第九十五話 決戦!! 八岐大蛇!!


 午前九時五十三分。


 八岐大蛇W・T・Fヤマタノオロチから百メートルほど離れた場所にある半壊したコンビニ跡を拠点としていた松奈賀って人と合流した俺は、八岐大蛇W・T・Fヤマタノオロチの状況などを遠隔操作のカメラの映像で確認していた。


 ふてぶてしく丸くなって寝ている様にも見えるけど、単にあの姿が基本的な状態って可能性も高い。


 あいつはあの状態で待ち構えて、獲物や敵が一定距離に近付いてきたら動き出すんだろうな。


「すまないな凰樹。W・T・F討伐これ軍人俺達の仕事なのに」


「適材適所じゃありませんが、討伐できやれる人間がやるだけですよ」


 対GE用の装備を身につけている俺は手にしたM4A1改を確認した。


 徹夜でテンションが上がった坂城さかきの爺さんが更に調整を施してくれたらしいが、一応これで完成品って事らしい。


 これを窪内くぼうちに最終調整して貰えてれば完璧なんだが、そんな事をいえばキリが無い。


「わたくしも支援射撃をしますわ」


 不機嫌だった佳津美かつみも気持ちを切り替えてくれたらしく、同じく爺さんが調整を施した帝都角井製SIG552カスタム改を手にした。


 佳津美かつみでもチャージが出来るだろうが、時間がかかりそうだ……。


「俺がチャージしよう。その代わり支援射撃は任せたぞ」


あきらさんを失望させないように、全力で支援者芸を行いますわ」


「私達も……」


「いや、最終調整を済ませたヴリル対応型は輝と荒城君の銃だけだ。時間が足りなかったので、それ以上は無理だったのでな」


 俺もM4A1改と特殊小太刀の方にもヴリルをフルチャージして八岐大蛇W・T・Fヤマタノオロチを視界に収めた。


 こうしてみてると分かるけど、隙があるようで全然ない。


 空でも飛べるんだったら可能なんだろうけど、何処から攻撃しても何発かの同時攻撃を全部躱す必要があるぞ。


 直接攻撃できるタイミングは多分一回だけ。


 その一撃で終わらせないと俺たちの負けだ。


佳津美かつみ。ここから五十メートル程八岐大蛇W・T・Fヤツに近づいて、頭部に十秒支援射撃を行ってくれ。タイミングやどの頭を狙うかは任せる」


「わかりました。輝さんは?」


「一旦八岐大蛇W・T・Fアイツの右方向に移動した後でそこから射撃を行い、反対側から斬り付ける。銃撃で倒せれば問題無いんだが……」


 八岐大蛇W・T・Fヤマタノオロチの全長は十五メートル程。


 胴体から延びている首が各五メートル、シッポが各七メートル程で胴体部分だけでも三メートルもある。


 その胴体におそらく要石コア・クリスタルが隠されているんだろうけど、その予想を覆して頭のどれかに隠されている可能性もあるから楽観はできない。


 どこにあるのかが分かればそこだけ狙えば済む話なんだけど、分からない以上そんなギャンブルなんて出来ないからな。


「あの、私達も……」


「やめとけ。レベル差は分かっているのだろう?」


「それはそうですが……。邪魔って事ですか?」


「ハッキリ言えばそうだ。あの二人の呼吸に付いていけるなら止めはしないが」


 坂城さかきの爺さんが智草や桃山にそんなことを言っていた。


 支援射撃位出来なくはないだろうが、窪内や神坂たちの様な連携は期待できない。


 いても邪魔な可能性もあるし、今回は自重して貰おう。


 俺と佳津美かつみは目を合わせずに、お互いの攻撃開始のタイミングを感じ取った。


 次の瞬間、俺は八岐大蛇W・T・Fヤマタノオロチの右側に回り込み、チャージしたヴリルを最大まで乗せた銃撃を頭部に向かって浴びせはじめる。


 頭部に命中した光の銃弾は一撃で半径四メートル程の光球を発生させ、何本もの頭を纏めて光の中へと飲み込んだ。


 なるほど、光球の大きさはそこまで変わってないが、威力がかなり上がってるぞ!!


 そしてそのまま胴体、シッポと続けて銃弾を浴びせ、原型がほとんど残っていない位に八岐大蛇W・T・Fヤマタノオロチを破壊したが、それでも八岐大蛇W・T・Fヤマタノオロチが消滅する事は無く破壊された部位がおぞましい速度で再生を開始している。


 今の攻撃で頭と尻尾に要石コア・クリスタルが無い事が確認できた。やっぱり本命はあの馬鹿でかい胴体の何処かだ!!


「あれ? 荒城さん、支援射撃して無くない?」


「今はまだその時じゃないんだろう」


 そう、その時は今じゃないし、佳津美かつみはきっとその時を待っている。


 その瞬間を静かに待つのは、闇雲にトリガーを引くよりよっぽど勇気と覚悟が必要だ。


 僅か二十秒後、八つの頭とシッポ全てを完全消滅させた俺はそのまま左側に回り込み、今のわずかな攻撃の負荷でバレル周辺がヒビだらけとなったM4A1改をその場に投げ捨てた。


 あのまま使っていれば爆散してたかもしれないな。 


「そこですわ!!」


 俺が銃を投げ捨てて特殊小太刀に手をかけて再加速をするほんの一瞬。


 刹那に発生した一秒にも満たない隙。それに気が付いた八岐大蛇W・T・Fヤマタノオロチは頭部を一本だけ急いで再生し、そこから俺に目掛けて何かを放とうとしていた。


 その無防備な首に向かって佳津美かつみの放った支援射撃が降り注ぐ。


 その支援射撃のお陰で無事に特殊小太刀を手にした俺は、全速力で一気に八岐大蛇W・T・Fヤマタノオロチの懐へと迫った。


「これで……、終わりだ!!」


 最初の一撃で胴体を真っ二つにしたが、内部の要石コア・クリスタルの破壊には至らない。


 やはりバーストモードでトドメを刺さないと駄目か!!


