第百六話 武器技術研究部の才女【神坂蒼雲視点】


 八月三日、午後三時。


 特殊部室棟の端、そこに大きな倉庫と小型の工場を持つ武器技術研究部。


 武器技術研究部に所属する沢姫は入手困難なレアアースやレアメタルなどを何処からか手に入れ、様々な機械を使って新兵器の開発などを行っている。


 GE用結界発生器とは真逆にGEを誘き寄せる為の装置なども開発に成功しているそうだが、誘い出して挟撃する以外にあまり使い様が無いから知っていても利用する者は少ない。


「誰かと思えば龍耶たつやか。なんだ? 開発中の新兵器でも見に来たのか?」


「まあ、それは後で見せて貰えまっか。とりあえずこれ見て貰えへんか?」


「特殊トイガン? ブラックボックス内蔵型か」


 沢姫はブラックボックスの性能に疑問を抱いて独自の論理ロジックでまったく別ベクトルの新兵器を開発中って話だし、今更こんな物を持ち込まれても困惑するだろうな。


真優まひろには悪いとおもうとるんやけど、いろいろ事情があるっちゅう事でひとつ」


「まあ、他ならぬ龍耶の頼みとあってはきかぬ訳にはいかんだろうな。貸しだぞ」


「お手柔らかに頼んます……」


 大きな体を小さくした窪内は沢姫の後に続いて武器技術研究部の部室へ姿を消した。


 相変わらず仲がいいというか、完全に尻に敷かれてやがるな。


「随分仲良さそうだね」


「あんなもんじゃないのか?」


「そうっスね」


 俺達も他の特殊トイガンなどを手に、部室の中へと足を踏み入れた。


 ここの部室も相変わらず凄い有様だよな……。


 武器技術研究部の部室。


 情報技術部と同じ様に応接間の様な場所が用意されてあって、俺たちはそこのテーブルについた。


 窪内は坂城から送られてきたヴリルの資料や超小型ヴリル測定器を見せて実際に目の前で自分のヴリルを想定して見せているな。


 そしてM4A1改弐をテーブルに並べる。


「ちゅう訳で、今回は特殊バレルやブラックボックスの強化が必要なんや」


「なるほど、生命力ゲージ以外のちからか……。盲点と言えば盲点だが、そのヴリルが使えると実際はどの位威力が上がるんだ?」


「まだ見てへんのやけど、幾つかの実験映像が入ったメモリーもありまっせ」


「興味深いな。先に見てみないか?」


 メモリに収められていた動画は首都での身体測定の様子だ。


 百メートル走とシューティングターゲットの様子らしいが、一人だけおかしい記録を連発してる奴が居るな。


「百メートルを一秒か」


「人間って、知らないうちにあそこまで速く走れるようになっていたんですね~」


「なってないから……」


 楠木の意見が正しい。


 ただ、荒城の記録もそこまで凄くないから、そこまで身体能力は強化されないのか?


「超人的な能力というか、著しく常識を外れた力を発揮しているのは凰樹おうきだけか。そこまで凄い力ではなさそうだが」


「次のシューティングターゲットだけど、結構威力が変わっているぞ」


「ほんまでんな。こっちの方は分かりやすいで」


 同じ銃で同じグレードの特殊弾を使ってもヴリルの数値次第でかなり威力が上がっている。


 荒城の数値は俺達と同じくらいだし、あれだけ威力が上がるんだったら期待してもいいんじゃないのか?


「とりあえず、もう二度と生命力ライフゲージを触媒に利用した兵器は開発されないという事だな。特殊トイガンを全て早急にヴリル対応型にしたいが為に、本来は外部に持ち出したくないであろう資料まで付けて龍耶にカスタムを依頼して来たのか」


「もう二度とって、そうなのか?」


生命力ライフゲージをチャージ機能に使うのは元々諸刃の剣で、しかもヴリル使用時よりも威力が劣れば触媒に使う意味など無いだろう。むしろ害悪ですらある」


「せやけど、問題は幾つもある。ブラックボックスやバレルの耐久性。それとAGE個人の持つヴリルに依存しよるから、生命力ライフゲージよりも安定させて扱いにくいっちゅう事や」


