第四十四話 アイドルからの依頼
七月八日の放課後、試験勉強をする筈の
一応規則なんで部活は最低限で行っているし、試験勉強が必要な奴らには期間中の参加を強要していない。
……ん? 小型タブレットに連絡? この時期に依頼なんて寄こすか? この辺りの学校が試験期間なのは知っているだろうに。
「
「ご指名かよ。GE対策部宛で来てるのか?」
「こっちの小型タブレットは俺の個人用だ。俺宛に来てるって事だが」
「
楠木や神坂も俺の手元を覗き込みそうな勢いだ。
「少し前にGEから助けた事があってな。その後から何度かメールを……」
あ、
俺は基本的にあいつともメールのやり取りなんてしていないからな。
別にメールで教え合う事なんてないだろ?
「羨ましい奴だ」
「プライバシーの侵害なんでメールの内容は見せられないが、ほぼ業務連絡だぞ」
「その業務連絡も忙しいアイドル活動中に暇を作って送ってきたものだろ? 個人的な依頼なんて、相当に信頼されてないと来ない」
「その点は俺も気になった。GE共存派辺りの偽装メールの可能性もあるからな」
「その可能性もあるのか。有名人は大変だ」
元々彼女が窮地に陥ったのがあいつらの策略だろうしな。
だから俺と
「それで、依頼は本物だったの?」
「それは今から確認だな。石像の回収依頼を受けるにしても、最低でも試験明けだろ?」
「流石に今日明日の依頼じゃないよな? 石像の回収がそこまで急ぎって事は無いだろうし」
「問題は回収する石像との関係だな。依頼を受ける事が出来るのは、
一時期美人や美男子の石像を鑑賞目的で回収する奴らがいたんだよ。
運よく石像が元に戻れた時には大騒ぎになるし、十年経過していない石像を回収した時点で誘拐が成立するから今では法律で禁止されてる。
十年経過した石像を集めてる奴もいるが、そっちは法律では禁止されていないけどあまりいい評判にはつながらないって話だ。
大切な人の石像が壊れないように保管しているって建前があるにしてもな。
「依頼の内容を詳しく説明してもらいたいんですが、場所によっては流石に受けられない可能性もあります」
「KKI〇〇五の集会所にある石像……、それの回収をお願いします」
すぐにメールが返ってきた。
KKI〇〇五は俺が進めるレベル一
あそこには結構な数のGEが存在するが、そのほとんどが
KKI〇〇五を放置して周りにある他の
そこにある石像の回収か……。
「集会所にある石像……。あそこに続く道は狭いから大型車での回収は難しいな」
「申し訳ありませんが、お願いします。後、石像は回収後にこちらで引き取りたいんですが……」
「身内か余程に親しい知り合いの石像でなければ、国が指定する専門の保管場所に届ける義務があります。石化後十年経ってなければ石像の扱いは人に準ずるから誘拐等の罪に問われる事もありますので」
石像の回収依頼をするくらいだからそうだろうけど、彼女の家族は確かこの居住区域で暮らしていたよな?
家族以外だと子供の頃に仲のよかった誰かってのが一番考えられるけど、親戚とかかな?
