第四十五話 期末試験テスト終了


 今日は七月十三日の水曜日。試験日は基本的に午前中だけで、午後は試験勉強の為に休校となっていたので試験最終日のこの日も午後の授業は無い。


 七月十一日の月曜日から三日間の日程で行われた試験が無事に終了して、霧養むかい竹中たけなか神坂かみざかの三人を筆頭に、一部の生徒が先日の環状石ゲート攻略作戦の時よりも長く苦しいと思われた戦いの終わりに喜んでいた。


 環状石ゲート破壊作戦後の休校中に遊び歩いていた生徒達の多くは試験終了のチャイムが鳴った直後には完全に真っ白い灰になってるのかと思う位に燃え尽き、試験官役の教師が答案用紙を回収した事にすら気が付かなかったようだ。


「終わった……、これで自由だ……」


「これで……、夏休みを待つだけっス」


「あきら……、わたし……頑張ったよ……」


 真面目に試験を受けた事は評価するが、あの内容のテストでそこまで消耗するのはどうよ?


 窪内なんかは鼻歌交じりだったし、佳津美かつみなんかもつまらなそうな顔で試験を受けていたみたいだが。


「あの程度の内容の試験をする意味があるんですの?」


「テストってのは生徒がどのくらい覚えているかの確認の他に、教師がちゃんと教えられているかって確認の意味もある。だからわかりやすい授業をしている教師のテストの平均点は高いし、逆もまたしかりだ」


