第六十四話 最高のサービスエリア【神坂蒼雲視点】 


 最初のサービスエリアから車を走らせてちょうど一時間後、午前八時三十七分。


 まだ朝早かった為に売店などは開いていなかったけど、まともなラインナップの自動販売機やホットスナック系などの食べ物を扱う自動販売機は稼働している。サービスエリアはこうでなくっちゃな。


 売店が開いてりゃさらに良かったんだが、午前八時台に開いてる店なんて居住区域内でも二十四時間営業のコンビニか豚丼屋くらいだしな。


「これっ!! これっスよ!! たこ焼きやたい焼き、それに唐揚げとかまで!!」


「こんな自動販売機があるんだ~!! お姉ちゃん、こっちにはアイスの自動販売機もあるよ!!」


「あら、ほんとね。……どれが食べたいの?」


「買ってくれるの? ありがとう!!」


 流石にあんなにはしゃいでたら買って欲しいのはまるわかりだ。


 宮桜姫に買って貰えなかったら最終的に自分で買ったんだろうが、ほほえましい光景ではあるよな。


 しかし、確かに凄いラインナップだ。


 パン系のメニューはハンバーガーにホットドック。ご飯系はチャーハンや焼きおにぎり。麺類は焼きそばにパスタが数種類あるな。


 唐揚げとフライドポテトはそれぞれ単品とセットがあるし、甘い物もたい焼きやホットケーキなんて物もあるし、別の自動販売機だとチョコスナックとかアイスもある。


 たこ焼きなんかもあるし色々揃ってる。カップラーメンは市販のものだが、買った後でお湯も入れられるみたいだぞ。


「すげえな、さっきの場所とは天と地の差だ。値段は相変わらずだが」


「千円超えるホットスナック系はともかく、まともなジュースが買えるってだけでもありがたいっスね」


「ここで腹いっぱい食おうとおもうたら、軽く一万円超えまっせ」


「どれも量は少ないからな。あんな小さい焼きおにぎりが二個で千円だぞ」


 こんな所で売るんだから仕方がないとはいえ、もう少しボリュームがあると助かるんだけどな。


 値段と量で考えると、一番良心的なのは市販のカップラーメンが売ってるあれか? 半分以上売り切れているけど。


「あの辺りのカップラーメンは輸送業者の人が晩飯で食ってるらしいっスね。温かくて安いし腹がそこそこ膨れるからっス」


「あそこの売店や食堂が開いて無い時には、この自販機が頼りだからな。俺たちは買うんだったら高いホットスナックやアイスにするか」


「わかったっス」


 流石はあきら、細かい所にまで気が付く奴だ。


 GE関連のこと以外は意外にたんぱくだけど、周りのみんなが嫌な気分にならないように気は使ってくれるしな。


 霧養は大喜びでホットスナックを数種類とまともな炭酸系飲料をいくつか買い込み、それを抱えてバンタイプに乗り込んだ。次はお前が運転する番だけどな。


「買い終わったらそろそろ出るぞ」


 トイレを済ませた後で全員車に乗り始めた。やっぱりこっちの車は三人だけか?


 俺はそう諦めていたし別にそれでもかまわないと思ってたんだが、助手席でナビをする伊藤だけでなく後部座席には竹中まで既に乗り込んでいた。


「あの、ゆかりさんも今回はこっちに乗るそうで~す♪」


「よろしくね♪」


「良いんっスか?」


あきらの方でなくてもいいのか?」


 竹中が激しい凰樹争奪戦に参加している事は誰の目から見ても明らかで、こんな絶好の機会に自ら別の車に乗り込むとは信じられなかった。


 絶好のチャンスじゃないのか?


「こっちでいいよ。どうせ車の運転中のあきらに何言っても無駄だし」


「まあ、確かに運転中のアイツはな……」


 特にこの先は気になる情報を入手しているし、臨戦態勢に入ったあいつに話しかける事は逆効果だろう。


 普段の運転中だと話くらいは聞いてくれるんだけどな。


「それより、神坂君にちょっと聞きたい事があるんだけどいいかな?」


「え? 俺?」


 今回は俺に代わって霧養が運転する事になっているので、後部座席に座った俺に話しかけてた。


 やっぱり近くで見るとすげえ破壊力だよな。これを押し付けられて冷静でいられるあきらはどんな鋼の精神をしてるんだ? って、違うだろ!!


