぼと田んぼの間には畦道があるし、そこにも夏の日差しで伸びに伸びた雑草が生い茂っている。


 更に田んぼの周りには浅い溝が掘ってある事が多いし、そこに足を取られる可能性も高い。つまりあそこを進んでもいいことなんて何一つないのさ。


 防衛軍などは溝は特殊な車両で潰して生い茂る草はそのまま走って薙ぎ払ったり、延焼の危険が無ければ事前に火炎放射器で焼き払ったりする事さえある。


「草刈り機を持って来るべきだったね」


「諦めて元農道を進んで途中にある拠点晶ベースを破壊するしかないだろう。途中から道幅は狭くなるが……」


「装備は十分だし、その方が早いのかな」


 草刈りは無理でも、小型GEライトタイプであれば今装備している特殊トイガンとグレード五の特殊弾で何とかなる。


 しかも伊藤が最短ルートとGE密度の低い場所をナビしてくれるのだから、面倒な草刈りなどという行為に手を出す必要も無いだろう。


「それじゃあ、ひとつ目の拠点晶ベースに向かうぞ」


「了解!!」


 俺を先頭に、霧養、竹中、宮桜姫と続き、最後尾を窪内が守っていた。


 部隊長が先頭を進むのもどうかといおもうが、すぐ後ろに霧養と竹中がいるから安心して進むことができる。


 やっぱり信頼って大切だな。


 昔いた部隊の話だが、全然知らない奴が特殊小太刀片手に後ろをついて来た時は不安だったもんさ。


 あの時の俺はそいつが一番信頼出来る奴だなんて、欠片も知らなかったしな。


 今回の武器は俺とと霧養がM4A1改弐、竹中はPSG-1改、宮桜姫が六十四式小銃改、窪内がM60E3改を使用している。


 俺と霧養の銃は坂城の爺さんが送ってきた特殊トイガンをベースにしてあるが、その他の銃はバレル周辺だけでなく細かい所までほぼ別物に改良された強化型で、チャージ機能などは全てヴリルに切り替えられている。


「いつも使ってる銃と違うが、M4A1改弐これも取り回しが良くて良いな」


「バレルが短くても威力のあるヴリルチャージ方式やと、わてのM60E3改より役に立ちまっせ。これもヴリル対応型やけど撃ち出す弾数が多すぎてM4A1改弐それ程威力を発揮せんのですわ」


「この程度の数ならそうっスけど、状況しだいっス」


 ゴーグルに内蔵されたレーダーの紅点として見つかるGEの数は精々五匹単位で、その全てが小型GEライトタイプだった為に今まで窪内の出番は無い


 しかし、誰か一人が前後どちらかを押さえなければならない状況の場合、窪内の存在は必要不可欠である事を全員が理解している。


 撃ち出す弾の数が全然違うからな。


「グレード五の特殊弾でこの威力は異常だよな。あの時グレード十を使った荒城や竹中の威力より上じゃないか?」


「間違いないわ。ここまでの威力はなかったから」


 相変わらず竹中は戦闘時だけは昔に戻るようだ。


 淡々とGEを処理するというか、反応も淡白なんだよな。


「そうですね、凰樹君が使った時と比べれば少し威力は劣るかもしれませんが、これはもうトイガンとはいえない気がします」


 それぞれの銃口から放たれる特殊弾は赤竜種W・T・Fドラゴンあきらと同じようにヴリルと完全に融合し、光の弾と化して迫り来るGEを跡形も無く吹き飛ばしていた。


 その後には魔滅晶カオスクリスタルが転がっていたが、それを回収する事など無く俺たちは先へと進んでいく。


「チャージ機能を使っても生命力ライフゲージが減らないのにこの威力。そのうえチャージ機能を使っても故障の心配もいらないってのもいいな」


「そこは信用しておくんなまし。わてと真優の苦労の結晶やさかい」


 問題だった箇所をこの短時間で何とかするお前らはホントに凄いよ。


 窪内の様な技術者や伊藤の様な索敵能力に優れた人材を集めて使いこなすあきらもやっぱり凄い。


 そう話す間にもトノサマバッタとアマガエルが融合した様な姿のMIX-Aが草むらの陰から五匹ほど姿を現したが、俺と霧養が瞬く間に殲滅していた。


 こいつらがいるって報告は伊藤からとっくに受けてるし、現時点だと余程に大群で押し寄せなければ小型GEライトタイプ程度は脅威じゃないしな。


「よし、問題無くひとつめの拠点晶ベースに辿り着いたな」


「二ヶ月くらい前とは大違いっスね。あの時は一日がかりの事も多かったっス」


「そりゃ、武器が全然ちゃいまんがな。わてらの練度の差もありまっせ」


 GE対策部発足時にあきらの手元に今の武器があって俺や窪内が旧知で霧養の実力を信じていたとしても、あいつは慎重に作戦を練って攻略が簡単そうな拠点晶ベースしか狙わなかっただろう。


 普段はそれくらいに慎重な男なんだ。


 自分一人の時は無茶を積み重ねた行動ばかり取りやがるが、信頼できる仲間が居る時は絶対に窮地に陥らないように細心の注意を払う。


 それでも何かある時は俺に意見を求めるし、俺が無理だと判断したら素直に従うからな。


 流石に僅か数ヶ月で此処まで状況が変化するとは考えてもいなかったが。


「それじゃあ、グレード十の特殊弾に切り替えて撃つっス!!」


「頼むぜ」


 部室の倉庫に残っていたグレード十の特殊弾。


 五百発もあったので今回の作戦の為に借りておいた。使った分は申請しておいたからあいつが戻ってくる前に届けばいいだろ。


 霧養はグレード十の特殊弾を装填したマガジンに切り替え、窪内の手で改造された新型メモリが最大のレッドゾーンを指すまでヴリルをチャージした。


 そしてチャージボタンとは別に取り付けたヴリルを一気に放出する為のリリースモードをオンにし、十メートルほど先にある拠点晶ベースに狙いを定めてトリガーを引いた。


「そこっス!!」


 眩く輝く光弾と化した特殊弾は拠点晶ベースに向かって一直線に空を走り、そして着弾と同時に直径五メートル程の破壊球を生み出してそれが消え去った後にはもはやどこにも拠点晶ベースが存在した痕跡は残されていなかった。


 拠点晶ベースだけでは無く周りの土や草木も綺麗に消滅し、半円形のクレータの中に希少魔滅晶レアカオスクリスタルがひとつだけ残されていた。


 特殊小太刀についているトリガー機能を組み込んだらしいが、最大までチャージして一度に十発程度しか撃てないにしても今までとは威力が桁違いだ。


「ヤバイ威力だな」


「これ、近くに誰かいたら使えないっス」


「ノーリスクのヴリルがこれやと、確かに能力低下や石化リスクの増す生命力ライフゲージ方式は無意味でんな」


 ヴリルが無限に使えるかどうかは分からないし、もしかしたら使い過ぎれば何か起こるのかもしれない。


 ただ、普通の人間が六程度の数値で生きてるんだったら、最悪でも死ぬことはないだろう。

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