第六十二話 出発前の一波乱
七月二十四日、午前五時。
一足先に来て車のエンジンをかけて冷房で車内を快適な温度にした後で次世代型M4A1の確認をする俺。
冷蔵庫から運び出した追加の食材や菓子類などの積み込みを確認する窪内。
現地について忘れて来ましたじゃ面白くないので、積み込んだ装備や荷物の最終確認を熱心にする
別にやることが無いので瞳を輝かせて既にマイクロバスに乗り込んでいる
後はいつも時間に余裕を持って行動しているから既に来ていてもおかしくない
「直前になって親父さんに何か言われたんかもしれまへんな」
「それならメールなりなんなりで連絡を入れるだろう」
「宮桜姫の父親辺りが、
「宮桜姫を助け出した件でずいぶんと信用されてるからな。何度も家に遊びに来ないか誘われたよ。それをすると方々に迷惑がかかるから断ったけど」
同様の申し出は本当に毎日の様にメールで送られてきているらしい。
もし仮にどれか一つでも誘いを受ければ他の話も簡単には断る訳にはいかず、抽選するにせよ何にせよ最低でも週に一件程度はどこかにお礼を言われに行かなきゃいけないだろう。めんどくさいにもほどがある。
そういった手紙を俺に渡そうとして学校周辺で待機している人もいるそうで、全力でSPが追い返しているって話も聞くしな。
「事故にでもあったんやろか?」
「学校前までは車で送って貰うって話だし、あまり考えにくいんだけどな」
「あ、高そうな車が来るっスよ」
「アレで間違いないだろう。……乗ってる人の数が多い気がするけど、護衛か何かか?」
俺や窪内達の心配をよそに、大きな荷物を抱えた
昨日積み込んだ荷物のほかにまだそんなにあるのか?
「ごめんなさい……、遅れました。それと……」
「凰樹さん、おひさしぶりですっ!! 今日はお姉ちゃんに無理を言って付いてきちゃいました♪」
なるほど、宮桜姫の抱える荷物も妹の
何度見ても姉の
「これ、うちの部隊のキャンプやし、いくら妹ちゃんでも部外者は……」
「ほら、だから言ったじゃない。知らない人ばかりとキャンプに行っても断られるだろうし、楽しくないわよって」
「俺は構わないが、最終的には
「別にコテージは人数じゃ無く二軒で頼んでるから、ひとり増えても構わないが……」
「そうっスね」
おい霧養、どこに視線を向けて答えた?
鈴音は竹中よりさらに小柄だし、そして悲しい事に霧養や神坂が一番目を引きそうなところが非常になだらかだ。
中学三年って事だけど、たぶん小学生って言っても疑われないだろう。
「わたくしはその子がひとりくらい増えても構いませんわ」
「いいじゃない。知らない子って訳じゃないしひとりくらいいいでしょ?」
「そうですね~。
「お姉ちゃんたち、ありがとう」
「一緒に楽しみましょうね~♪」
いつの間にか参加が決まったみたいだな。
俺の判断とか言っていたが、この状況でやっぱりダメとは言えないだろう?
鈴音の面倒は宮桜姫に任せればいいだろうし、あまり無茶な事はしないだろ。
しかし、妙にアグレッシブな所は流石に姉妹だな。
「全員乗ったな、それじゃあ出発するぞ」
「それじゃ~」
「しゅっぱ~つ!!」
窪内が音頭を取っていたが、打ち合わせをしていた訳じゃないのに息ピッタリだな。
結局バンタイプには運転手の神坂と助手席に索敵要員兼通信士の伊藤が乗り、そして後部座席に一人で寂しそうにスナック菓子『辛子レンコンチップス(激辛)』を摘まんでいる霧養の三名という状況になった。
マイクロバスには運転手の俺と助手席にナビゲーター兼通信使の窪内、そして広い車内でトランプを持ち出して遊んでいる宮桜姫姉妹。それに付き合う楠木、
キャンプ場に行く為に俺達はまずこの居住区域から出る為の自動車道へと向かった。
◇◇◇
居住区域のバイパスを通りコテージを予約してある海水浴場方面の自動車道へ向かっている、
まだ早朝という事もあったが、居住区域の道路を走る車の数が少なかったのはこの日が日曜だったからに他ならない。
平和だった時代から比べると車を所有する人の数は確かに減ってはいるけど、それでも居住区域に住む多くの人が車を所持しているし、それを使って通勤や買い物などに出かけたりもしている。
電気自動車への切り替えが終わっているのでガソリンスタンドの代わりに充電設備が至る所に用意されたし、電子マネーを使えばいつでもどこでも高速で充電する事が可能になった。
「何とか市内を良いペースで抜ける事が出来たな。今日は日曜のこんな時間なんで車通りも少なかったが」
「危険区域と違って道路は綺麗だし、周りに他の車が走ってるってのも新鮮ですね」
「いつもは作戦の確認とか装備の最終チェックとかで、窓の外を見てる余裕なんて無いから……」
今までも破壊する
しかし今回の様にお遊びでは無く目的地で待っているのはGEとの戦闘を伴う危険な作戦だった為に、呑気に窓の外を見ている余裕などほとんどなかった。
今日はキャンプに向かう道中という事もあり、お菓子やジュースを手にして話をしながらも普段はあまり目にしない周りの風景を楽しんでいた。
「ショッピングモールの反対側って来た事無かったけど、こんな感じだったんですね」
「あの店は大型のホームセンターかな? あの食堂っぽいのはラーメン屋さん?」
「あのラーメン屋は元々存在した店に居抜きで出店したみたいでんな。チャーシューが美味いって噂ですわ」
あっちこちで再開発が行われているから居住区域の状況次第で街の風景なんてころころ変わる。
最悪の場合はGEに攻め滅ぼされて街の一部を奪われる状況なんだが、この居住区域の周りは綺麗に隣接する
危険区域と居住区域を完全に分けるGEが侵入できない奪還地区の帯が完成しており、全国でも珍しいこの状態の居住区域は完全安全区域とも呼ばれている。
現在この完全安全区域として存在する場所は、首都東京にある幾つかの居住区域と俺たちのいる広島第二居住区域だけだって話だ。
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