第六十五話 サ-ビスエリアに潜む何か【神坂蒼雲視点】
警戒するエリアに近付く直前、伊藤が何かに気が付いたみたいだ。
飛行型のGEでも見つけたか?
「
「こんな場所にか? バイクで一人旅って話じゃなけりゃ、逃亡AGEの可能性が高いな」
「怪我って可能性もあるよ。あきらに判断して貰う?」
「まだ十分距離があるから、寄るなら間に合うっス」
今回は俺達が先行していた為に、後ろにいる
「えっと、
「了解っス」
二台は緑点が表示されているサービスエリアへと向かった。
この辺りは特に危険度が高くて施設は殆ど整備されていない。その為に掃除や整備の行き届いていない駐車場には空き缶や紙袋だけでなく、木の枝などの自然ごみまで散乱している。
こりゃ、止める場所を探すだけでもひと苦労だぞ。
「とりあえず、ゴミの少ない場所に車を止めようぜ」
「了解っス。俺が行くから神坂さん達は此処で待っててください」
「ちょっとまて、向こうからは
「了解っス」
対人戦闘能力だと俺は
あいつらもいるし万が一は無いだろう。
ランカーズ内で対人戦闘に秀でている俺達が緑点の正体を確認する為にサービスエリアの建物へと近付いていく。
相手が銃や爆発物を所持しても
こいつは絶対に
……竹中には悪いが、割と勝負はついてると思うぜ。
緑点の反応は建物の裏。景観などを考慮されて植物等もかなり植えてある為に無断で住み着いた奴が身を隠すには絶好のポイントだ。
「そこにいるのは誰だ?」
「……だ、誰かいるのか? すまないが……、何か飲み物を……」
建物の裏から聞こえてきたのは弱弱しい女性の声だった。
演技の可能性もゼロじゃないが、声が擦れているのは身体に何か異常をきたしている可能性の方が高い!!
「
「ちょっと待ってろ」
俺は全力で車に戻り、さっきのサービスエリアで買ったスポーツドリンクのペットボトルを選んだ。
普通サイズのペットボトルだが、差し出したら何とかそれを両手で持って少しずつ口に含んでいる。
「…………ふぅ、助かった。もうダメかと思ったよ。俺はセミランカー二百五十一位の
「それはそのまま飲んでくれ。こんな所で何をしていたか聞いてもいいか?」
名乗られているのに名乗り返さないのは失礼だろうが、
見た感じそこまで衰弱してはいないが健康とは言い難い状況の様だし、あの姿が演技だとは思えないがな。
ちょっと立ち寄っただけじゃこうはならない。
状況的に考えりゃ、逃亡AGEか何かの可能性の方が高いな。
「ここにいるって事はアンタらもAGEか? それなら話は早いが、
「最初にドイツで目撃された、
通常GEは
この辺りは防衛軍や各国の軍隊が
一方でW・T・Fは
総じて超がつくほどに強力で目撃情報と戦闘記録だけは幾らでもあるが、いまだに討伐に至った事例は存在しない。
日本では存在そのものが確認されていなかったはずだが……。
「そう、そのW・T・Fが最近この辺りで見つかったのさ。それもよりにもよって、流通の大動脈である高速道路の周辺に潜んでやがるんだ」
「AGEの情報にまだ流れていないぞ。その話、確かなのか?」
隣の県に出現した場合でも流石にW・T・Fの情報はすぐに知らされるだろう。
世界中で最も多く人を石に変えたのは
「けっ!! うちの県の対GE民間防衛組織のお偉いさんが情報を隠してるんだろう。何でも隣の県に凄腕のAGEがいるとかで、首都にいるお偉いさんたちにうちの県のAGEの実績をみせつけようと対抗意識を燃やしてるらしいし」
隣の県にいる凄腕のAGE。
それが
そのAGEはお前さんの目の前にいるぜ。なあ、
「ここにいるのは、そのW・T・F関係なのか?」
「ああ、この先に
「……それはいつの話だ?」
「ひと月程前。確か……六月二十九日だった筈だ」
六月二十九日、それは俺達がAGEとして初めて
俺達の住んでいる居住区域では隣の県の高速道路で起きている些細な事件などにかまっている暇は無く、その日からしばらくは対GE民間防衛組織や役場の職員などは突然発生した膨大な仕事に忙殺されている。
まてよ。うちの居住区域の対GE民間防衛組織があんな状況の場合、別の可能性もあるんじゃないか?