 生命力ライフゲージと使えばリスクと引き換えに安定した威力の武器が手に入る。


 ヴリルを使えばノーリスクだが威力は個人の資質に委ねられる。


 生命力ライフゲージを使うのは元々危険だって言われているし、ヴリルを安定して使えるシステムがあればいいんだが。


 沢姫は解体したM4A1改弐のバレル部分を持ち上げ、さっきの窪内の様に何度か叩いている。やっぱりあれで何かわかるんだな。


「凰樹の様に異常な数値のヴリルを持つ者が使えば、この特殊トイガンはバレルにヒビが入るか、回路が焼き切れて簡単に爆散するっだろう。厄介な武器だな」


「坂城の爺さんの改造計画の草案には、一旦内部もしくは専用カートリッジにチャージして一定以上のヴリルを供給しないモデルと、過供給したヴリルを排出もしくは再チャージさせるモデルがありまんな」


「どちらも折角ヴリルで実現した高出力による攻撃力をわざわざ無駄にする様な発想だな。これなら私が開発している兵器の方が上だ」


 現状ではヴリル方式の武器は諦めて、リスクの高い生命力ライフゲージ方式でやるしかないのか?


 こんな状況だと数日で問題を全部解消なんて無理だろ?


「とはいえ、ヴリルというちからは十分魅力的だ。今開発中の新兵器をヴリル方式に改良すれば……」


 沢姫は意外に可愛らしいデザインのメガネに光を纏わせ、既に頭の中で改造計画を立案しているのかヴリル対応型のバレル……、カートリッジ、リミッターなどと呟きながら怪しい笑みを浮かべていた。


 ああ、なんかスイッチが入っちまったか。


 なんで変人共はああなる事が多いんだろうな。


「大丈夫なの?」 


「いつもの事だ。そのうち考えを纏めてこっちに帰ってくる」


 心配した楠木が小さな声で俺に尋ねてきたが、沢姫の邪魔にならないように出来る限り小声で返した。


 沢姫はそのまま部屋の中をうろうろと何周もし、そして考えがまとまったのか立ち止まる。


「これか……」


「どうやら結論が出たっぽいな」


考えに没頭したのはすまなかった。とりあえずこちらは何とかなるので、そのヴリル対応型の特殊トイガンの改修箇所を考えるか」


「で、どないしまっか?」


「バレルは素材を変える。これは私が開発中の物を使えば問題ない。後は強度の問題だが……」


「なるほど。何とかしまっせ」


 沢姫はバレルに使用する素材や銃身を含めた改修案をだし、更にそれを窪内が調整して瞬く間に特殊トイガンの改造計画が出来上がっていった。


 俺達は何を言っているのかさっぱりだったが、とりあえずそのバレルを使っても特殊トイガンが作動するって事は理解できる。


 坂城さかきの爺さん以外でアレに手を出せるのは沢姫くらいだろうな。


 説明の為に用意された紙には改修箇所がびっしりと書き込まれている。


 というか、ブラックボックス以外は全部直されてないか?


「必要な素材の調達やパーツの成形は武器技術研究部の機材を使ってこちらで行おう。今から全力でやればGE対策部の部員分ならば今日中には出来上がるだろう」


「それをわてが調整して組み込んで……、装備が完成するのは八月四日。環状石ゲート攻略作戦は八月五日ってことになりまんな」


 今日中って、今はもう四時前だぞ。


 こいつら日付が変わるまで今日って感覚の人間か。助かるが無理だけはしてくれるなよ。


環状石ゲート攻略に必要な装備は確保できる目処が立ったな。後はルートの割り出しだ」


 それは俺がこれから全力で考えるさ。


 窪内や沢姫にばかり迷惑はかけられないからな。


 問題は小型GEライトタイプの規模だ。さっき見た限りだとそこまで心配するような数じゃないが、周りの状況とかも徹底的に調べておかないといけない。


 あきらの奴もこうやって毎回攻略作戦を考えていたんだろう。


 いまさらだが、あの時は反対して悪かったな……。

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