第五十五話 祝福のライブ
七月十七日の日曜日。午後六時十一分。
俺達ランカーズによる
先日追加で足りないチケットが届けられたので、ランカーズ全員でライブイベントに参加している。
ドルオタの神坂じゃないからライブの決まりなんて知らないぞと思っていたら、俺たちに用意されていたのは事務所のお偉いさん方や関係者限定のチケットだったみたいだな。
この場所ではおかしな真似なんてできないし、神坂も大人しくライブを楽しむ事だろう。
「ライブってのはいつもこんな感じなのか?」
「流石にこんな状況はあまりないぞ。一番端のあの人は事務所の社長だし、その隣にいるのは【チャイルド・フェアリーズ】の
浅犬の手で石に変えられてた子が揃って並んでいるのか?
神坂が知らないとなると、デビュー前の子たちだったんだろうか?
今回のライブは先日救出された人が対象じゃなくて純粋な抽選って聞いている。わずか数日前に助けた人を対象になんてできないだろうしな。
俺達はあの日から対GE民間防衛組織が手配した隣のホテルの最上階にまた軟禁されているんだが、ライブイベントに参加したいと言ったら特殊メイクまで寄越して完全に別人に変装させられた。
報道陣と取材の申し込みの数が凄まじいらしいく、俺たちがここに居ると知られれば大騒ぎになるからって事だ。
「何とかホテルから出して貰えてよかったですね」
「おかげで隣にあるこの公民館まで厳重な警戒で連れてこられたし、帰りも護衛付きだって言ってたぞ」
「あちこちにSPが隠れているし、仕方がないんじゃないかな?」
「全員こうして変装しているが、これがないと大変だからな」
変装しているのに護衛なんて付けたらかえって目立つと思うんだが、俺は高級スーツにカツラまで付けられているので外国人の金持ちあたりに見られているかもしれない。
流石に全員一緒に移動したら数でバレるので、数人ずつ何度かに分けて公民館に移動したんだよな。
「流石にお前だと気付かれてないな」
「みんなステージに視線を向けてるから大丈夫だろ。誰が来てるかなんて気にする奴なんているのか?」
「普通はないけどよ。有名人が来てたりすると嬉しいじゃないか」
今となってはお前もその有名人だろうが。
まだ集計が終わっていないが、それが終われば神坂も確実にトップランカー入りだろうしな。
時間になったらすぐにライブが始まって、時間通りにキッチリ終わるのかと思ったらそうじゃないらしい。
どんなアイドルのライブかで違うそうなんだが、歌だけじゃなくて席番号によるグッズ抽選会とかトークをする時間とか色々あるそうだ。
関係者専用の特別席にいる連中は普通の格好だけど、向こうの観客席にはおそろいのTシャツを着て団扇を持った連中が息ピッタリの動きを披露していた。
開始前なのにアレに意味はあるのか?
「お、そろそろ登場するみたいだぞ」
「スモークが焚かれて……、一人多くないか?」
「確かに四人いますわね」
ステージの上には月の女神
「どういうことだ?」
「観客席も騒然としてるな。サプライズって訳じゃなさそうだし」
本物の
とうよりも、石化していたことすら知らない筈だ。
双子だったという情報も二年前の一件以来伏せられていたみたいだし、熱心な一部のファンしか知らないだろう。
「ファンの皆様にはお詫びしなければなりません。私、
「私、
「私達はそれを知りながら
なるほど。これまでの経緯を正直に話す事にしたのか。
俺達と同じ席に座っている少女たちの多くも瞳に涙を浮かべ、ステージ上で頭を下げる四人を見つめていた。
長く、そして短い時間の後で四人は頭をあげてマイクを構えた。
「プロデューサーと相談した結果、私達は」
「星の女神
「よんめがみで
いい笑顔だ、あの顔で言われれば受け入れるしかないだろうな。
「うぉぉぉぉぉっっ!!」
「四女神で~
「アカリッ!! ヒッカリッ!!」
会場が割れんばかりの歓声に包まれた。
はじめは何が起きたか分からなかったフアン達は本物の
「本当は本物の
「私たちの本当の始まり、聞いてくださいね」
ステージの周りある巨大なスピーカーからステージ上で演奏される曲が流れて、
「
小さな勇気を育み、勇敢な戦士として、闇に立ち向かうキミ。
今、大地の女神が勇気慈しみ、大地駆ける力成す祝福を君に、共に進む仲間と、絶望生み出す悪しき存在に立ち向かう。
闇が空を蔽い、悲しみが大地に満ち、無情な壁が未来を閉ざす。
心に光を燈し、闇払う勇者として、壁を打ち壊すキミ。
