第五十七話 ショップモールでのひと時【楠木夕菜視点】


 七月二十一日、午前十時三十分。


 居住区域再開発地区のショッピングモールに私たちは来ていた。


 目的はモール内で女性物のブティックや小物を扱った店などが立ち並ぶファッション地区と呼ばれる一角。それとそこにあるおしゃれなカフェかな。


 二週間くらい前にこのモールに四女神ヴィーナスが食レポに訪れた事があって、その時利用した店には四女神ヴィーナス絶賛とか書かれた看板が出されている。


 ん~、三女神ヴィーナスの部分に線を引いて四女神ヴィーナスって書いていかなったら、もっとよかったのにね。


「久しぶりに来たけど、こんなに人がいるんだね」


「先月位から凄いって話ですね~。景気のいい事があったみたいですよ~」


希少魔滅晶レアカオスクリスタルの売却益ですわね。あきらさんは部隊の装備が良くなればいいとか思ってらした筈なのに」


「今まで抑えられていた反動で高価なアクセサリーとか買い漁ってるって事?」


「少し離れたグルメストリートにはステーキハウスが出来たそうですね~。お昼時は長蛇の列って聞いていますよ~」


 放置された希少魔滅晶レアカオスクリスタルを納品すれば最低でも五十万ポイントに化けるからね。


 それに普通の魔滅晶カオスクリスタルだって数を集めれば結構するし、お小遣い稼ぎとしてはちょっとやりすぎなんじゃないかな?


