第四十二話 救出劇の裏側


 七月七日の木曜日。現在時刻は午後七時五十七分。


 この日の活動で既に五つの拠点晶ベースを破壊していた俺は次の目標にしていたKKI一三七地点の拠点晶ベース破壊作戦を申請しようとして、その周囲の状況に違和感を覚えていた。


「あまりに紅点が多いからKKI一三五地点の拠点晶ベース破壊は無理だと思ったんだけど。ものすごい数の紅点が移動してる? これは何処かの部隊を襲っているのか?」


 俺は直ぐに作成申請している部隊を突き止め、最新式のレーダー内蔵型ゴーグルの表示に【友軍】を示す緑色の点を表示させた。


 これはリングの機能とAGE許可証を使ったシステムを流用しており、石化した住人やAGE隊員などは灰色で表示されるようになっている。


 表示されたのが緑色という事は、襲われている部隊はまだ無事って事だな。


「GEに追いかけられているのは桃ヶ峯ももがみね女子高等学校のAGE部隊桃色戦天使ピーチ・ヴァルキリーで緑点の数は全部で十四。緑点が六つ重なってるという事は誰か二人行動不能になっているのか……」


 行動不能になった隊員を見捨てずに脱出しようとしているこの部隊の隊長には感心するが、そして同時に呆れてもいる。


 その二人を戦場に置き去りにすれば、まだ無事な十二人だけでも走って逃げる事が可能だろう。


 部隊が全滅するよりは多少の犠牲を払っても出来るだけ多くの隊員を退却させる。それが対GE民間防衛組織が推奨する普通の優秀な隊長の判断だ。


 多くの部隊ではその冷たい方程式の元に、涙を流しながら動けない隊員を置き去りにして退却可能な隊員だけを助け出す事が多い。


 俺としてもこの隊長と同じ行動をとっただろうが、こんな状況に陥らない様に幾重にも手を打つのが一番重要な隊長の仕事だ。


「追われている部隊がこのまま逃げれば、安全区域に向かうにはKKI一三七地点の拠点晶ベースが邪魔だな。先に破壊しておくか」


 俺は急いでKKI一三七地点の拠点晶ベース破壊作戦の申請を行い、がら空きになった拠点晶ベースをいとも簡単に破壊した。本来防衛にあたっている筈のGEまであの部隊を追いかけていたからな。


 そしてそのままKKI一三五地点の拠点晶ベースの近くに潜伏して、状況が変わるのを気長に待った。


 今はまだ、かなりの数の紅点が拠点晶ベースからほど近い場所に留まっている。


 がすべて迎撃に向かえば、ここ数日紅点の数が多すぎて破壊を諦めていたKKI一三五地点の拠点晶ベースを破壊できるかもしれない。


 そう考えての行動だが……。


「動いた……」


 桃色戦天使ピーチ・ヴァルキリー達が予想以上に反撃を続けていたせいか、残された紅点も全て動きだして包囲を開始している。


 GEに包囲殲滅作戦を行うだけの知能があるかどうかは謎だが、ただ単にGEが集まった形が包囲しているように見えているだけなのかもしれなかいがな。


「これで今週末にはKKI〇〇五を攻略できる。後はこの邪魔な作戦を撤回してくれたら……」


 今すぐ拠点晶ベースを破壊してスリル満点の追いかけっこから解放してやりたいところだが、それが出来ない理由がある。


 こんな状況であっても、拠点晶ベース破壊の優先権などを主張する部隊もあるからだ。


 部隊行動で拠点晶ベース破壊などの作戦が失敗した時には速やかに作戦を撤回するか、もしくは作戦失敗での破棄のどちらかをする必要がある。


 そうでなければ優先権などの問題でトラブルになるからだ。


 雨や強い風が吹いている時は特殊エアガンの力を発揮しにくい為に作戦の延期申請をする場合もあるが、その時にはあとから申請して順番待ちをしている部隊などに優先権が移る事も多い。


◇◇◇


 運命の午後八時十七分、作戦を申請していた桃色戦天使ピーチ・ヴァルキリーが作戦失敗の報告と救助要請を行った。


 救助要請をする場合は作戦を破棄では無くて失敗として報告する必要があるが、作戦失敗で申請を取り下げる部隊はかなり少ない。


 作戦破棄の場合は部隊の状況が緊急事態だと判断されにくいから救援要請を出しにくいんだが、作戦失敗で対GE民間防衛組織に報告をすると武器や特殊弾などの申請が少し通りにくくなり、何度も作戦を失敗し続けると其処の部隊長がブラックリスト入りして作戦登録時の優先順位がかなり下げられたりもする。


