第六十三話 ある意味楽しいサービスエリア


 居住区域内の自動車専用道路をしばらく走り、奪還区域の帯を抜けてそろそろ危険地帯の中を走る高速道路が見えて来た。


 高速道路はそのほとんどの区間が奪還区域の中に存在するんだけど、極稀に迂回不能な場所に高レベルの環状石ゲートが存在する場所がある。


 流石に本体である環状石ゲートの近くを通ったりしないけど、道路から拠点晶ベースが視認できる場所は何ヶ所か存在するんだよな。


 超距離攻撃手段が開発されれば道路上からその拠点晶ベースを狙撃できるんだけど、逆にこちらに攻撃手段が無い事を知っているのかGE側から襲って来る事は稀だ。


「ようやく高速か、AGE用端末は無線承認システムに接続してあるからこのままいくぞ」


「ここでもポイントで支払えるってのは大きいですよね」


「居住区域外へ出る許可証も同時に確認するらしいからな。何処まで情報が洩れている事やら」


 俺の運転するマイクロバスと神坂の運転するバンにも、AGE用端末を接続する無線承認システムが搭載されている。


 電子マネー機能も備えた住民カードを無線承認システムのスロットに挿入してもいいんだが通行許可の照会に時間が掛かる事もあるから、最終的には無線承認システムにAGE用端末を接続した方が早かったりする。


 元々高速道路を通行するシステムだった物を改良したらしいが、現在では高速道路や自動車道などは物資を運搬するトラックや他の居住区域に応援に行くAGEや守備隊位にしか使用許可が滅多に下りない為にこのシステムを搭載している車はかなり少ない。逆に大型トラックには必須の装備となっているとか。


 旅行で電車などを使用する場合には一般人に限っては割と簡単に移動許可が出るんだけど、車を使う場合にはAGEとして活動した経験の有無やその戦果などで通行の許可そのものが下りない事も多い。


 これは別にAGE活動の経験の無い一般人が意地悪されている訳じゃ無くて、自動車道の一部や高速道路の一部にGEが極稀に出現する箇所があるのでその場所を通過する実力があるかどうかが問われている為だ。


 この規制は十年以上前に発生した【自動車道封鎖事件】の教訓で出来た物だ。


 その事件はGEが既に各地に出現してはいたが、まだ高速道路の通行が比較的に自由だった頃に起こっている。


 たかが数匹の小型GEライトタイプの出現に驚いたドライバーが高速道路で急ブレーキを踏んだ為に、そこから凄まじい規模の玉突き事故が発生して多くの怪我人をだした。


 最悪な事に救助の最中に今度は中型GEミドルタイプまで出現し、出動していた警察や消防の人間が救助活動を中止をせざるを得ない状況に陥る。


 救助が間に合わずに放置された怪我人の多くはそのままGEに襲われて石へと変わったんだけど、中には出血などが理由で命を落とした人もいたって話だ。


 その後、再整備及び主要道路奪還作戦が実施されるまで各地の高速道路や自動車道などは一般人の通行が禁止されていたんだけど、最近になってようやく少しだけ緩和されつつある。


「長距離トラックの運ちゃんはふたり一組が基本。最低でもどちらか一人はAGE資格を所有して一年以上活動している事だったか?」


「AGEを雇ってる運送業者も多いみたいやな。ある程度実績を残してるAGEがいた場合はたっかい高速道路の通行料が割引になるって話やな」


「セミランカーで半額、ランカーだと脅威の全区画千円だったか? 千円以下の距離は無料らしい」


 という訳で俺たちの通行料は一台千円って訳だ。


 電気自動車なんでガソリン代もかからないし、今回のキャンプの予算はかなり安上がりなんだよな。


 コテージの代金や食材費もあるけど、この人数で旅行に行く事を考えたら格安だ。


「もう少しで最初のサービスエリアだけど、どうする?」


「先も長いですし、一旦トイレ休憩とかしませんか?」


「次のサービスエリアまでは長いからな……」


 当然、高速道路の周辺が危険な場所であればある程サービスエリアは無人と化し、稼働していても設備の一部が壊れていたりもする。


 トイレの清掃なんかも行き届いていないし、トイレットペーパーだけじゃなくて便座洗浄用の小物なども用意していないと使用を躊躇するような状態の場合もあるとか。


 そういった危険な場所が続くエリアでは次のサービスエリアまでの間隔は開き、駐車場すら満足に使用できない状況な事もある。


 また、こういったサービスエリアに危険度の高い居住区域から逃げてきた者が住み着いて問題になる事も多い。


 旅行やライブなんかに参加する為に居住間を移動する事はともかく、移住してその居住区域に永住となると滅多な事では許可が下りないからだ。


 定期的に高速道路守備隊が巡回を行っている為にリングの反応でそういった者は発見される事が多いけど、中には大量の物資を持ち込んで何ヶ月も巡回をやり過ごす猛者もさがいたりもする。


