第九十話 ランカーたちの親睦会


 八月一日、午後八時十二分。


 俺達四人は親睦を深める目的で用意された食事会に参加していたが、室内にある四人で食べるには膨大過ぎる量の料理に呆れていた。


 広い部屋の内部には四人掛けのテーブルが五つ用意してあるので、元々はその位の人数は参加する予定だったんだろうな。


 バイキング形式で用意されている様々な料理、アルコール類も揃ったドリンクコーナーや注文形式の寿司カウンターも設置されている。


 このご時世では入手の難しい珍しい様々な果物が詰まれたテーブルが並んでいるぞ。


 元々は坂城さかきの爺さんが部下を連れてくる予定だったらしいが、残念ながら昼間のデータ解析などで忙しいから俺達だけって事になった。


 その結果。どうやっても食いつくせない量の料理がならんでいる訳だが……。


「食べ残すと勿体無いですけど、流石にこの量はどうにもなりませんね」


「この量は熊でも無理ですわ」


「パーティなんてどこもこんな物よ。料理を残すのは忍びないけど、食べれるだけ何とかしましょう」


「そうですね」


 それぞれが様々な料理が並べられたテーブルへ向かい、好きなメニューを選んでいた。


 ローストビーフは好きな厚さで切って貰えるし、今は国内で生産しているキャビアまであるじゃないか。


 骨付きラム肉の塩釜香草焼きもおいしそうだけど、羊毛生産用の羊はマトンで出荷される事が多いのに子羊の肉を料理としてだせるんだな。


 パイ生地のドームで隠されたカップに入ったビーフシチューなどもある。


 蟹は丸まま一匹が茹でた姿でおかれているし、あっちにあるのはサラダや果物か?


「とりあえずこの位かな?」


「最近食べる量が増えましたのね」


「俺も自覚してるんだけどな。坂城さかきの爺さんにも話したけど、問題ないそうだ」


 あのヴリルって力の影響なのは間違いがない。


「うちは予算的に厳しいから、いつもはこんな料理なんて食べられないわ」


「トップランカーの部隊なのにですか?」


「トップランカーだからよ。少数精鋭で稼ぎまくってるあんたのところと違って、普通ランカーの部隊は百人くらいの大所帯なのよ」


「個人の撃退ポイントは無理ですけど、魔滅晶カオスクリスタルを纏めて納品させるのはよくある事ですよね」


 昔からよくあるって言われるポイント稼ぎか。


 そりゃ、百人単位で搔き集めればかなりの数になるだろう。


「それって禁止されてませんでした?」


「たまたま少し高めの魔滅晶カオスクリスタルを運よく見つけるだけよ。袋入りだけどね」


「少しずつ貯めてばれないように細工ですか」


「ランカーなんてそんな物よ。いいように扱われてきたけど、結局は宣伝する為のピエロに過ぎないし」


 トップランカーが人類の希望として祭り上げられているって話は聞いていたな。


 だからランカーやセミランカーにも異常な優遇がなされていた訳だけど、あの辺りも仕組まれたものだったんだろう。


「オハジキ大魔滅晶カオスクリスタルの買取価格をあげないのは企業の為らしいけど、その利益で対GE民間防衛組織を運営してる訳だしね」


「元々そういう組織ですしね」


 民間防衛組織なんで、スポンサーは当然企業なんだよな。


 金だってどこかから湧いてくる訳じゃないんだし、ポイントとして支払われる膨大な金の出所が何処なのかくらいわかるだろう。

 

 ただ対GE民間防衛組織やネットショップでの買い物にはカラクリがあって、何割かが再び対GE民間防衛組織に戻っていると聞いている。


 その為に実際に表示されているポイントと、企業などに支払われているポイントには差があるらしい。


「失礼だけど、あの二百五十六億ポイントって本当なの? 対GE民間防衛組織の仕込じゃなくて?」


「本当ですよ。環状石ゲート二ヶ所の破壊及び救出とドラゴンタイプW・T・Fの討伐報酬です。環状石ゲートの方は報酬の改定がありましたから、今後は増加分が少なくなると思いますけど」