今、月の女神が背中を押して、壁打ち壊す力成す祝福を君に、共に戦う仲間と、悲しみ生み出す悪しき存在に立ち向かう。
故郷を失い、荒野を彷徨い、未来への道標すら見失う。
人々を導き、道を示す開拓者として、未来を切り開くキミ。
今、星の女神が道を照らし、希望の未来創る祝福を君に、共に築く仲間と、未来奪う悪しき存在に立ち向かう。
今、三女神の、祝福を、キミに~♪
大地と、月と、星の、女神が、いつも、ともに、そばに、いるから~」
神坂に何度も聞かされた曲だが、確かに生で聞くと全然別物なんだな。
今回は四人だし、石化が解けたあの日から短い時間で一生懸命に練習してたんだろうな。
「ありがとうございました」
「私達のライブ」
「「最後まで楽しんでください」」
流石に双子だけあって息がぴったりだな。
とはいえ、石化期間の二年があるから妹のヒカリの方が本当に二歳程年下の妹になったって事か。
逆だった場合はまた面倒な事になっただろうが、全部がいい感じに収まって本当によかった。
最後に一瞬、
◇◇◇
七月十七日の日曜日、午後九時四十一分。
俺達ランカーズのメンバーは今回も公民館の隣のホテルで半軟禁状態となっていた。毎回は報道陣対策という目的の外に、今回はGE共存派から俺達を守るという目的もある。
浅犬から入手した情報で戦闘区域内に潜伏していた他のGE共存派の残党はことごとく捕えられ、そいつらから入手した情報でこの居住区域からはGE共存派が一掃されたって話だ。
だからもうGE共存派の脅威は無いんだが、一応念の為にもう数日ここに泊って行けという話だな。
七月十八日は祝日だし、もう期末テストも終わったので学校に顔を出してもテストの結果を確認することしかない。
晩飯も済ませた俺は持ち込んだ端末で送られてきた大量のメールに目を通し、明日からの予定などをを確認していた。
「ん?
あいつも一緒にホテルに戻ってきてたよな?
確かに部屋から出るのも禁止されてるし、何か用があればこうしてメールするか通話をするしかないんだが。
何気なくメールを開いた俺は、送付されていた画像を見て軽く頬を引き攣らせた。
そこには
神坂の顔が赤いのは
酒に強いあいつが酔うほど飲むなんて珍しいな。というか、あいつホテルに戻らずに打ち上げに参加なんてしてるのか?
「いや、ホテルには戻ってきてるみたいだな。打ち上げ会場は……、この階にあるあいつの部屋か!!」
まともに考えれば隣の公民館でライブをしてたんだから、
流石に俺の部屋の前には何人もSPがフル武装で警備にあたっているが、神坂の部屋なんかは割と警備が緩い。
俺の次に警備が厳重なのは不動産王の爺さんを持つ
「まったく、飲酒に関しては違法じゃないが程々にしろよ……」
待てよ、飲酒制限の年齢が引き下げられているから姉のアカリの方は問題ないが、二年間石に変わってた妹のヒカリに関しては年齢ギリギリじゃないのか?
送られてきた映像を拡大してみたら、アルコール類を飲んでいるのは神坂と
二人は飲酒できる年齢だし問題はない。
「
メールに関してもこっちの個人用端末はともかく、他のアドレスは対GE民間防衛組織のフィルターでほとんど弾かれるしな。
ランカーズのメンバーや
聞いた話だと弾かれているメールの数は毎日数万件を軽く超えるそうだ。
お礼のメールもあるんだろうけど、それを全部俺が確認する訳にはいかないしな。
「あとは
新型試作型次世代特殊小太刀と試作型次世代トイガン。
この装備無くしては今回の
特にGEを引き付けてくれていた神坂たちの部隊の負担が著しく増加して、下手をしたらあそこから作戦が失敗していた可能性すらある。
もう一つの切り札であった超小型の対GE用結界発生器はその日のうちに
「
今回に関しては試作型次世代トイガンを全部送る訳じゃなくて、それぞれ
いざって時用に窪内は幾つか予備の装備も整備してくれているし、夏休み期間中の部活にはそれを使えばいだろう。
「後はテストの結果発表か。流石に赤点を取った奴はいないだろうな?」
一番心配なのは竹中だけど、理由があるから今回は仕方がない。
かなり元気になったし、今はまじめに授業も受けてるみたいだから次回からは大丈夫だろう。
もうすぐ夏休み。
せっかくだしキャンプや海水浴なんてのもいいかもしれないな。
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