 その為に作戦失敗で救援要請を行うという事はかなり危険な状況に陥った場合に限られるんだが……。


「素直に失敗で報告を上げて来たか、救助要請受諾っと。後はKKI一三五地点の拠点晶ベース破壊作戦の申請だ」


 AGE事務局にKKI一三五地点の拠点晶ベース破壊作戦の申請を行い、すぐにKKI一三五地点の拠点晶ベース破壊に向かった。


 畑跡に生えている拠点晶ベースには僅かであるが傷が付いていたから、特殊ランチャーじゃ無くて特殊小太刀系の武器で攻撃したに違いない。


「うちの居住区域にもあの放送で行けると思った馬鹿がいたのか。そんなに簡単に特殊小太刀あれが使えるなら、この辺りの拠点晶ベースなんてとっくの昔に全部壊されてるぜ」


 といっても、最近の俺は試作型次世代トイガンの方が利用率高いけどな。


 試作型次世代トイガンに生命力ライフゲージは既にチャージしてあるので、そのまま正面にある拠点晶ベースを撃ち抜いた。


 このチャージと呼ばれる機能も本当はどうやって内蔵した装置に生命力ライフゲージを使用した攻撃用のエネルギーを充填しているのかはハッキリとは分かっていない。


 特殊兵装開発部の坂城の爺さんに以前質問をしたことがあるんだが、なぜか爺さんもどうしてチャージ機能が作動しているか知らないって答えやがったしな。


 そんな分からない物を渡されても困るんだが、これが俺の切り札である以上は使わざるを得ない。


 チャージ機能を使って一部の回路のエネルギーを貯めて解放すると、チャージをした人にもよるが凄まじい攻撃力を発揮すると言う事だけが分かっている。


 特殊小太刀のトリガーを引いてバースト機能を使えるのは俺だけっぽいけどな。


 試作型次世代トイガンにもチャージ機能を付けたって事は何かわかったのかもしれないが、試作型ってわざわざ書いてあるって事はやっぱりあまりわかってないのかもしれない。どうでもいいけどね。


「破壊完了。しかしこの試作型次世代トイガン、本当にチャージしただけで拠点晶ベースの破壊ができるんだな。今日は七つも拠点晶ベースを破壊したのに最初にチャージした十だけで全部壊せたし」


 これだけ使っているのに横のメモリ残量は半分近く残っている。


 何というか日に日に横のメモリの消費量が減っている原因は、窪内がパーツを変えて調整しただけじゃない気がするんだが……。


 しかし、特殊小太刀を使わずに拠点晶ベースの破壊が出来るのは本当に助かる。


 今までの特殊小太刀でこれだけ拠点晶ベースを破壊すれば、トリガーを使って最低でも五十は生命力ライフゲージを消費していた。途中で経口型の生命力ライフゲージ回復剤を飲まなければいけないレベルだ。


 先日送って貰った新型の特殊小太刀はかなり性能がいいが、それでも試作型次世代トイガンよりは効率で劣る。


 トリガーを引いてバーストさせるとチャージしていた生命力ライフゲージは一瞬でなくなるが、試作型次世代トイガンを使えばその心配はない。


 その為に今までであればこんなバカげた作戦など出来る筈も無かったんだけど、試作型次世代トイガンのこの異様な生命力ライフゲージ消費量がこのバカげた作戦を可能にしているんだよな。


「後は対GE民間防衛組織の救助部隊に、この部隊の回収要請を出しておくか。どんな手段でここまで来ていたのかは知らないけど、こんな夜道を歩いて帰る必要も無いだろうし」


 対GE民間防衛組織の救助部隊は俺の名を聞いて緊急事態発生と判断したみたいだけど、救助が必要なのはうちの部隊じゃなくて桃色戦天使ピーチ・ヴァルキリーの隊員なんだけどね。


 ああ、一応居住区域からに現場に向かえる経路は説明しておくか。


「という訳で道中にある拠点晶ベースは全て破壊済みですので、これで市道を使った抜け道がすべて使えます」


「流石はランカーズ、これで色々楽になります。回収地点は何処でしょうか?」


「KKI一三五にあるコンビニ跡地です。救助が必要な人数は十四。二人行動が難しい者が居ますので、後部に少し広めの収容スペースがあるタイプでお願いします」


「了解です!!」


 連絡先の救助隊員がどうもランカーズの誰かが行動不能になったと勘違いしている気はしたが、その方が早く駆けつけるだろうと思ってその誤解を解かずにいた。


 助けが必要な人間の地位なんて関係ないしな。


「さて、今回のKKI一三五の拠点晶ベース破壊が成功した影の功労者の顔でも拝みに行くか……」


 俺はKKI一三五のコンビニ跡地で助けを待っているであろう、桃色戦天使ピーチ・ヴァルキリーの元へと向かった……。

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