はランカーズ対策って聞いてたけど本当だったのね。流石に私も環状石ゲート破壊に手を出そうとは思わないけどね」


「流石にそれが自殺行為だって事くらいは理解していますよ。二回も成功させている人が目の前にいますけど」


「二回とも仲間がいなければ不可能でしたよ。W・T・Fに関しては武器と運が良かっただけです」


 あの時、俺の手に次世代型特殊小太刀が無ければ絶対に勝てなかっただろうし、あの時に俺の力があの域に達していなくても同じだっただ。


 最初の環状石ゲートを破壊する前にW・T・Fに出会っていれば、碌なダメージも与えられないままにあそこで終わっていた。


 その時は別に戦力として期待されてないだろうけどな。……一応ランカーだったし、W・T・F戦に駆り出されたかもしれないな。


「武器や運がいいだけでW・T・Fを倒せるわけないでしょ!!」


「そうですね。確かにあの武器が必要だと思いますが、凰樹おうきさんが使わなければあの威力は発揮しませんわ」


「あの威力? さっきの身体測定では特殊小太刀は使ってなかった筈だけど」


 ハーフトリガー状態の特殊小太刀の姿を知らなければ信じられないだろう。


 特殊トイガンの威力は近い出力だったけど、あんな威力だとほとんどダメージを与えられない。


「観たのよ。この服に着替える為に宿舎に戻った時にあの映像を……」


「人間にあんな事が出来たんですね」


「あの時のあきらさんは本当に神々しかったですわ。あの映像はわたくしも何度も観返していますもの」


 初耳だ。


 提出したデータはマスターが部室のパソコンに保管してあるが、そこから抜き出したのか?


 確か窪内の奴がいい感じに編集したとか言っていたからそっちの可能性もあるけど。


 対GE民間防衛組織はその映像を宣伝に使うとか言ってた気がするし……。


「ハーフトリガー機能があったからですね。あの機能は本当に凄いです」


「その機能を私も特殊大太刀で試しましたわ。あそこまでの威力は出ませんでした」


「光の刃が出せたんですか?」


「いつも通りに少し刀身が光っただけですね。あんなことが出来るのは凰樹おうきさんだけだと思います」


「俺がヴリルをチャージしてハーフトリガーを使えば出来るんじゃないですか?」


 初めから誰かがチャージしてればその分は使えるだろう。


 それがどの位維持できるのかは問題だけど。


「坂城さんの話ですと、最大で一秒持てばいいって事ですね。攻撃した時はもっと短くなるそうです」


「供給されるヴリルが無いと、バーストしてるのと同じ状態になるのか」


「そういう事ですね。アレは相当なヴリルが無いと真似できないみたいですね」


 そんな短時間だったらほとんど役に立たないな。


 接近するにも相当な身体能力が必要だし、攻撃できるかどうかが問題だ。


 それに数秒だと間違いなく倒しきれない。


 何本用意しても同じだろうし、チャージできるヴリルの量が百倍くらいになれば実践で使えるようになるかもしれないけど。


「そもそもあんな化け物の懐に飛び込める時点で異常なの。普通の人間だったら途中で石像に変わっているわ」


ヴリルだけじゃなくて、生命力ライフゲージでも身体強化はできますよ?」


「あなた以外に使えてる人がいないでしょ?」


「神坂さんは使えている気がするのですが」


「うちの部隊のメンツは全員少しは使えているな。それでも常識の範囲内だし、生命力ライフゲージが減ったりしないけどな」


 もしかしたらあいつらの使っている力もヴリルなのかもしれない。


 そうでなけりゃ、今まで生きて帰れる筈の無い状況から何度も脱出できていないからな。


「やっぱりあんたたちの方が異常なのね」


「俺たちにとっては普通ですよ。何度も死ぬ目にあって身に着けた力ですし」


 特に窪内と神坂は付き合いが長いからな。


 ヴリルで強化されているとしたら、窪内が力で神坂が瞬発力、霧養むかいが予知能力か?


 俺みたいに全部って訳じゃないけど、それぞれに特徴が出ているのも面白い。


「わたくしも少しだけ力が強い気がしますわ」


佳津美かつみは割と全般的に強化され散る気がするな」


 動きは素早いし力も割と凄い。


 ソロ活動をしていたから、万遍なく鍛えられたんだろうな。


「もうこれ以上食べられないし、この辺りでお開きにしない」


「そうですね。明日も何かあるんでしょうし」


「明日の予定は、郊外でのフレンドリーファイヤー対策実験って書かれていますね」


「何をさせる気なのよ……」


 何度見てもフレンドリーファイヤー対策実験と書かれてるし、いやな予感しかしない。


 まさかあれを誰かに向けて撃てとか言わないだろうな?


 あの頭のネジがぶっ飛んだ爺さんだといいかねないんだが……。


 出された料理を残していくのは心苦しいが、流石今回だけは仕方がないだろう。


 もったいないから蟹は解体して貰った後で、美味しく頂いたけどさ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る