「わざと簡単な問題を作るのも問題みたいだね。一応教師間でもテスト問題の採点をするらしいよ」


「まじめに問題をつくらないと、ボーナスの査定に響くんだそうだ。世知辛いよな」


 永遠見台高校とわみだいこうこうの教師の給料は良い方だって話だけど、仕事の量も割と多いからな。


 とはいえ、その仕事の多くは質の高い授業の準備や資料作成に費やされている。


 この居住区域に限らず学校で教師による部活動の顧問はほとんどないし、部活動の指導者は外部から雇っているからそうなるんだけど……。


「クラスから五人もランカーを出した山形先生の評価が凄いらしい。来年あたりに首都の高校に引き抜かれるんじゃないかって話だぞ」


「地方公務員が県を跨いで移動できるのか?」


「超が付く位に評価が高い教師に限って特例措置があるそうだ。給料は大体数倍、待遇は最高って話だぞ」


「この学校の評価もな。隣にある付属から来る生徒は良いが、外部からの受験希望者の倍率は既に十倍を超えてるとか」


 ランカーを六人も出せばそうなるよな。


 ただ、GE対策部に関しては入部テストが厳し過ぎて、宮桜姫みやざきくらいしか追加での合格者がいないのも確かだ。


 試験を受けに来る奴は月に何人もいるが、基礎体力の時点で落ちる奴が多すぎるんだよな……。


 宮桜姫みやざきは意外な事にそこそこ体力があるし、体力テストもギリギリだが合格点を出している。


「来年の受験生は大変だろうが、俺達の方の問題は明日の石像回収作戦だぞ」


「重機はすでにレンタルしてあるし、特殊弾の方もグレード五を揃えてある。今回は小型GEライトタイプがほとんどだし、問題ない筈だ」


「問題ないどころか、十分でんな。小型GEライトタイプ相手やとオーバーキルもいい所やで」


「安全な方がいいに決まってるよ。グレード五だと確実に一撃だからね」


 俺が撃てばそのまま拠点晶ベースも破壊できるしな。


 試作型次世代トイガンがあればこその作戦だが、あれは使う人間次第で威力が変わる代物だ。


 平均的な威力を考えても心強い武器なのは間違いないが、その代償が生命力ライフゲージなのが割と大問題なんだよな。


 俺の使う特殊小太刀もそうだが、自分の生命力ライフゲージと引き換えにする戦術はあまり感心できない。


 ワンミスで窮地に追い込まれる事もあるだろうし、チャージする生命力ライフゲージの量にもかなり個人差があるからな。


 そのあたりが改善されれば心強い新兵器なんだけど、今のところは防衛軍特殊兵装開発部の坂城さかきの爺さんに頑張って貰うしかない。


「とりあえずテストの事は忘れて、明日の作戦を練ろうぜ」


「テストが返ってくるのは連休明けか。本当に夏休み前だな」


「赤点は回避できただろうし、夏休みはどこかに行きたいものだ」


「キャンプとかいいかもしれないね。海か山?」


「それは良いですわね。この辺りですと海水浴が出来そうなところは何処ですの?」


「その話は明日の作戦後にしないか? キャンプが出来て海水浴も可能となると他の居住区域に行く必要があるし、そうなると最低でもいろんな場所に面倒な申請が必要だ」


 セミランカーですら居住区域を挟んでの移動はかなり制限される。ランカーだと更に日数や距離の制限が厳しいだろうな。


 理由は簡単。ランカーがひとり抜けただけでもその居住区域の戦力が激減するからだ。


 首都の様にランカーの数が多ければそこそこ緩いんだが、この居住区域にいるランカーは俺達だけ。その全員が一斉に移動するとなると難癖をつけて来るに決まっている。


 場所の選定と準備は進めておくが、あまりそっちに時間をかけると明日の作戦に影響が出そうだからな。


「了解だ。明日の作戦で他に必要な物はあるのか?」


「ボンベキャリーを改造した石像運搬用のキャリーは用意した。かなり大型だが、アレが無いと大変だからな」


「どんな姿で石化してるかも問題だ。運びにくい恰好じゃなければいいんだが……」


 安定しない形で石化して地面に横たわっていたりすると、起こして運び出すだけでも大変だ。


 周りの誰かと絡まるように石化している時もあり、その場合は数体纏めて運び出す必要もある。


 状況次第だとかなり乱暴に運び出す必要も出て来るしな。


「こんな形の依頼は初めてでんな」


あきらが普通は受けないからな。俺たちは運送業者じゃないし、何でも屋でもないんだ」


織姫おりひめヒカリからの依頼でなければ断っているところだ。断ると蒼雲そううんがうるさそうだが……」


「当然だ!! あきらが断った時は、俺達で依頼を受けてた所だぞ」


「お前も大概に無茶をするからな。アイドル関係の時は特にそうだ」


「そうやな。おうさんの事は言われへんやろ」


 窪内おまえもな~。


 普段は頼りになる奴なんだが、一部のゲーム機の事に関しては神坂以上に面倒を起こしてくれる。


 最近では有り余るポイントをフル活用してネットでオークションに出されたレトロゲーム機なんかを買いあさり、寮の自室に入りきらないからといって部室の一角を専用の倉庫に改造しやがったしな。


 大型倉庫横のゲームコーナーとはもちろん別だ。


 そのゲームコーナーも現在かなり拡大し、今までは手が出なかった大型筐体まで絶賛稼働中となっている。


「今回は純粋な人助けだからいいだろ?」


「そうじゃなけりゃ、流石に俺も依頼は受けない。あそこの拠点晶ベースを破壊する必要があったのは間違いないんだが」


「渡りに船っちゅうか、一石二鳥やね」


「依頼料も入るんだよね?」


「お気持ち程度にな。直接依頼してきたのは外部に何かを知られたくないからだろうし、そうなると対GE民間防衛組織事務局経由の正式な報酬は入らない」


「いいじゃないか。織姫おりひめヒカリからの依頼だぞ。それだけで受ける価値がある!!」


「それは否定しないがな。アイドルたちの歌で心を救われた人も多いだろう」


 絶望に刺す一筋の光。


 明日に踏み出す為の一歩を後押ししてくれるその歌声に救われた人は多い。


 神坂もその一人だしな。


「流石にわかってるな。石像の引き渡し時に少し話をするくらいは……」


「常識の範囲内だったら問題無いぞ。特典の色紙に直筆のサインくらいは見逃してやる」


「マジか!! 今回のお前は神対応だな」


「なんかいい事でもあったんでっか?」


「正規の報酬が無い分、部隊員が幾らかいい目を見てもいいだろう? そんなところだ」


 正直なところ、織姫おりひめヒカリには色々聞かなきゃいけない事もあるしな。


 その為には依頼の石像を入手する必要がある。


 その後で何が待っているかは分からないが、出来れば穏便に済んで欲しいもんだな。

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