 ただし、高速道路内では特定の場所以外では追加の食糧や水の調達が困難な為に、其処を見張られるとそういった猛者もさでも物資が底を尽いた数日後に自ら投降してくるという話だな。


「次のサービスエリアを利用するぞ。蒼雲そううんにそう伝えてくれ」


「了解や。蒼雲そううんはん、次とまりまっせ」


「バスみたいだね」


「定額の循環バスは私たちの味方だよね~」


 田舎の居住区域は無駄に広い事もあり、車の普及率や買い物弱者対策としてどこでも二百円の定額循環バスを用意される事が多い。


 広島第二居住区域にも無数の循環バスが走っており、学生は通学に使用していたりもする。


「ここのサービスエリアはトイレの状態は問題ないだろうけど、それ以外は期待できないんだよな……」


「この時間やし、どっちにしても店は開いとらんのとちゃいます?」


 サービスエリアは多くの人が同時に利用できるように、たくさんのトイレと飲料系の自動販売機だけが設置されている事が多い。


 平和だった時代には売店のほかに小さな食堂もあり、行楽に向かうたくさんの家族でにぎわっていたという話だな。


 現在は安全な場所にあるサービスエリアには食堂や雑貨の販売が充実しているけど、危険な場所に近いと店すらない事も多い。


 問題はそれだけじゃないけどさ。


「えっと、何かジュースでも……。ってたかっ!!」


「当然特別価格だ。それでもで一本五百円はぼり過ぎだよな……」


 バンタイプの乗っていた霧養と神坂が目の前の自動販売機で売られているジュースの種類と価格に呆れていた。


 以前霧養が受け取った【夢のコラボレーション小豆あずきと抹茶練乳】や、【強炭酸で爽快超健康青汁】、【超健康志向タンポポ珈琲】などを筆頭にコンビニなどで撤去された地雷商品がずらりと並んでいる。


 一旦高速道路に入れば他に購入手段が無いとはいえ、百円でも買いたくない商品を五百円で売るという暴挙。


 しかも、ミネラルウオーターやお茶などのまともな商品には売り切れのランプが点灯していた。とうか、きっちり補充しろよ!! 


 この光景は人通りの少ないサービスエリアなどではどこでもありがちな光景だそうだけど、立ち寄ったドライバーたちは諦めてこの危険物に手を出すか次のサービスエリアまで我慢するかの選択を迫られるらしい。


 事前に自前で飲み物を用意している事も多いらしいが、うっかり忘れたりすると大変だ。


「これはそこそこ飲めたっスけど、ここは諦めて次で買うっス」


「それがいいだろうな。利用客が多い所は比較的マトモって聞くし」


「というか、これ飲めたのか?」


「我慢すればっスよ」


 例の過剰コラボドリンクはギリ飲めるレベルらしい。


 とっくの昔にコンビニの棚からは撤去されているけどな。


 自動販売機の周りには蓋があいたジュースの缶が無造作に捨てられており、其処から色とりどりの液体を垂れ流していた。


 売られているジュースの正体を知らないという事は幸せかもしれないが、それは不幸の始まりにしか過ぎなかったようだな。


「これに気がついたら買わないだろう」


「気が付けばいいんだが……」


 残念ながらこれを片付ける訳にはいかないな。


 勇敢な先人の犠牲が無駄になる。


「次のサービスエリアは中間地点にある安全な場所でんな」


「そうだな、結構楽しみだったりするぞ」


「え、なになに? 何かあるの?」


「ジャンクフードを楽しむんだったら最高の場所の一つさ」


 サービスエリアの中でも居住区域に近く物資の搬送ルートが可能で安全な場所も存在する。


 なかでも物資の運搬を引き受ける長距離トラックや遠征に向かうAGE部隊が仮眠などの休憩所として使うところは様々な物が充実していた。


 そういったサ-ビスエリアには平和だった頃を思い出させるような数のお土産物まで扱う売店にヤキトリやソフトクリームなど軽食を売る出店も活動しているし、トイレは整備が行き届いていつも清潔で駐車場にもゴミがほとんど落ちていない、


 それだけでは無く利用者が多いという事は其処で情報のやり取りも行われている為に地雷商品の情報はすぐに知れ渡り、自動販売機ではいつまでも売れない様な地雷商品は撤去されている。


 人が集中する絶好の場所に売れない商品をいつもでも置いておくくらいなら、確実に売れる商品を回した方がいいからだ。

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