第四十一話 絶体絶命!! ピーチ・ヴァルキリー【応徳涼香視点】
私は
私たちが最初に犯したミスというのは、あのテレビ番組を見た事かもしれない。
番組に出演していたコメンテーターが、特殊小太刀を使えば簡単に
実際は違った。
私たちは何度も目にしていた【特殊小太刀を使いこなすには長い時間が必要だ】という対GE民間防衛組織の発表を無視し、手軽に五万ポイント程度で入手できる特殊小太刀を片手にこれで
「
「隊長、レーダーの紅点が……。周りを囲まれてます……」
「作戦の失敗をAGE事務局に報告。後、救援要請!!」
「こんな場所に助けに来てくれる人なんていませんよ……」
「それでも!! このままここで石像になんてなりたくないでしょ!!」
二年で副隊長の
二十程度でも急激に失えば体調を崩す事もあるんだけど、一気に五十以上失った二人は気を失ってはいないものの、すでに自分の足で歩く事すらできなくなっている。
残りの隊員で左右に一人ずつ支えて、残りの八人で迫り来る無数の
最大の誤算は中途半端に
「たいちょ……う、私は此処に置いて、逃げてください」
「馬鹿な事言ってるんじゃないわ。逃げる時はみんな揃って逃げるの!! 私達は誰も置いてなんていかない」
「でも。このままじゃ……、みんな……石……に……」
私はそういいながらも内心では迫り来る紅点の数に戦慄していた。
レーダーに映る紅点の数は更に増し、
私たちは何とか
正直に言えば、これをグレード三程度の保有数も乏しい私達だけで何とかしようなど無理難題も良い所だった。
私たちがメインに使っているのはグレード二、これでも数発当てれば
問題は周りに押し寄せてきている馬鹿げたGEの数だ。こいつらを全て倒しきるには今持っている弾が百倍であっても可能かどうかが分からない。
「私があんなことを言い出さなければ……」
「アンタの所為じゃないわよ。私だって百万ポイントも入ったらひとり十万ポイント近く貰えますね~。何買おっかな~、なんて言っちゃってたし」
「命はポイントじゃ買えない。分かってた筈なのに……」
といつても、今私たちを支えているのはそのポイントで入手した特殊弾なんだけどね。
無制限にグレード三の特殊弾を使う事が出来れば、何とか私たちだけでもこの場を切り抜けられる。
でも現実はそう甘くはない。
周りから迫りくる
「でも、どうして一斉に襲ってこないんでしょうか?」
「たぶん
「特殊小太刀がですか?」
「ほら、これを抜くと一瞬あいつらが一斉に距離をとるでしょ。よっぽどこれが怖いんだと思うわ」
多分それはあの人のお陰。
特殊小太刀を片手に
この状況もその活躍をオーバーに伝えたテレビ番組のせいなんだけどね!!