「ん~、やっぱり全部回収した方がよかったのかな?」


「無理ですわね。集めれば結構な額になりますが、時間の無駄ですわ」


「でも……」


「景気が良くなるのは良い事ですよ。凰樹おうきくんはそのあたりの事をすっごく理解してくれています」


 そりゃあきらはその位考えるだろうけどね。


 石化から復帰した人が仕事を始めるんだったら不景気な状況より景気がいい方がいいにきまってる。


 これだけみんなが買い物をすれば、この商品を生産する工場などのや販売する店舗でも従業員の募集があるに決まってるから。


 たまに不愛想な時もあるけど、結構みんなの事を真剣に考えてくれてるんだよね。


「そりゃそうだろうけど。……あれ? そこにいるの生徒会副会長の喜多川きたがわさん?」


「何処ですの?」


「そこのカフェですね~。うちはバイトは禁止されていませんし~」


「成績上位者か理由がある者限定だけどね。AGE活動をした方が儲かるって人もいるし、アルバイト感覚で活動してる人もいるよね?」


「いますわね。もうすこし真剣に取り組んで欲しいものですわ」


 下手をすると石像に変わっちゃう物騒なアルバイトだけど、この前みたいな事があるとものすっごく儲かるしね。


 ああやって喜多川きたがわさんみたいに真面目にアルバイトをしてる人もいるのにさ。


「あのカフェも凄く人気みたいですね~」


「多少高くてもおいしかったらみんな行っちゃうみたいだね。やっぱりみんなお金持ちだよ」


「数ヶ月前には考えられなかった光景ですわ」


 その頃はここも割とガラガラだったって聞いてる。


 地下街の方は昔っから怪しいお店でいっぱいなんだけどね。


「そろそろ目的の店に行きませんか?」


「総合ファッションショップカレイドだっけ? 地下街じゃないよね?」


「あんな怪しい場所にある店になんていきませんわ」


 中にはまともな店もあるらしけどね。


 犯罪ギリギリっていうか、たまに警察沙汰になってる店も結構あるけどさ。


 あきらの知り合いの店もあるし。


「あそこですね~」


「流石に大きいですね」


「周りの二店舗分は軽くあるかな? あ、水着のセールしてるみたいだよ!!」


「この居住区域にはプール施設がいくつかありますし、一部の学校でも夏休み期間中だけ解放してるって話ですね」


「それって、怪しい人が来たりしないの?」


「入口で弾かれるそうですよ」


 うちの学校は解放してないし、付属の方も開放してなかったはず。


 プール施設の使用料は高いけど、あそこは遊技施設も中にあるから一日儒遊べるんだよね。


「そんなことより水着だよっ♪ でっ、あっきらを~の・う・さ・つ♪」


「その紐でどこを隠すつもりですの? あなた、わたくしと同じ位ありますわよね?」


「さりげなくを主張するのやめようよ。ね?」


宮桜姫みやざきさんのサイズが好きな人も~、きっといますよ~」


「喧嘩を売ってるのかな? こう見えても結構あるんですよ」


 聖華せいかは無自覚にあんなことを言って来るんだよね。悪意じゃなくて善意百パーセントで。


 ……宮桜姫みやざきさんの主張については、流石に無理があるんじゃないかな?


 ゆかり荒城あらきさんにはとてもじゃないけど及ばないし、もしかしなくても私たちの中で一番小さめだよね?

 

 聖華せいかは私より少し大きいけど、お腹まわりも少しふくよかだから……。


 アレは多分、たっくさんお菓子を試食するからだ。


「とりあえずひと回りしてみますわ。向こうにいい水着が並んでいるみたいですの」


「あっちはセール対象外だって。値段も……、びっくりだよ」


「あちらの水着は最先端の素材で作られておりまして、海や川で不意にGEと遭遇した時を想定してAGE装備の素材を使用してあるんですよ」


 いきなりどこかから現れた店員さんが、とても面白い事を教えてくれた。


 あんなカラフルなAGE装備の素材なんてどこにあるの?


 私たちがいつも使ってる装備はあんなに地味なのに。


「この手触り……、生地に特殊繊維を織り込んであるんですわね」


「強度を落とさないギリギリを見極めて織り込んであるんですよ。その分お値段も上がってしまうんですが」


「十四万円? あのセパレートの水着上下にパレオが付いただけで?」


 どこにその値段が付くんだろう?


 手触りは……、確かにセール品よりもいいかな?


「このデザインですと、合わせる小物も大変ですわ」


「こちらには同じような製法で作られたビーチサンダルや大型タオルが揃っています」


「……この辺りのデザインで、サイズがありますの?」


「はい。すぐにご用意いたしますね」


 流石荒城あらきさん。あの値段でも躊躇する事なく買いにいったよ。


 この店はポイントが使えるし私も余裕で買えるんだけど、なんとなく今までの感覚が邪魔するんだよね~。これが長年染み付いた庶民感覚?


「私はこの辺りでいいかな? かわいいデザインだし」


「わたしは……」


「紐以外でね」


 何とかゆかりが紐水着を買うのは阻止できた。


 ホント、おとうさんをたすけて貰ってからのアピールが凄いんだから。


 本気じゃないのかなと思った事もあるけど、ちょっとした拍子であきらの手が胸に当たった時に迷わず押し付けてたから間違いなく本気なんだわ。


 約束をダシにからかってるだけだったら、あの状況だと恥ずかしがって払いのけるはず……。


「とりあえず水着関係はここで揃えて、他に必要な小物を買いに行かない?」


「日焼け止めやサングラスはここに売ってますわよ。信頼できるメーカー製ですわ」


「そうだね。夏場の活動用に買った分を持っていってもいいんだけど……」


 AGE装備は肌の露出が少ないけど、首筋とか所々日焼け止めを塗っておかないと酷い事になる。


 冬場は防寒具に悩まされるし、一年中活動をしてると必要な物が増えるんだよね。


「こことここのメーカー以外でしたら買い換えた方がいいですの」


「どうして?」


「油断すると、そのうち染みになりますわよ」


 荒城あらきさんは美人だし、やっぱりそういう所も気にしてるんだ。


 髪もすっごい綺麗だしね……。


 日焼け止め、買い替えるかな……。

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