 俺はもうよこしまな心は封印したんだ。の為にも情けない姿なんてさらせないし、恥をかかせたくないからな。


 とりあえず俺は落ち着いて、さっきサービスエリアで買ったジュースを一本竹中に差出した。ジュース類は結構な量がクーラーボックス内にもあるけど、あの飲み物類は現地でバーベキューをしたり海水浴中に消費するから調達できる今は買った方がいいだろうって判断だ。


 伊藤は作ってきていたカップケーキをひとつずつ手渡してきた。


 運転手の残念ながら霧養はお預けだ。大量に買ったホットスナック類は、移動し始めるまでに食いきったみたいだけどな。あんなものは量が少ないからその気になればあっという間だ。


「うん。神坂君はあきらとの付き合いが長いから、好きな食べ物とか知ってるかな~と思って」


「なるほど、そういう事っスか」


「情報収集は大切ですよね~。私は参加しませんし、応援していますよ~」


 意外な事に伊藤だけはかなり早いうちから中立を宣言していたし、あきら争奪戦にも参加していない。


 今のところ最有力候補は荒城あらきと竹中で、宮桜姫みやざき楠木くすのきのふたりはあわよくばって感じか? ああ、俺の知ってる限りだとあと一人というか二人いるな。


 俺の知らない奴にも言い寄られているそうだが、全員玉砕しているみたいだ。


 今のあいつに告白しても断られるに決まってるだろ。


 運転しながらも霧養は話に参加してきたし、助手席の伊藤はジュースを飲みながらも端末に映し出される情報を解析し続けていた。今は霧養が運転するから俺の時より車が揺れないしな。


 周りにもAGE登録者が多いらしく、安全な場所だけに近くには紅点は存在しないが緑点は数多く表示されているって話だ。


「好きな食べ物か……、あいつは好き嫌いせずに何でも食うからな。何か食いたいときは自分で材料を買ってきて作るみたいだし」


あきらさんは料理の腕も凄いっスよね」


「十歳の頃から一人暮らしだからな。中学の学生寮の時は自炊してたみたいだし」


「特に好きな料理とかないかな? わたしが出来る料理だとすっごく助かるんだけど」


「あいつも男だから揚げ物が大好きだぞ。鳥の唐揚げを作るんだったら胸肉は避けてモモ肉で作るといい」


「何か違うの? 胸肉の方が安いよね?」


「胸肉で唐揚げを作るとかなりあっさり味にから大変っすよ。モモ肉だったら割とおいしくできるっス」


 霧養は食う専門だけど料理の知識がない訳じゃない。


 あの辺りの情報は窪内が作る時に教えてたっけな。


「唐揚げっと……。他にはない?」


「あいつの大好物で、一見簡単に見えて割と難しい上に手を出したら失敗しやすい料理がある」


「そんな料理があるの?」


「牛肉のステーキだよ。脂のサシが思いっきり入った肉じゃなくて、割とごつめで程々に脂がある肉がいい」


 肩ロースとまではいわないけど、サーロインのステーキとかな。


 和牛で最高品質のサシが入りまくった肉もおいしいんだけど、あいつに食わせるんだったらインパクトのあるごつい肉の方がいい。


「肉を焼くだけなんだよね?」


「ちゃんと中心部分にも熱を通した上で半生状態に焼き上げるのが意外に難しいんだ。焼き始める前の準備とかやる事も多いしな」


「厚めのフライパンなんて手に入りませんしね~」


「簡単そうに聞こえたけど難易度が高い?」


「あいつに食わせる前に何度か練習した方がいい。これくらい厚さで正方形の肉を試せば練習になるだろう」


 指で四センチほどの大きさを作った。


 サイコロステーキにしては少し大きいが、本番は横に数倍長い肉を焼くことになるから練習にはちょうどいいだろ。


 ある程度慣れたら大き目の肉で最後の調整をすればいいし。


「貴重な情報をありがとう。練習してからあきらに食べて貰うね」


「あいつは他人の料理に難癖は余り言わないが、酢豚みたいな料理に果物系の甘いアクセントはやめといたほうがいい。あまりいい反応をしているのを見た事がない」


「なんでも食べるけど、あまり手を出さない料理はあるっスよね」


「酢豚バツと……。という事は、ポテトサラダにリンゴとか缶詰のミカンなんかは」


「確実にアウトだ。そのリンゴと缶詰のミカンを別皿で出した方が遥かに好感度が上がるぞ」


 あいつは果物も結構好きだしな。


 危険区域には野生化した果樹が結構あるし、戦闘の帰りにあまり甘くないビワとかモモなんかを食ってたりもする。


 俺も一緒にいろいろ食ったりしたけどな。


「本当に詳しいんだね」


「付き合いが長いからな。もう腐れ縁さ」


 あれだけ無茶を繰り返しておきながら、二人とも無事ってのはかなり運がいいよな。


 俺達はあとどの位無茶を繰り返さないといけないんだろうか?


 あの日、レベル二環状石ゲートを破壊した瞬間から、故郷の家族を助け出したいって目標は同じになった。


 俺は諦めてたんだがあいつは一度だって諦めちゃいない。


 それがあいつの強さの秘密なんだろうな。


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