「メールでは詳しくは話せませんが……、身内なんです。よろしくお願いします」
「了解しました。石像の引き渡し場所はどうしますか?」
「……この居住区域にある公民館でお願いします。来週の日曜日にライブがあるんですが、その日まではそこでレッスンや打ち合わせをしていますので。あの、ライブの日までに回収は可能でしょいうか?」
「来週の日曜か……、隊員に聞いた後でメールします」
「わかりました、よろしくお願いします」
小型タブレットのメール機能には色々入っているから、外部からの偽装だったら直ぐにバレる。
本人の動画も同封されてたし、本人で間違い菜だろうな。
左手首のリングが怪しいのは相変わらずだが。
「で、どうだった?」
「本人で間違いないようだ。KKI〇〇五にあそこの団地で使っていた集会所があっただろ? そこにある石像の回収だそうだ」
「期限はいつまでだ? 彼女はいつまでもここに居る訳じゃないだろ?」
「来週の日曜日のライブの日までが期限だな。その後はまた首都辺りで活動するんだろうし」
「彼女クラスのアイドルが半月近くこの辺りで活動しているのがおかしい話だぞ」
俺たちの活躍のお陰というか、この居住区域が世界中に注目されているからな。
今まで一部の国の軍でしか破壊できなかった
つかった装備や作戦内容、作戦時間などを事細かく調べ上げて自国で再現可能かどうか判断しているらしい。
正直に言えば、もう数段階装備が進化しない限り同じマネは無理だと思うぞ。
「それで、どうしまっか?」
「この画面を見てくれ。KKI〇〇五の
二十―メートル四方くらいある高台の端に
バイクで一気に駆け上るにしても急すぎる高台だし、問題の高台が狭いからどこから登っても無数にいるGEのど真ん中に攻め込む形になる。
「この高台を攻めるのは無理じゃないか?」
「ハンバーガーヒルよりひどい戦いになりそうだ。俺でも流石に手出ししなかったくらいだからな」
まともに考えれば高台を登る途中でGEに襲われて終わりだろう。
この
「……ここから攻めるってのは無しっスか?」
「何処だ?」
「この道路からっス。此処から狙撃すれば
「いい考えだと思うが、高低差がありすぎるな。高台がもう少し低けりゃマイクロバスの屋根から狙えるんだが」
流石にマイクロバスの屋根から狙うにしても
同じ位の高さに合わせられればそりゃ可能だろうが。
「俺、小さい頃に重機の操作を覚えた事があるんっスよ」
「放置車両を使って覚える奴もいるし、農家だと私有地内で使って覚える奴もいるって話だな」
「子供向けアニメ番組の中だと、重機が合体してGEを倒してたりするからな。それにあこがれてマネする子供もいたって話だ」
「昔は注意されたもんやな」
重機の免許か。
そういえば
もしかして重機の免許もとってきたのか?
「電線とかの工事に使う籠付きの重機があるじゃないっスか。アレを使えばよくないっスか?」
「いいアイデアだ。上手くいけば攻略不可能だと思っていたKKI〇〇五の
「すごいじゃないか。良く思いついたな」
「たまたまこの前免許を取ってきたからっス」
「で、その車両は何処から手配する?」
「俺が対GE民間防衛組織事務局に掛け合って用意しよう。運転は
「任されたッス」
後の問題はいつ実行するかだが。
あまり時間的な余裕はないし、テスト明けの週間天気予報を見る限り一番いいのは七月十四日の木曜日か。
「みんなの都合が良ければ来週の木曜日に作戦を決行したいと思うんだが、どうだろか?」
「問題ありませんわ。明後日でもいい位ですの」
「重機を借りたりしないといけないから平日の方がいいだろう。そうなると最短で木曜なんだ」
「明日は土曜日だしな。試験期間を考えるとそうなるのか」
「私はそこまで気にしないけどね。どうやってもそこそこの点数になりそうだし」
「わたしはまずいの。
竹中は親父さんの件が何とかなるまで精神状態がヤバかったからな。
それまでは授業を真面目に聞く事ができる筈はないし、彼女だけはランカー特典で試験を免除して貰ったらどうかって持ち掛けたんだが。一応試験はまじめに受けるらしい。
教師も竹中の事情は知っているので、今回に限っては赤点を取った場合でも追試なしで見逃してくれるそうだ。ランカー特典も使えるけどね。
「それじゃあ、
「
「むしろ便宜を図ってくれそうだ。あの
KKI〇〇五の
孤立した
俺がやがてその
いや、あの人だったら幾つか
「小遣い稼ぎっちゅうには、でかい儲けやな」
「あの人だったら稼いだ金を有用に使ってくれるさ。この居住区域の食糧事情がいいのはあの人のお陰だし」
「そんな事より、メールは良いのか?」
「もう送ったぞ。よろしくお願いしますだってよ」
今回の石像回収で色々謎が解けそうな気がするな。
俺はどうしても
GE共存派の中には整形して本人とすり替わる奴もいるって話だし、彼女がすり替わられた誰かって可能性もゼロじゃない。
偽物だったら警察に突き出すだけの話だ。本物の
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