「こんな所で冷たい石に変わるなんて絶対にイヤッ!!」
「
一年の
泣いてもいいわ。
私たちが生き残るには最後の一瞬まで決してあきらめず、一匹でも多くのGEを倒すしかないの。
「絶体絶命の私を助ける為に白馬に乗った王子様が颯爽と現れて、そこで私は素敵な彼と運命的な出会いをして……。こうして恋人を作った私は遊園地でデートした後におしゃれなレストランでディナーを食べて、夜景が見える素敵な部屋で薔薇を敷き詰めたベットで愛を語りながら優しく初めてを……」
「
「あ~、いいじゃないですか。うん、夢を見るのが必要な時もありますよ」
「遊園地なんていま日本には二ヶ所しかないし、そこでデートなんて……。それに、今現在稼働中の遊園地の近くに夜景が見えるホテルなんて無いですよ~」
「な・ん・で、そんなこと知ってるのよ!!」
「誰でも一度位そんな恥かしい妄想するものだって。現実はそこまで甘くないけど~♪」
梓沙の発言に乗る形で周りにいた隊員が好き勝手な事を言っていた。
後日改めて聞けば悶絶級の発言はひとまず置いておいて、特殊小太刀を手にしている他の隊員は銃弾を少しでも節約する為にそれを振るって
一応チャージすれば
「この特殊小太刀、チャージ機能って言っても刃が光るだけで
「その状態で
「トリガーは引いちゃダメよ。それを使うと一気にチャージした
「それでも
使いこなすには長い時間がかかる特殊小太刀で戦えている時点でおかしいんだけどね。
確かに私たちが下手にチャージなんてしたら一気に二十くらい
それでもやっぱりこれは強力な武器だ。
万が一の時のお守りくらいで考えればだけど……。
「隊長!! もう弾が……」
「こっちもです……」
ついに恐れていた時が来たみたい。
動けなくなってた
サブウエポンであるハンドガンを取り出し、最後にそれでGEを倒してる子もいるけど……。
「私達、もう……ダメなの? 最後にコレで……」
「ん? 今の音はもしかして!!」
この時、十四人の隊員全員が敗北を悟っていた。
人知れぬコンビニ跡地で私たち全員が冷たい石の像へ姿を変え、
「隊長!! 救援要請に応じた人が……」
「そんな部隊なんて何処にもいないじゃない!! 冷かしよ!!」
周りには部隊の影は無く、特殊トイガンの発射音も聞こえてこない。それにこの時間であれば見える筈のライトの光すら見当たらなかった。
全滅しそうな部隊の救助要請にわざと申請して、残された
私達の場合は窮地に陥ってから救助要請を出す時間があまりにも遅かったから、時間的に居住区域から応援に駆け付けた他のAGE部隊が間に合うとは思えないし。
「もうひとつ……、KKI一三五地点の
「ぜ~ったいに冷かしの嫌がらせだって。私達が作戦に失敗したから誰かがあてつけに作戦を申請したんだわ」
「隊長、もう、駐車場内にGEが……」
KKI一三五はついさっき私たちが攻撃を加えた
「で、何処の誰よ? そんな嫌がらせをするの」
「え? ……嘘!!」
端末に表示された所属部隊名と申請許可をだした個人名を確認した隊員が口を押えながら絶句していた。
なるほど、そういう奴らね。
「どうしたの? 守備隊の中でも悪名名高い
こいつらだったら嫌がらせにこういう事をする可能性は高い。
明日の朝早くからこの辺りを監視して、GEが居なくなった頃合いでそこら中に転がっている
「ラ……ランカーズ、
「え? うそっ!! でも、何処にも人なんて」
その時、駐車場内に足を踏み入れた
初めは数体だった自壊は次第に視界を埋め尽くしていた全てのGEに波及して、おそらく千近く存在していたであろう
それは現実味の無い光景だった。
さっきまで私たちに襲い掛かっていたGEが突然姿を消し、その
「GEが……消え……た……」
「たすかった……の?」
「あんなに居たGEが……」
現在時刻は午後八時五十二分。夜の帳が下りた田舎のコンビニ跡地には街灯の明かりすらなく、夏の生温い風だけが車が通らなくなって久しい道路を吹きぬけている。
小型タブレットのレーダーからひとつ残らず紅点が消滅し、少し遠回りではあるが安全区域まで引き返せるルートも確認できた。
「あ、またメールが……。KKI一三五地点の
「
その数分でここに駆け付けるより
噂通りの凄い人だけど……。
「助かったからって贅沢をいうみたいだけど、ここから歩いて帰るのはきついわね」
「私たちを……、後で回収しますか?」
「ん~、それも一つの手段だけど、やっぱりみんなで無事に帰りたいじゃない」
でも、私は二人を抱えて帰ってでも全員で無事に戻りたいの。
「この音……、バイク?」
「あ、向こうから誰かが来ます」
そのバイクは駐車場前に止まり、特殊装備に身を包んだ一人のAGEが私達に近づいてきた。この人が誰かなんて、名乗られるまでもなくここに居る全員が気が付いている。
被っているヘルメットはバイク用を改造した装備だろう。きっとあそこに表示される情報だけで私たちの窮地を知ったんだわ。
彼はヘルメットを脱ぎ、それを左脇に抱えて話しかけてきた。
うわぁ、雑誌で見た事があったけど、こうして実際に見たら信じられない位にかっこいい!!