「そのGE。本当にW・T・Fなのか?」
「どういうことだ?」
「この辺りにはレベル五の
「確かにな。そのレベルだったらその可能性がある。それに本当にW・T・Fだった場合。ひと月も経っているにこの辺りが無事な理由に説明がつかない」
W・T・Fは強力なGEだ。
それも、亡国の脅威と恐れられているレベルのGEで、ひと月もあれば相当な規模で被害が出ていないとおかしい。
「流石にそこまでは保証できないが、上からの報告だとW・T・Fで間違いないだろうって話だった」
「W・T・Fの研究はまだ進んでいないからな。もしかしたら出現後しばらくはあまり活動しないのかもしれない」
「確かに。ドイツに出現したW・T・Fが活動を開始したのが半年後って説もあるしな。いつ現れたか正確な時期が分からない上に、存在が確認されたのが被害が出始めてかららしいし」
「上からの情報じゃ、疑う訳にもいかないか。他に情報源は無いしな」
それでその情報を信じてここで見張りを続けていたのか?
こんな状態になりながら?
「ひと月前。俺はある程度の物資と一緒に此処で降ろして貰い、それを使って
「先にまともな飲み物と資金が尽きたって訳か。状況は理解したが、これからどうするつもりだ? まさかこんな状況で
「それなんだが、実は一週間ほど前からこの先のサービスエリアで同じ様にキャンプをしている仲間と連絡がつかないんだ」
それとも、連絡を入れる暇も無く全滅したのか。
流石にリングは破壊されていないだろうが、AGE用の端末でここから確認するのは厳しいかもしれない。
「それと、ここから出るにも移動手段が無くてね。ヒッチハイクしようにも、此処を利用する奴なんて殆どいないし」
「まともな感覚の持ち主だったら、ふたつ前のサービスエリアを利用する筈っスね」
「その通りだ。だからここで守備隊か何かが見つけてくれるのを待っていたんだ」
「違法移住者でなくても、理由を話せば保護位はしてくれるだろうからな」
脱出方法がない以上仕方ないのか?
AGE用の端末くらいあるだろ?
「情報を入手する為の端末は……って、ひと月も此処にいたら電池切れか?」
「残念ながらな。そこの電源は生きてるんだが、充電用のコネクターを忘れた。気が付いたのは電源が落ちた後さ」
「それが一週間前とか言わないよな?」
「そうなんだが、こっちから連絡がつかないのに救助にもこない。向こうで何かあったのは間違いないんだが……」
「そのサービスエリアまで送ってやろうか?」
「いいのか?」
「それは構わないんだが、万が一の場合そのまま通過する可能性がある事は理解してくれ」
「サービスステーションにW・T・Fがいた場合だな。了解した」
流石にそいつが
一度通過した後で完全武装して戦いたいところだが、その場合は高速道路を封鎖して貰う必要がある。
……待てよ、なんで今は普通に通れるんだ?
そいつがW・T・Fじゃなくて
「まさか」
「俺達を巻き込むつもりなのかもしれないぞ」
「その可能性は高いですわね」
高速道路の使用申請を出したのは数日前だ。
もし本当に俺達を巻き込むつもりだったら、その期間中は移動制限を解いて俺達を誘き寄せるだろう。
「上が他県のAGEにそこまでするとは思えないが」
「そういう事もあるのさ。詳しくは移動しながら話そう。俺の名は
「凰樹ってトップランカーのか!! なるほど、さっき言った理由が分かったぜ」
まあそうだろうな。
今は休暇中だし、昨日
時期を改めて依頼が来れば引き受けるだろうけどな。
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