 俺は八岐大蛇W・T・Fヤマタノオロチから一部だけ覗いていた要石コア・クリスタルに特殊小太刀を突き立ててそのままトリガーを引く。


 内部に溜めこんでいたヴリルの量があまりにも膨大だったのか、特殊小太刀も刀身から眩い光の帯を何本も伸ばして要石コア・クリスタルと共に完全に砕け散った。


「輝のヴリルに刀身が耐えられなかったか。まあ、もう一匹が出て来る前に予備を用意すればいいだろう」


「そうだな。しかし、凰樹アイツは本当に凄い奴だ……」


 八岐大蛇W・T・Fヤマタノオロチという脅威が去ったから、坂城さかきの爺さんと松奈賀は一息ついてそんな事を口にしていた。


 なんにせよ勝てて良かった。


 佳津美かつみの支援射撃が無いとヤバかったし、やっぱり信頼できる心強い仲間が必要だよな。


「あの、この銃はしばらく使えそうにありませんの」


「俺の方もだ。おそらくヴリルのフルチャージ状態からの連続使用に耐えられなかったんだろう」


 俺達の特殊トイガンはヴリルのフルチャージの反動であちこちにヒビが入り、このまま使えば爆散しそうな状態になっていた。


 そんなに長時間使用していないのにこれでは流石に役には立たないな。


ヴリルのチャージ量を増やした事がアダになったか。ブラックボックスと特殊バレル周辺の耐久力も強化が急務だな。素材から見直す必要がありそうだが」


「調整に時間がかかりそうですか?」


「窪内君にも頼むつもりだ。完成するのは今月末になるかもしれんな」


 あの攻撃を続ける事が出来ればた確かに強力だけど、色々課題が残ってる感じだな。


 窪内の調整でどこまで強化できるかは知らないけど、たぶんいつもみたいに戦える位にはしてくれるだろう。


「石化から復活しましたが意識を失っていた防衛軍第三特殊機動小隊の収容完了しました」


「ごくろうさん。小柳達も元に戻ったか。しかし、この結果を聞けば一層矜持は傷付くだろうな……」


 防衛軍第三特殊機動小隊の仕事は国土の奪還。


 規格外のW・T・Fと戦う事が仕事じゃないし、仕方ないんじゃないのか?


 あの人たちがいなければもっと多くの街がいまだに危険区域の中だ。


 現場に弛緩した空気が流れたその瞬間、松奈賀が身に着けていた端末が着信音を鳴り響かせた。


「向こうで動きがあったのか? 俺だ」


「松奈賀さん。ヴァ……ヴァンデルングトーアファイントです!! たった今、東京第三六六環状石ゲートからW・T・Fが出現しました」


「今か? どんなタイプだ?」


「それが……、出てきたのは大烏オオガラスです。翼を広げれば十メートルを優に超える大きさの……」


 F型じゃなくて、MIX‐AのW・T・Fか。


 W・T・Fの報告で今までにも似たタイプがいるけど、強力な特殊攻撃を有している赤竜種W・T・Fドラゴンや異常な再生能力を持つ八岐大蛇W・T・Fヤマタノオロチと比べれば幾分かもしれない。


 ただ、それはそいつが飛ばなかった場合の話だ。


 こっちはF型だけどアフリカの超巨大翼竜種W・T・Fフライングギガントは現行の武器では攻撃すら届かず、どうやれば倒せるか分からないという状況だしな。


 流石に自由に空を飛び回られると、今の特殊トイガンや特殊小太刀程度だとどうにもならない。


「よりにもよって飛行タイプか。何かほかに特徴はあるか?」


「足の数が一本多いですね。GEにはよくある事ですけど」


「他にも別の生物の部品はあるか? それと、その足はどんな生物なんだ?」


「いえ、三本の足は全部烏の足ですね。他には何も……」


 それもしかすると、大烏オオガラスじゃなくて八咫烏ヤタガラスじゃないか?


 こっちに出現したのが八岐大蛇W・T・Fヤマタノオロチだし、その方が納得できる。


「それもしかして八咫烏ヤタガラスじゃないですか?」


「俺もそう思う。どちらにせよ飛行型の強敵って事で間違いなさそうだ」


「これ以上の話し合いは現地で行おう」


「問題は武器ですが……」


 今や柄に砕けた刀身が付いた特殊小太刀を見せる。


 特殊トイガンもヒビだらけだしな。


「その事も現地で話す。最悪の場合、数日待って貰う事になりそうだが……」


「そうですね。まずはそこに行ってからです」


 既に飛んで上空を旋回なんてされていたら、その時点で終わりな気がする。


 流石に俺でもどうにもならないし、アレが当たるとも限らない。 


 運よく当たれば倒せるかもしれないけど。


「全員バスに乗ってくれ。急いで向こうに行くぞ」


「わたしたちは行く必要が無いと思うけど、一応行かせて貰うわ」


「そうですね。何かアドバイスができるかもしれませんし」


 ここに残っても仕方がないし、この忙しい時に別便で宿舎に送り届ける事もできないだろう。


 二体のW・T・Fをじかに見れるなんて、そうそうない機会だし見ておくのもいいんじゃないかな?


 あまり見たくないだろうけどさ。

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