私だけじゃない。他の隊員が全員ひとことも口に出せずに魅入ってるみたいだし……。
「要請を引き受けた者だけど、救援要請をした
「あ……はい。
私は敬礼をして礼を言ったけど、その間に彼は全員の左手に装備されたリングの色を確認しているみたいだ
流石にできる部隊長は動きに無駄が無い。
こんな形だけのあいさつより、隊員の事の方を心配してくれるなんて……。
「その奥の二人、リングの表示がオレンジじゃないか。後どのくらい残っているんだ?」
リングの表示はダメージを受けて
オレンジでも市販薬や一般AGEが購入や申請が可能な回復薬ではほとんど役に立たず、セミランカーやランカー用の特殊な回復薬でないと大きく回復させる事は難しい。
病院に運び込めば特殊な点滴などで回復させる事も可能だけど、保険が効かない為に非常に高価で私たちの様な学生AGEでは支払い切れない場合も多いと聞く。
「
「まだ
彼はタクティカルベストの胸ポケットから二本の飲み薬を取り出し、綿の目の前に差し出してきた。
小さな細い特殊プラスチック製のスティックに入ったそれは黄金色に輝いており、栄養剤系のドリンクに金粉か何かでも混ぜられているかの様だ。って、そうじゃなくて!!
「でもそれ、物凄く希少で高価だって……」
「自分の部隊の隊員の命より高い薬があるのか? 隊長だったらそんな事は気にせずに黙って受け取っておけ。俺は金なんて受け取ろうとは思わないしな」
一本百万はする回復剤を見ず知らずの誰かにあげられる人なんているの!!
強くてかっこよくて優しい人……。
ああ、こういう人がランカーになれる人なんだ。
「そうそう、此処から徒歩での退却は難しいだろうから俺の独断で対GE民間防衛組織の救助部隊に回収を要請しておいた。もうすぐ此処に迎えが来るはずだ」
「え? でも、この先のKKI一三七にもうひとつ
市道を分断するように存在していた
その
「そんな
「存在しないって、まさかその
「確認しました、破壊されてます……。破壊したのは」
「いったいどうやって?」
「あ、向こうから大きな車が来ます」
青一色に白い十字が付いたAGE回収用の輸送バスがコンビニ跡に近づいてきた。
地面に散乱しているオハジキ大の
アレを私たちの物だ~っていうほど、私の面の皮は厚くない。
「負傷者の回収、および輸送要請で来ました。ランカーズの凰樹さんは何処ですか?」
「ここです、すみませんが回収は彼女達を頼みます。俺は
「あの、回収が必要なのは私たちです」
彼は回収に訪れた救助隊員が分かる様に乗ってきたオフロードバイクを指さし、それに向かって歩き始めた。
ダメ、せめてもう一言お礼を……。
「あ……あの、ありがとございました」
ああっもう、緊張してこれ以上話せない。
心臓はうるさいくらいに鼓動してるし、たぶん顔は真っ赤になってるんだろうな……。
「どういたしまして、……もう無茶な作戦はやめておけよ。じゃあな」
彼は軽快な動きでバイクに跨ってエンジンをかけると周りに散乱する低純度の
私たちは救急隊員に声をかけられるまで、彼が消えた道路の先を見つめていた。
もう無茶な事はこれっきりにして、今まで通りに地道に
私たちは、あんなヒーローにはなれないから。
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